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もっと「オイディプス王」もっと「オイディプス王」

今回のキー・フレーズ

テイレシアス「ああ! 知っているということは、
なんという恐ろしいことであろうか」

(ソポクレス「オイディプス王」)

「オイディプス王」が執筆された時代の前後、都市国家アテナイは、少し翳りがさしはじめていたとはいえ、ギリシア世界の中心として繁栄を謳歌している時代にありました。ギリシア世界全体から富や知が集積し科学や哲学も大いに興隆していました。その後のヨーロッパ的な知の原型ともいうべき、自然哲学者やソクラテス、プラトンといった大哲学者も活躍していました。まさにアテナイは「知の中心地」であり、「知」は人間に大きな力をもたらすものと誰もが考えていた時代です。

そんな状況下にあって、「ああ! 知っているということは、なんという恐ろしいことであろうか」というセリフを登場人物につぶやかせる作者ソポクレスの洞察力は恐るべきものだと思います。何しろ「知」が大手をふっていた時代に「知は恐ろしい」と言い切ったのですから。

そもそも「悲劇」という形式自体が、カオスたる「神話」を「起承転結という構造」に落とし込んで作り上げるまさに「知的な産物」です。その「悲劇」を使って、「知への批判」を敢行するという「オイディプス王」は、当時としては優れて批評的な作品だったといえるでしょう。

オイディプスは、「知」という魔物にとらわれ、「知」を突き詰めていった結果、自らの身を滅ぼしてしまいました。そして「知」の象徴ともいうべき「眼」を自分の手でつぶしてしまう。あまりにも皮肉な結末です。こんな物語を書くことでソポクレスは、「知」を謳歌し驕り高ぶる都市国家アテナイに対して冷や水を浴びせかけ、反省を強いたのではないか。そんなソポクレスに、私は、優れたジャーナリスト精神を感じます。

アニメ職人たちの凄技

【第三回目】
今回、スポットを当てるのは、
ケシュ♯203

プロフィール

ケシュ#203(ケシュルームニーマルサン)
仲井陽(1979年、石川県生まれ)と仲井希代子(1982年、東京都生まれ)による映像制作ユニット。早稲田大学卒業後、演劇活動を経て2005年に結 成。NHK Eテレ『グレーテルのかまど』などの番組でアニメーションを手がける。手描きと切り絵を合わせたようなタッチで、アクションから叙情まで物語性の高い演出 を得意とする。100分de名著のアニメを番組立ち上げより担当。仲井希代子が絵を描き、それを仲井陽がPCで動かすというスタイルで制作している。とも に演出、画コンテを手がける。

ケシュ#203のお二人に、「オイディプス王」のアニメ制作でこだわったポイントをお聞きしました。

【今回のこだわり】
「オイディプス王」は古代ギリシャの戯曲ということで、「アニメ―ションで作られた舞台セット」というコンセプトで制作しました。
ですので、人物の絵のタッチは人間らしく豊かというより、ペルソナ=仮面のような、やや硬いニュアンスを持っています。

絵のモチーフは古代ギリシャの壺絵を参考にしています。
壺絵のイメージを持たせるために、草木や馬など装飾的で抽象性のある世界観に仕上げました。

またカメラワークについても、舞台中継のように客席から狙ったような画角で統一しています。客席と舞台の間にある壁を乗り越えないように、そして人物の演技も身振りを若干大きめにしています。

普段、物語では没入感を出すことを意識しているのですが、 今回は一歩引いて、舞台を観るようにアニメーションを観て頂けたらと思っています。

ぜひケシュ♯203の凄技にご注目ください!

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