おもわく。
おもわく。

ソポクレス「オイディプス王」

未曾有の震災、テロリスムの蔓延、断ち切れない憎しみの連鎖……私たちは今、自分の意志だけでは動かしようのない「運命」のような現実を生きています。そんな「運命」に直面したとき、人はどう生きるべきなのか? 今から2500年近くも前、人間が運命にどう立ち向かうべきかを問うた一篇の戯曲が執筆されました。ソポクレス作「オイディプス王」です。6月放送の「100分de名著」は、人間にとっての「運命の意味」を、悲劇を通して描いたこの作品を取り上げます。
原因不明の疫病が蔓延し破滅の危機に瀕した古代ギリシア都市国家テバイ。名君として知られるオイディプス王はその原因を究明すべく神への神託を請います。神託の結果は「先王ライオスを殺害したものを罰せよ」。犯人探しに乗り出すオイディプスですが、真相が明らかになるにつれ、自分自身の出生の秘密が少しずつ明らかになっていきます。やがて、先王ライオスこそオイディプスの実の父親であり、オイディプスがその父を殺害し、実の母親を娶ったという事実が白日の下にさらされます。衝撃的な事実に直面し、母親は自殺。オイディプスは自分自身を罰すべく自ら目をつぶします。
この物語は、単に運命に翻弄される人々を描いただけではありません。「人が運命に直面したときどうふるまうべきか」をさまざまなキャラクターを通して描き出しています。また、「自分探し」を続けるオイディプスの姿を通じて、人間にとって「知るという行為」の意味や「知るという行為」がもたざるを得ない危険性を鋭く問うています。
さまざまな意味を凝縮した「オイディプス王」の物語を【運命の意味】【人間にとって「知」とは何か?】【人間存在の本質とは?】など多角的なテーマから読み解き、困難な時代を生きるための、普遍的なメッセージを引き出します。

ページ先頭へ

第1回 運命とどう向き合うか?

【放送時間】
2015年6月3日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2015年6月10日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2015年6月10日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
島田雅彦(作家・法政大学教授)
…2008年『カオスの娘』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

「オイディプス王」では、運命に翻弄されながらも必死でそれにあらがう人々の典型が描かれている。我が子に殺されるという運命を避けるために、赤児の足を鉄串で貫きうち捨てるという残虐な選択を行ったテバイ王ライオス。逆に、父殺しという過酷な運命を避けようと、愛する両親から自らの身を引き離し放浪の旅に出るオイディプス。運命を認めようとせずそこから必死に目をそらせようとするイオカステ。しかし、誰一人としてその運命を避けることはできなかった。この作品は、人が運命と対峙したときどうふるまうべきなのか、運命を受け入れてなお主体性というものは成り立つのかを問いかける。第一回は「オイディプス王」成立の背景や全体像に迫りながら人間にとっての「運命の意味」を考える。

ページ先頭へ

第2回 起承転結のルーツ

【放送時間】
2015年6月10日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2015年6月17日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2015年6月17日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
島田雅彦(作家・法政大学教授)
…2008年『カオスの娘』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

原因不明の災厄が襲いかかるテバイ。果たしてその原因は何なのか? オイディプス王が論理的思考を駆使して原因究明に突き進むストーリーは、見事なまでの起承転結の構造をなしている。島田雅彦さんはこの物語こそ「起承転結構造のルーツ」だと分析する。当時、ギリシア世界では自然哲学が勃興。科学的思考や数学的思考が萌芽し、混沌とした自然を合理的に説明しようという試みが盛んだった。ギリシア悲劇は、合理的な思考で荒唐無稽な神話を「構造」に落とし込み、人間の本質を描き出す芸術形式に高めるという、ギリシア的合理精神の表れの一つだった。それは、「知」によって世界を体系化するヨーロッパ的思考の原点ともいえる。第二回は、物語を読み解くことで、人間にとって「知るという行為」がもつ深い意味に迫っていく。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:島田雅彦「物語」の元型がここにある
ページ先頭へ

