おもわく。
おもわく。

※2020年5月の放送は、2019年5月に放送したシリーズです。

日本古典の中で老若男女を問わず誰も知っている作品といえば「平家物語」。「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり」という有名なフレーズを学校で暗記させられた人も多いはずです。単に古典作品としてだけでなく組織興亡の写し絵として読まれることも多くなった「平家物語」ですが、「ハブ(中心軸)」「光と闇」といった概念を使って一歩深く読み解くと、現代社会を生き抜くヒントの宝庫となります。そこで「100分de名著」では、「平家物語」に新たな視点から光を当て、価値観が大きく揺らぎつつある現代とも比較しながら、乱世を生きる知恵を学んでいきます。

「平家物語」は、鎌倉時代に成立したとされる軍記物。元々武士階級だった平家ですが、平忠盛が寺社を寄進したことを契機に昇殿を許され繁栄への階段を駆けのぼります。後継者・清盛は着々と天皇家との姻戚関係を結び、国家の人事権をほしいままにするまでに。最初は平家の力を利用していた後白河法皇は、平家の増長ぶりに怒りクーデターを起こしますが失敗し、最終的には幽閉されます。天下をわがものにしたかに見えた平家一門ですが、清盛の病死によって坂を転がり落ちるように没落していきます。そこには、繁栄への驕り、源氏勢力台頭の軽視、天地自然の流れの見誤りがありました。平家は、京を追われ、浮草のように西国や瀬戸内海を漂い、やがて壇ノ浦へと追い詰められ、源氏との最後の海戦を挑むのでした。

平家の栄華と没落のすべてを描きつくした「平家物語」ですが、平家一門や彼らと対立する人々が、一族や組織の存亡を賭けてしのぎを削る姿には、「人間関係の築き方」「組織興亡の分かれ道」「失敗から学ぶべきこと」等々…今を生き抜く上で貴重な教訓にあふれています。また、興亡を分けるのは、天の利、地の利、時の利など、さまざまな要因を見定めることが重要だということも教えてくれます。能楽師の安田登さんは、一族、組織の興亡を描ききった「平家物語」は、人間学や組織論、歴史に対する洞察などのヒントの宝庫であり、混迷を深める現代社会にこそ読み返されるべき名著だといいます。

個性あふれる登場人物たちが、それぞれの野望を胸に抱きながら、知略、情念、情愛をからみあわせながら、せめぎあう歴史を描いた「平家物語」を、現代社会と重ね合わせながら読み解き、厳しい現実を生き抜く知恵を学んでいきます。

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第1回 光と闇の物語

【アンコール放送】
2020年5月4日(月)午後10:25~10:50/Eテレ
【アンコール再放送】
2020年5月6日(水)午前5:30~5:55/Eテレ
2020年5月6日(水)午後0:00~0:25/Eテレ
【放送時間】
2019年5月6日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2019年5月8日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2019年5月8日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
安田登…能楽師。「あわいの力」「日本人の身体」等の著作で、古典と現代の問題を架橋する著述活動も展開している。
【朗読】
安田登
【琵琶演奏】
塩高和之
【語り】
小口貴子

なぜ平家は短期間に歴史の表舞台へと躍り出ることができたのか。貴族階級を中心に安定した秩序を保ってきた平安期だが、天皇家、宗教界、武士階級、庶民階級と、各勢力が著しく力を蓄え、力の均衡が崩れつつあった。「平家物語」を読み進めていくと、各勢力すべてをつなぐハブ(中心軸)の位置を平家がになおうとしていたことがわかる。彼らは各勢力の中心を占め全体を動かす主導権を握ることで勢力を拡大していったのだ。平家がその際に利用したのは貴族がもちえなかった「闇の力」だった。第一回は、「平家物語」の基本構造を学びながら、組織や人間集団が興隆していく条件を読み解く。

