おもわく。
おもわく。

ヴィヴィアン・リー主演で映画化されて人気を博し、世界で今も読み継がれる名作「風と共に去りぬ」。もともとジャーナリストだったマーガレット・ミッチェル(1900 – 1949)が怪我の療養中に執筆し1936年に発表して以来、多くの人たちが今なお愛してやまない永遠のロングセラーです。「恋愛や友情の数奇さ」「どん底を生き抜く人間の力強さ」「本当の心に気づけない悲劇」といったさまざまなテーマを、克明な人物描写、心理描写を通して見事に描き出したこの作品から、現代人にも通じる生きるヒントや社会の見つめ方を読み解いていきます。

舞台は南北戦争前後のアメリカ南部。大農園主の長女スカーレット・オハラは、愛するアシュリの婚約を知り告白するも心を覆せません。当てつけに彼の婚約者メラニーの兄チャールズの求婚を受け入れます。ところが南北戦争の勃発はスカーレットたちの運命を翻弄していきます。チャールズの病死、アトランタへの移住、そして彼女のその後の生涯を左右するレット・バトラーとの再会。さらに、北軍の勝利は、スカーレットの家族と故郷タラをこれ以上なく荒廃させ、どん底の中で彼女は起死回生を誓います。生き抜くために金の亡者と化すスカーレット。数奇な運命の中、彼女はバトラーとの再会を繰り返し、二人はついに結婚します。しかし、その結婚は、更なる悲劇へと二人を追い込んでいくのでした。

近年「風と共に去りぬ」を新訳して話題を呼んだ鴻巣友季子さんは、この作品が巷間いわれているような単なる「ラブロマンス」などではなく、人生の本質を見事にとらえた洞察を読み取ることができるといいます。また、北軍再建時代を描いたパートは、一種のディストピア小説として読むことができるといいます。支配者の都合でルールがころころ変わり、不正選挙が行われ、内部で汚職が横行するアメリカ。トランプ政権樹立によって奇しくもあぶりだされた、アメリカの闇の部分や根深い同国民同士の分断が、この時代に起因していることを鮮やかに示してくれるというのです。いわば、現代人が誰しも考えなければならない問題が複合的にこめられている作品が、「風と共に去りぬ」なのです。

鴻巣さんに「風と共に去りぬ」を新しい視点から読み解いてもらい「どん底にあって人間が生きていくために必要なものとは何か」「私たちにとってアメリカとはどんな国なのか」といった現代人にも通じる問題を考えていきます。

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第1回 一筋縄ではいかない物語

【放送時間】
2019年1月7日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2019年1月9日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2019年1月9日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
鴻巣友季子…翻訳家、エッセイスト。「嵐が丘」新訳やノーベル賞作家・クッツェーの翻訳で知られる。
【朗読】
龍真咲(俳優)
【語り】
小口貴子
【声の出演】
仲井陽(アシュリ・ウィルクス、レット・バトラーほか)

大農園主の長女スカーレット・オハラは、愛するアシュリの婚約を知り告白するも心を覆せない。当てつけに彼の婚約者メラニーの兄チャールズの求婚を受け入れる。一部始終を見つめスカーレットに惹かれていくレット・バトラー。ところが南北戦争の勃発はスカーレットら全員の運命を翻弄していく。チャールズの病死、アトランタへの移住、そして怪しい男バトラーとの再会。スカーレットの恋心も状況の変化によってさまざまに変化していく。第一回は、作家ミッチェルの人となりや執筆背景も探りながら、スカーレットの心の変化を通して、人間の「一筋縄ではいかない物語」の謎を読み解いていく。

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第2回 アメリカの光と影

【放送時間】
2019年1月14日(月・祝)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2019年1月16日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2019年1月16日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
鴻巣友季子…翻訳家、エッセイスト。「嵐が丘」新訳やノーベル賞作家・クッツェーの翻訳で知られる。
【朗読】
龍真咲(俳優)
【語り】
小口貴子
【声の出演】
仲井陽(アシュリ・ウィルクス、レット・バトラーほか)

ついに北軍がアトランタへ侵攻。産気づいた親友メラニーの看護で逃げ遅れたスカーレットだったが、バトラーに救出される。途中戦線に参加するためにバトラーとは別れることになるが、彼のおかげで故郷タラへと帰還する。だが彼女を迎えたのは戦争によって荒廃した我が家と家族の姿だった。絶望的な貧困の中で起死回生を誓うスカーレット。しかし北軍の過酷な課税措置は彼女から家や土地を奪い去ろうとしていた。これまで描かれなかった正義の軍・北軍の暗部。それによってもたらされた深い分断。この作品は現代アメリカの闇や私たちの暮らす社会の暗部を映し出している。第二回は、戦争でもたらされた絶望的状況の描写を通して、現代アメリカが抱え込んだ根深い問題や私たちの社会が必然的に抱え込んでしまう闇の部分を照らし出していく。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:鴻巣友季子
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第3回 運命に立ち向かう女

【放送時間】
2019年1月21日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2019年1月23日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2019年1月23日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
鴻巣友季子…翻訳家、エッセイスト。「嵐が丘」新訳やノーベル賞作家・クッツェーの翻訳で知られる。
【朗読】
龍真咲(俳優)
【語り】
小口貴子
【声の出演】
仲井陽(アシュリ・ウィルクス、レット・バトラーほか)

