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もっと「フランケンシュタイン」

どうしてそんなに命をもてあそぶことができるのだ?
おれに対する義務を果たすがよい。 「フランケンシュタイン」第10章より

生命の探求を偉業と考えていた科学者ヴィクター・フランケンシュタインに対する、怪物からの痛烈な批判の言葉。「人類の進歩のために」という志をもち、科学的な発見、発明に邁進していたと自負するヴィクター・フランケンシュタインは、怪物にこう批判されてもなお、最期までこの怪物の魂の叫びを理解することはありませんでした。私はこの部分を読んで、全く他人事ではない、と思いました。 人間というものは愚かなもので、自らの行為が絶対に正しいと過信してしまうと、ひとからの批判を一切受け付けなくなるものです。それどころか、その批判を握りつぶし、かえって批判者を憎むようなことすらしてしまう。 私自身も若い頃、自らの能力を過信して、ひとからの助言や批判を受け入れられず、大きな落とし穴に落ち込んだことがありました。厳しい批判こそが自らのあり方を問い直す大事なきっかけになる……若さゆえにそのことに気づけなかったんですね。

この怪物の言葉は、ヴィクターが破滅に至らないための大きなチャンスでした。ですが、ヴィクターはそのことに気づけなかった。ヴィクターの失敗は、怪物からの批判をきちんと受け止められなかったことに起因します。 おそらく本当の意味で正しい選択ができる人間というのは、こうした自分にとって「耳の痛い」批判を真摯に受け止める度量がある人なのではないかと思います。その批判をバネにして成長できるような人ですね。これ、結構難しいことではあるんですけどね。 異なる意見をもった人たちの批判に真摯に向き合うこと。そして、そういう批判的な意見を排除するのではなく、自分の中に生かしていくこと。自分自身に対する自戒も含め、「フランケンシュタイン」が現代社会に対して発する警告を、深く胸に刻みたいと思います。

今回の放送には、「今」を考える、さまざまなメッセージを込めました。ぜひNHKオンデマンドでもご覧ください。

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