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第2回 驕れる者久しからず

【アンコール放送】
2020年5月11日(月)午後10:25~10:50/Eテレ
【アンコール再放送】
2020年5月13日(水)午前5:30~5:55/Eテレ
2020年5月13日(水)午後0:00~0:25/Eテレ
【放送時間】
2019年5月13日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2019年5月15日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2019年5月15日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
安田登…能楽師。「あわいの力」「日本人の身体」等の著作で、古典と現代の問題を架橋する著述活動も展開している。
【朗読】
安田登
【琵琶演奏】
塩高和之
【語り】
小口貴子

各勢力のハブとして繁栄を築いた平家。しかし、絶頂にあるおごりから、自らこの関係を崩していく。福原遷都だ。勢力均衡の要の役割を切断してしまうことで、平家は自分たちを支えた「闇の力」を失っていく。逆に、源氏は、地の利、天の利を見事に使いこなし、富士川の戦いでは戦わずして平家を追い払うことに成功する。かつて平家を有利にした「闇の力」は、いまや源氏のものとなった。遷都の失敗を悟った平家一門は再び京に戻るが、追い打ちをかけるようにリーダーの平清盛が病死する。第二回は、平家がおごりによって衰亡の原因をつくっていく様を見つめ、その失敗に学ぶ。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:安田 登
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第3回 衰亡の方程式

【アンコール放送】
2020年5月18日(月)午後10:25~10:50/Eテレ
【アンコール再放送】
2020年5月20日(水)午前5:30~5:55/Eテレ
2020年5月20日(水)午後0:00~0:25/Eテレ
【放送時間】
2019年5月20日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2019年5月22日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2019年5月22日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
安田登…能楽師。「あわいの力」「日本人の身体」等の著作で、古典と現代の問題を架橋する著述活動も展開している。
【朗読】
安田登
【琵琶演奏】
塩高和之
【語り】
小口貴子

新たな勢力として京を脅かす木曾義仲。平家一門は、宗盛の判断で、京を捨て瀬戸内海を漂う流浪の民と化す。一方、入京した義仲は礼儀や教養が一切なく他勢力の信頼が全く得られない。部下たちの乱暴狼藉も重なり人心は義仲から離れていく。後白河法皇は新たなハブとして源頼朝を征夷大将軍に任命、義仲討伐を果たさせる。義仲と平家の衰亡は、合わせ鏡のように組織が衰亡していく原因を炙り出していく。第三回は、衰亡していく組織には何が足りなかったかを考える。

安部みちこのみちこ's EYE楽しんでいいんだ!
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第4回 死者が語るもの

【アンコール放送】
2020年5月25日(月)午後10:25~10:50/Eテレ
【アンコール再放送】
2020年5月27日(水)午前5:30~5:55/Eテレ
2020年5月27日(水)午後0:00~0:25/Eテレ
【放送時間】
2019年5月27日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2019年5月29日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2019年5月29日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
安田登…能楽師。「あわいの力」「日本人の身体」等の著作で、古典と現代の問題を架橋する著述活動も展開している。
【朗読】
安田登
【琵琶演奏】
塩高和之
【語り】
小口貴子

一の谷、屋島の戦いと次々に敗退し、平家一門は最後の決戦上、壇ノ浦へと追い詰められる。そこでは個々の人々の最期が克明に描かれる。八歳の若さにして悲劇の死を遂げる安徳天皇、優柔不断と親子の情愛により生捕にされた宗盛父子、全てを俯瞰し洞察していたが何もできず「見るべき程の事は見つ」といって自害する知盛。それぞれの最期は、平家一門の中に必要だったが生かすことができなかった大事なものを浮き彫りにする。そして「平家物語」は、そんな死者たちの姿を克明に描くことで彼らの魂を鎮めようとする物語だということも見えてくる。第四回は、ラストシーンを通して、死者たちが私たちに伝えてくれるメッセージを読み解く。

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○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
『平家物語』 2020年5月
2020年4月25日発売
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こぼれ話。

「語りの空間」を立ち上げる!

