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今回のキー・フレーズ

リアリズムといえば、明治は、リアリズムの時代でした。
それも、透きとおった、
格調の高い精神でささえられたリアリズムでした。

司馬遼太郎
「『明治』という国家」より

司馬さんといえば、卓抜な比喩をもって、過去の時代のことをイメージ豊かに、生き生きと描き出してくれる稀有な作家ですが、私自身、この文章の中に出てくる、「透きとおった、格調の高い精神でささえられたリアリズム」という喩えが、最初読んだとき、どうにもピンときませんでした。そもそもリアリズムに格調の高い低いがあるのだろうか、と。

導きの糸を与えてくれたのは、今回、講師を担当してくださった磯田道史先生でした。第一回の「国盗り物語」、第二回の「花神」で、磯田さんは、身分やしがらみ、既存のシステムにとらわれない「徹底した合理主義」の凄さを、織田信長、大村益次郎という二人の人物を描いた司馬さんの洞察から読み解いてくださいました。それが時代を動かす原動力になりうることも。ところが、それに対して、伊集院光さんから「合理主義というのも、場合によって、人々を酩酊させるイデオロギーになってしまうこともありうるのでは? 目先の利益のためだけに、本当に必要なものを切り捨ててしまうこともあるのでは?」という鋭い質問が! ですが、磯田さんは、それに対する答えをきちんと用意していました。

その答えこそが司馬さんのいう「透きとおった、格調の高い精神でささえられたリアリズム」だったのです。リアリズムというのは「現実主義」のことで、現実に根拠をもたないような「理想主義」と対比してよく使われます。現実を冷徹に見つめた上で、合理的に物事に対処しようとする態度「現実主義」は、ある意味で「合理主義」に通じる言葉です。それに「透きとおった、格調の高い精神でささえられた」という形容詞がつくところがポイントです。

明治に新国家を築いた人たちは、こうした「合理主義」「現実主義」を持ち合わせていました。しかし、それは、目先の利益を追いかけるような合理主義ではありませんでした。磯田さんは、「長州ファイブ」の一人である井上勝を例に挙げます。井上勝は、武士の身分でありながら、油にまみれ、徹底して鉄道の技術を学びぬきます。それは自分が鉄道会社を設立して設けようという気持ちからではありません。日本という国家を近代化して、多くの人を幸せにするには、効率的な輸送機関がなければならない。それならば、自分は武士の身分だけれど、鉄道技師になって国家を支えようと決意し、高い志をもって行動する。これこそが司馬さんのいう「格調の高い精神でささえられたリアリズム」なのです。

翻って今の日本を見つめてみるとどうでしょう? 果たして「格調の高い精神でささえられたリアリズム」をもった人がどれだけいるのか? 私自身の反省を含めてそう思います。

「私利私欲だけに目が曇り、本当に必要なものを切り捨てていないか?」「自分自身の意見を押し通すことにやっきになって、異なる意見をもった他者を切り捨てていないか?」「公のため、そして、本当に苦しんでいる人たちのために、志をもって何かをなそうとしているのか?」 司馬さんから、鋭くそう問いかけられているような気がしてなりません。

今こそ、私たちは、司馬さんのメッセージを深く受け止めなければならない、そう強く思います。

※司馬遼太郎の「遼」の字は、本来、「しんにょうの点がふたつ」です。

アニメ職人たちの凄技

【第12回目】
まず最初にスポットを当てるのは、
アダチ マサヒコ

プロフィール

プロフィール
アダチ マサヒコ 1983 大阪生まれ
2010 東京芸術大学大学院デザイン科修了
「BS歴史館」「NHKスペシャル・故宮」「シャキーン!」のアニメーションを担当。
2015年12月~2016年1月放送分の「みんなのうた」では、「ぼくのそらとぶじゅうたん」 のアニメーションを制作した。
100分de名著では、「遠野物語」「枕草子」「ハムレット」「茶の本」「荘子」などを手がける。筆の質感などを生かした繊細なタッチが持ち味。

アダチマサヒコさんに「司馬遼太郎スペシャル」のアニメ制作でこだわったポイントをお聞きしました。

今回はディレクターの方から、歴史番組っぽくしたくないので柔らかいテイストで、という要望がありました。

それもあって、以前枕草子の時でも描いたテイストで行こうと決めました。
僕自身司馬遼太郎さんのファンで思い入れが強いのですが、そこをあえて柔らかいテイストで行くのはある意味挑戦でもありました。

枕草子の時は比較的無個性な顔で描けたのですが、今回の登場人物は個性がとても強い人ばかりなので、そこを如何に少ない線で描き分けて表現するか、を注意して制作しました。

ぜひアダチマサヒコさんの凄技にご注目ください!

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