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もっと「斜陽」もっと「斜陽」

今回のキー・フレーズ

「私たちは、古い道徳とどこまでも争い、
太陽のように生きるつもりです。
どうか、あなたの闘いをたたかい続けて下さいまし」

(太宰治「斜陽」より)

高橋源一郎「太宰の時代には女性が社会のシステムからある意味外されていたんですけど、70年経って(女性が)社会の中に組み込まれていったという風に考えると、今、かず子みたいなのがいたら、やっぱりなに? 『空気読まない感じ』だよね。もしかすると、かず子的なものっていうのは、『今』、必要なのかもしれない」

伊集院光「『人』か、『物』か、『考え方』か、分からないけど、そうですね」

番組をご覧になった方はおわかりかと思いますが、これは、シリーズ第二回目で、高橋源一郎さんと伊集院光さんが番組終了間際に交わした会話です。太宰治が、「かず子」という主人公の生き方に込めたメッセージを見事に読み解いていると感じました。

戦争が終わっても、世の中のシステムが全く変わらないことに苛立ち絶望していた太宰治は、常識に縛られず自分の中にある「生命力」「生きようとする意志」に従って、立ちはだかる現実の壁を突き破ろうとする女性の力強さに、男性にない大きな可能性をみていたのではないか……高橋源一郎さんの解説を聞いていてそう感じました。太宰はそのことを、上記のかず子の台詞などに込めて伝えようとしたのではないかという風にも感じます。

そして、それを今の時代になぞらえてみるとどうなるか?

既存のシステムやそれを支えてきた人たちだけの考え方だけでは、対処できないような大きなうねりが今、世界各地で巻き起こっています。「大挙してヨーロッパに流入する難民」「自分たちの生き方を高らかに訴え始めた性的マイノリティ」「既存のシステムに異義を申し立てる若者たち」……日々のニュースをみているだけでも枚挙にいとまがありません。

時代やシステムの変わり目には、「空気を読まないこと」が多発します。常識からみてしまうと、それは単に「空気を読まないこと」として一方的に貶められてしまいますが、実はそこにこそ新たなものが生み出される胎動があるのではないか? 太宰治はそのことに戦後すぐに気づいていました。今でこそ女流文学は全盛ですが、そのはるか昔に、太宰はそれを切り拓くようなことをすでに「女性の声」を使って成し遂げていたのですから。

時代の変化の波をとらえそこなわないためにも、太宰治のような、小さな声をも聴き逃さない「よい耳」をもち続けたい……そう願ってやみません。

アニメ職人たちの凄技

【第六回目】
今回、スポットを当てるのは、
「qmotri(クモトリ)」& 田山結花

プロフィール

プロフィール
田山結花/イラスト
1984岩手県生まれ。2005バンタンデザイン研究所 イラストレーション本科卒業。書籍、雑誌の挿絵のほかNHK鳥取放送局「√るーと」「√るーとhigh↑2」、NHK Eテレ「スマホ・リアル・ストーリー」のイラストを担当。手描きのタッチを特徴に、和や怖さを織り交ぜたイラストを制作。

夏川憲介(qmotri)/演出・アニメーション 
1975年 北海道生まれ。武蔵野美術大学卒業後、アニメーター、イラストレーターとして活動。NHK Eテレ「みいつけた!/いすのまちのコッシー」立体アニメーション演出他「みんなのうた」「おかあさんといっしょ」「どきどきこどもふどき」などでアニメーションを担当。

田山結花さんと夏川憲介さん(qmotri)のお二人に、「斜陽」のアニメ制作でこだわったポイントをお聞きしました。

【田山結花】
今回の「斜陽」ではキャラクターデザインと原画を担当させていただきました。
かず子は物語が進むごとに変化していくので、表情には徐々に強さを付けていく一方、可愛らしさは残るようにしました。

第4回で出てくる「女生徒」では、本編と違うタッチで描かせていただきました。
本編ではペンを使って描いていますが「女生徒」は鉛筆で描いています。 色と線は加工していただき、水彩のようなやわらかい雰囲気に仕上げていただきました。

【夏川憲介】
没落貴族が主人公でタイトルが「斜陽」ということでアニメパートは全体に黄昏時のような雰囲気を目指しました。
こだわったところはあちこちにあるのですが、 あえてひとつ選ぶすると、第二回の最後のカットです。 ここだけ、かず子に洋服を着せました。 他はずっと柄を描き込んだ着物で通したのですが、妊娠しているので、おなかを締め付けない服装をさせてあげたかったのです。 原作のラストシーンに当たる部分で、文章としては上原への手紙の引用であって服装の描写は特に無いんですが 新しい人生を歩きだす決意の表れとして きっと服装も変えたんじゃないかな、と妄想して描きました。 かず子に射していた明かりはずっと夕陽だったのですが ここだけは朝陽です。(と、かず子は感じているはず)

ぜひ田山結花さんと夏川憲介さんの凄技にご注目ください!

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