もどる→

アニメ職人たちの凄技アニメ職人たちの凄技

【第37回】
今回、スポットを当てるのは、
高橋昂也

プロフィール

高橋昂也 1985年 愛知県生まれ。
東京藝術大学大学院デザイン科修了。
アニメーション作家・イラストレーター。フリーランス。
テレビ、博物館、ゲームなどの分野で活動する傍ら、自主作品の制作も行なう。

高橋昂也さんに「ペスト」のアニメ制作でこだわったポイントをお聞きしました。

今回はカミュの「ペスト」のアニメーションを制作させていただきました。
カミュと聞くと難解なイメージがあって、最初は不安でしたが、読んでみるとごく普通の人間の生活感覚に寄り添った、とても優しい眼差しに満ちたものでした。

ペストという非日常の大災害を扱っていながら、日常の延長としてのリアリティがあり、登場人物それぞれの小さな物語を描いていて、何度も感情を揺さぶられました。
災厄によってあぶり出される人間の姿は、読んでいる自分自身に突きつけられるものばかりでした。
そんな読後感を大事にしながら、映像化を試みました。

「ペスト」の語り口は、淡々とした、ノンフィクションの手記ようなものだったので、映像でも派手な演出は抑えて、現実感を感じられるようなものを目指しました。
大災害モノというと、映像的な派手さを主張しがちですが、現実の災害は全貌が目に見えず、個人個人の生活の変化だけが実感されるいうことを、この物語は再認識させてくれました。

絵のタッチも、小説の世界にふさわしいものを探っていきました。
乾いた土の感じ、埃っぽさ、めまいのするような日差し…1940年代のアルジェリアに想像を馳せながら、ざらついたスケッチのようなモノクロの世界に行き着きました。

身体的不快感の強い状況が続く中、物語の終盤での海水浴のシーンは、読んでいて身も心も洗われた気分になったのですが、アニメーションでもそんな感じが伝えられたら嬉しいです。

ページ先頭へ
Topへ