税金を払わなければ故郷を奪われることになったスカーレットは、羽振りのいいバトラーを誘惑するが見透かされて拒否に合う。不幸に陥らないためには手段を選ばないと誓ったスカーレットは、妹から資産家の婚約者フランクを略奪。また事業を起こし金の亡者と化す。順風満帆だった彼女だが、秘密結社KKKと黒人たちとの抗争に巻き込まれ命の危険に晒される。やがてその事件は自分たち家族を悲劇に陥れていく。どん底の中で手段を選ばずに生き抜こうとするスカーレットの生き方は今も賛否が分かれる。ミッチェルはなぜこうした人物像や生き方を描いたのか。第三回は、作者ミッチェル自身の人生とも重ね合わせながら、運命に立ち向かうスカーレットの力強い生き方の「明」と「暗」を浮き彫りにしていく。

安部みちこのみちこ's EYE赤毛のアンの収録を終えて
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第4回 すれちがう愛

【放送時間】
2019年1月28日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2019年1月30日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2019年1月30日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
鴻巣友季子…翻訳家、エッセイスト。「嵐が丘」新訳やノーベル賞作家・クッツェーの翻訳で知られる。
【朗読】
龍真咲(俳優)
【語り】
小口貴子
【声の出演】
仲井陽(アシュリ・ウィルクス、レット・バトラーほか)

黒人たちに返り討ちにあい、夫フランクを失うスカーレット。失意にある彼女を救ったのはバトラーだった。数々の因縁を超えて結ばれる二人。しかしアシュリへの思いが捨てきれないスカーレットにバトラーはいらだつ。親友メラニーの遺言によってもう一度深い愛に気づくスカーレット。しかし、時期はすでに遅くバトラーは家を出て行ってしまった。このエンディングは必然だったのか。そして彼女に最後に残されたものとは? 第四回は、運命に翻弄されるスカーレットとバトラーの姿を通して、「本当の心に気づけない悲劇」「絶望の中でも人間を生かしていく力」といった現代人にも通じるテーマを考える。

アニメ職人たちの凄技アニメ職人たちの凄技
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○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
『風と共に去りぬ』 2019年1月
2018年12月25日発売
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こぼれ話。

「全身翻訳家」が解き明かす原典の魅力

鴻巣友季子さんとの出会いは、「翻訳対談」というタイトルで行われた、翻訳家の古屋美登里さんとのトークショーの会場でした。メモによれば2017年9月11日とありますから、もう一年半も前なんですね。

これまで研究者や作家を講師として招いたことはあるのですが、専門の翻訳家を呼んだことはついぞありませんでした。ただ翻訳文学好きだった私は、原文と取っ組み合い、その一つひとつの言葉の深い意味を探りながら格闘し続けている翻訳家の人たちがどのように名著を読み解くかには、かねてから大きな関心を寄せていました。

鴻巣さんの翻訳は、ノーベル文学賞のJ・M・クッツェーの諸著作や、古典ではエドガー・アラン・ポーの翻訳などで親しんでいたので、どのような語りをされる人なのかという興味でトークショーに参加したのをよく覚えています。期待にたがわず、ビビッドな語り口で魅了されました。確か、その感想をSNSでつぶやいたのをきっかけに、SNS上で鴻巣さんとのやりとりが始まったと記憶します。ぶしつけながら、鴻巣さん講師でポーの作品か「風と共に去りぬ」を解説いただけたらとのメッセージをお送りしたところ、興味をもっていただき、お会いすることになったのでした。

鴻巣さんが「風と共に去りぬ」を新訳したことを知ったのは恥ずかしながら数年前のことで、今回番組を担当してくれたIディレクターが、今後取り組んでみたい作品のアイデアリストに挙げてくれたことがきっかけでした。「へえ、新訳が出てたのか。しかも鴻巣さんが」と少し驚きました。どちらかというと純文学寄りの翻訳が中心の人だと思っていたからです。

ところが一読して、なぜ鴻巣さんが新訳にチャレンジされたか深く納得。これまでにない瑞々しい文体。リズミカルでぐいぐい読み進めていける心地よさ。え? 「風と共に去りぬ」ってこんなに面白かったの? …という新鮮な体験でした。ただ、エンターテイメント感満載で、誰に教えられずとも読めてしまうこの本を、果たして番組で解説する必要はあるのだろうか、という懸念は持ち続けていたのです。

ところがその懸念は、鴻巣さんにお会いしていっぺんに吹き飛びました。社員食堂でお茶を飲みながらの打ち合わせだったのですが、途中カップをもつ手が止まってしまいました。「この小説、ディストピア小説としても読めるんですよ」「映画では全然目立たなかったメラニーがカギなんですよね、この小説って」「自由間接話法を使った高度な文体戦略がこの小説の面白さを支えているんですよ」「この小説って実は後ろのほうから書かれていて、そのことがわかると意外なことがわかるんです」等々と、読み解きのアイデアが鴻巣さんの口から次々に飛び出してきました。聞き終わった瞬間に、「これは確実に面白くなるな」と確信をもちました。その面白さは、番組をご覧になった方々はすでにおわかりでしょう。まだの方はぜひNHKオンデマンドや番組テキストでご覧ください。さらに深く知りたい方は、鴻巣さんの著作「謎とき『風と共に去りぬ』: 矛盾と葛藤にみちた世界文学」もおすすめです。

鴻巣さんの語りの魅力、そして文章の魅力を物語るキーワードは「全身」だと思います。鴻巣さんはご自身のことを「全身翻訳家」と呼んでいますが、全身で作品に没入し、最深部まで潜ってその細部を味わい尽くし、再び水面に浮上してきて、私たちが表面的にしか読めていなかった、作品の深部にある「宝物」を届けてくれる……私は、そんなイメージで鴻巣さんのお仕事を眺めています。今回の「風と共に去りぬ」の解説には、そんな「宝物」がたくさん散りばめられていました。

「全身翻訳家」ならではの解説、いかがでしたでしょうか? 私も鴻巣さんにあやかって「全身プロデューサー」を目指せたらと思っています(笑)。

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