第3回 人間の本質をあぶりだす

【放送時間】
2015年6月17日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2015年6月24日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2015年6月24日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
島田雅彦(作家・法政大学教授)
…2008年『カオスの娘』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

古い秩序の象徴ともいえる父親を殺害し自らがその座を奪い取る「父殺しの物語」。自らを生み出した母なるものへ回帰しようとする欲望を描く「母子相姦の物語」。破滅をも恐れず自らの出自を確かめようとするあくなき探求を描く「自分探しの物語」。「カラマーゾフの兄弟」「スター・ウォーズ」に代表されるように、古今東西繰り返し描かれてきたテーマの全てが「オイディプス王」には込められている。ソポクレスは、これらのテーマを通して、人間のどのような側面を描こうとしていたのか? 第三回は人間の本質をあぶりだすさまざまなテーマを読み解き、現代に通じる普遍的なメッセージを引き出していく。

もっと「オイディプス王」
ページ先頭へ

第4回 滅びゆく時代を生き抜く

【放送時間】
2015年6月24日(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2015年7月1日(水)午前6:00~6:25/Eテレ(教育)
2015年7月1日(水)午後0:00~0:25/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
島田雅彦(作家・法政大学教授)
…2008年『カオスの娘』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

作者ソポクレスは、最晩年、続編ともいうべき「コロノスのオイディプス」を執筆している。この作品には「オイディプス王」のようなドラマチックな展開は一切ない。描かれるのは淡々と運命を受け入れアテネを守る守護神へと変貌していくオイディプスの姿が中心だ。その背景には、戦争により疲弊したギリシア世界が黄昏を迎えつつあった時代状況がある。そこには、滅びゆく運命にあるアテネ市民に向け「運命を受け止めつつそれでも高貴に生きよ」というメッセージが込められている。島田さんは「オイディプス王」を「青・壮年期の物語」だとすれば「コロノスのオイディプス」は「老年期・晩年の物語」であり、今こそ読み直すべき作品だという。第四回では、両作品を読み比べることで、もはや右肩上がりなど望めない成熟期を迎えた現代に生きる術を学ぶ。

NHKテレビテキスト「100分 de 名著」はこちら
○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
「オイディプス王」2015年6月
2015年5月25日発売
ページ先頭へ

こぼれ話。


ギリシア悲劇「オイディプス王」と続編「コロノスのオイディプス」は、
「文明批評」としても読むことができる!



作家・島田雅彦さんとの打ち合わせを終えたとき、そのことに気づかされて、鳥肌が立つような興奮を覚えたことを今でも思い出します。

戯曲としてのエンターテインメント性をまとった両作品は、普通に読めば、とてもよくできた物語。少々言い回しは古くて読みにくいところも多いですが、当時の人々が熱狂的に観劇したんだろうなあということは予測できました。

しかし、まさかそこに、ここまで深い洞察と、鋭い「文明批評」「政治批評」が込められていたとは、島田さんに指摘されるまで全く気づきませんでした。

そのことに気づかされたとき、2500年も前の作品が一気に自分の身に迫ってきました。異なる文明同士、価値観を異にする国家同士が対立を深め、憎しみの連鎖を断ち切れない現代世界を見つめるにつけ、「コロノスのオイディプス」で描かれた醜い争いは、今の時代をそのまま映し出しているようにも見えてきます。

ソポクレスは、「老オイディプス」の姿や言葉を通して、エゴや国家間の利害関係にとらわれない、普遍的な視点をもつことの大切さを訴えているような気がします。

かなり自分自身の解釈が入りますが、ソポクレスは、いわば「悲劇」というメディアを通して、社会や時代をのありようを鋭く批判し、腐敗を告発し続けた古代ギリシア時代のジャーナリスト的な存在だったのではないか、そんなことを感じさせられるシリーズでした。

私もマスコミ人の一人として、ソポクレスの精神に学び続けたいと思います。

ページ先頭へ
Topへ