「光の貴族」VS「闇の武士」

このキーワードを安田登さんから最初にいただいたとき、戦慄のようなものを感じました。一瞬、自分の中でわだかまり続けていた「平家物語」をどう読めばよいかという視角がばっと開けたような気がしたからです。「富士川の戦い」「倶利伽羅峠の戦い」といった名シーンがフラッシュバックし、「そうか、戦いを決したのは『闇の力』だったんだ」というイメージがわっと脳内に広がりました。

「平家物語」はずっと取り組んでみたい古典でした。しかし、自分の中で「いったい誰に解説してもらったらいいのだろう」という迷いがずっとありました。もちろん専門の研究者にお願いする手もあります。しかし、自分の中で、「この名著は、テキストとして読むというよりも、圧倒的に『語り』によって豊かなになる物語だ」という直観がありました。

厳密なテキスト・クリティークではなく、豊かな「語り力」によって、視聴者の皆さんの中に想像力の空間を立ち上げられる「語り手」。そんな人を見つけることが「平家物語」の本質的な魅力を伝えるために最も大事なことだといつしか思うようになり、ずっとそんな講師を探し続けていたのです。

本当に大切な人は、こちらからいくら探してもみつからない……というのが人生の理(ことわり)です(笑)。ほぼ諦めかけていたころに、ひょんなことから「その人」は現れました。きっかけはいくつかあります。共通の知人である宗教学者の釈徹宗さんから「安田登さんという人は『怪人』ですよ。途方もない面白さをもった人で一度お会いになったほうがよいと思います」と助言をいただきました。またほぼ同時期に批評家の若松英輔さんからも、安田登さんという人間の面白さについて、雑談の中でお聞きしていました。私自身も「日本人の身体」という著作は以前から愛読していましたし、思想家・内田樹さんとの対談本「変調 日本の古典」も興味深く読んでいる最中でした。いろいろな偶然が重なり、私の中で「お会いするタイミングは今だな」と思ったのをよく覚えています。

つまり、安田さんにお会いしようと思ったのは、最初から「平家物語」の講師をやっていただこうという意図からではなく「とにかく面白そうな人だから会ってみよう」ということだったのです。ですから、最初に安田さんとのお話の中で候補に挙がったのは、中国の古典「中庸」でした。これはこれでとんでもなく面白そうなお話だったのですが(なので、いずれ挑んでみたいとは思っていますが)、もっとメジャーどころでいうと何が解説できますかと問いかけた後、しばらく沈思黙考した後、安田さんの口からぽろっと出たのは「平家物語」だったのです。

意外な名著が飛び出してきたので、その瞬間はびっくりしたのですが、よくよく考えると、「平家物語」は「能」の題材に最も数多く使われている作品。能楽師である安田さんがその世界を奥深く知悉しているのは当たり前です。また、何度も打ち合わせをする中で、安田さんからあふれ出る「語りの力」に圧倒されました。その代表が冒頭に挙げた「光の貴族」「闇の武士」というワーディングだったのです。この人こそ、「平家物語」の魅力を語る語り手として私がずっと待っていた人だ、とそのとき直観しました。

安田さんの語りの特徴は、一言でいうと、「リズム」と「身体性」。安田さんの語りの流れの中に身をゆだねていると、音や触感、映像といったものが、受け手の身体性を通じて立ち上がってくる。もちろん概念的な解説もしてくださっているのですが、こうした特徴ゆえに、聞いている人の脳内に登場人物たちの生き生きとした姿が動き出し、「語りの空間」「想像の空間」が立ち上がっていきます。打ち合わせの段階でこうですから、きっと視聴者の皆さんにも、この安田さんの「語りの力」の凄みは伝わったのではないかと思います。

安田さんの希望で、アイデア段階のブレインストーミングは4回を数えました。正直、この打ち合わせ、ずっと続けていたいなと、終わるのが惜しいくらいでした。そこで出たアイデアのことごとくが収録本番に噴出しています。ディレクターの発案による、安田さん自身による「平家物語」原文の朗読と塩高和之さんによる琵琶演奏も、「語りの空間」の立ち上げに大いに貢献しました。時間の関係でどうしてもカットせざるを得ない部分も多々ありましたが、もし物足りなく感じた方々はぜひテキストもお読みください。

スタジオに「語りの空間」を立ち上げる……「平家物語」のシリーズは、安田登さんのおかげで、私の中でのスタジオ番組の理想の形の一端が実現したシリーズになりました。この体験を契機に、番組における「語り」の重要性をこれからも深く考えていきたいと思っています。

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こぼれ話。

『平家物語』ディレクターのおもわく

番組にとっても久しぶりの日本の古典で、朗読をどのように演出するかは考えどころでした。名著のディレクターは、その作品を読むのにもっとも相応しい方は誰だろうかと考えるのが毎回楽しくもあり難しくもあり、なのですが、今回は当初俳優さんで探していて「この人なら」という人をなかなか見つけられませんでした。なにせ、古文です。得意な人はあんまりいません。といって、現代語訳を読むのでは、音やリズムの魅力、という安田登さんのお話の核の部分を体験することができませんし、文章を味わってこその『名著』ですから、古文を正しく読んで頂かなくてはなりません。
古典の朗読をされている方?アナウンサー?など色々考えあぐねている時に、ふと「あれ?安田さんにやってもらえばいいのでは?」と思い至りました。安田さんは能楽師。日頃から『平家』の世界を謡うのが仕事です。なぜすぐに思いつかない?と思われるかもしれませんが、講師が朗読者も兼ねる、というのは実は名著「初」の試みだったのです。まさか自分が朗読までやるとは想定していなかった安田さんに「安田さん以外にできる方がいないんです」と泣きついて(実際そうでした)、お願いすることに成功しました。
では、朗読をどのように演出するか。『平家物語』は盲目の琵琶法師によって語り継がれてきた文学ですから、琵琶の音色は是非とも欲しいところ。以前NHKBS2で放送していたクラシック音楽の魅力を解説する『名曲探偵アマデウス』という番組を作っていた時、武満徹の『ノヴェンバーステップス』(西洋のオーケストラと日本の尺八と琵琶による現代音楽の傑作です)を取り上げたことがあり、琵琶については多少知識があったつもり、でしたが、今回あらためて『平家物語』を語る琵琶について調べたところ、一筋縄ではいかないことが分かりました。『平家物語』の時代に貴族たちが使っていたのは「楽琵琶」で、楽器としての琵琶。その後鎌倉時代に入る頃には、それをコンパクトに改造した「平家琵琶」が登場。これを琵琶法師たちは弾きながら語っていました。ならば「平家琵琶」がいい、と思ったのですが、「平家琵琶」の音は小さく、朗読と合わせにくい。それに「平家琵琶」の語りで伝承されている曲はかつては200曲あったのですが今ではわずか8曲のみだそうで、しかもとてもゆっくりと語られるので番組の時間に収まらない。ということで今回は「薩摩琵琶」という近代になってから生まれた琵琶に。(『ノヴェンバーステップス』で武満徹が採用したのも薩摩琵琶。音量もあり「さわり」という琵琶独特の音色が魅力。初演時は鶴田錦史さんという名演奏家が担当されました。ちなみに楽器としては他にも「筑前琵琶」もあり、こちらも柔らかで素敵な音色です。)琵琶奏者の方は基本ご自身で語りもされるので、今回のような朗読の伴奏というお願いをお引き受けいただける方は限られている中、塩高和之さんに巡り合いました。塩高さんは元々ジャズギタリストから琵琶の道に入られた方。鶴田さんの孫弟子にも当たります。もしかしたら今回のようなお願いもできるのではないか、と淡い期待を抱きながら演奏会の会場に乗り込んで直談判したところ、幸い快くお引き受けいただけました。安田さんと初めて引き合わせたのは朗読収録の2週間前。ギリギリでしたが卓越したプロ同士、相性も素晴らしく数回の打ち合わせのみで今回の朗読の形ができていきました。
ということで、どうぞ番組オリジナルの謡と薩摩琵琶のコラボレーションをお楽しみください。アニメーションはいつも信頼を寄せているアダチマサヒコさん。今回も数々の名場面を素晴らしいアニメにしてくれています。

テレコムスタッフ ディレクター
羽根井信英

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