おもわく。

ドストエフスキー『罪と罰』

今、社会における格差が問題視されています。なぜ自分は努力しても報われないのか、社会が不公平なのではないか、そう思い悩む人も多いでしょう。そこで12月の「100分de名著」では、格差がもたらした犯罪を描いた長編小説、ドストエフスキーの「罪と罰」を取り上げます。 
主人公は貧しい青年のラスコーリニコフ。苦学して名門ペテルブルグ大学に通っていましたが、学資滞納により大学を除籍処分になってしまいます。ラスコーリニコフの下宿の近所には、金貸しの老婆がいました。老婆は強欲で、義理の妹を女中のようにこき使っていました。
人の生き血を吸うことしかしない老婆に、生きる価値などあるのか。老婆を殺せば、借金に苦労している人が救われる。金を奪えば、閉ざされようとしている自分の将来も開ける。そんな恐ろしい考えが、ラスコーリニコフの心をとらえていきます。
番組では、殺人を犯してしまうラスコーリニコフの心情を詳細に分析、その心の奥底に潜む傲慢さを見つめます。そして人を殺すことはなぜ許されないのか、罪を認めて生まれ変わるためには何が必要なのかを探ります。

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第1回 傲慢という名の罪

【放送時間】
2013年12月4日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2013年12月11日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年12月11日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
亀山郁夫(名古屋外国語大学学長)

罪と罰」が執筆された当時、ロシアでは近代化による社会のひずみがあらわになっていた。格差は拡大する一方で、金がなければ、何も出来なかった。そうした中、貧しい青年、ラスコーリニコフの未来もまた、閉じられようとしていた。惨めな境遇を変えたい一心で、ラスコーリニコフは、老婆を殺害、金を奪う。しかしそれは新たな悪夢の始まりにすぎなかった。第1回では、主人公が陥った傲慢が生んだ罪を描く。

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第2回 引き裂かれた男

【放送時間】
2013年12月11日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2013年12月18日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年12月18日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
亀山郁夫(名古屋外国語大学学長)

 ラスコーリニコフは、貧しい人に出会うと、なけなしの金を渡してしまうような優しい面を持つ男だった。しかしその一方で、傲慢さにもとらわれていた。世の中には、ナポレオンのような天才がいる一方、天才を理解出来ない凡人もいる。正義のためには凡人は殺しても構わない―そう考えていたのだった。聖人か悪魔か、自我が分裂しているかのような行動をとるラスコーリニコフ。第2回では、ふたつの顔を持つ男の内面に迫る。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:亀山郁夫「永遠の書」
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第3回 大地にひざまずきなさい

【放送時間】
2013年12月18日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2013年12月25日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年12月25日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
亀山郁夫(名古屋外国語大学学長)

警察による捜査が進む中、ラスコーリニコフは、貧しい家族を支えるために娼婦となった献身的な娘・ソーニャのもとを訪ね、事件の告白をする。話を聴いたソーニャは驚きながらも「広場で大地にひざまずいてキスをしなさい」とラスコーリニコフに語りかける。ラスコーリニコフは、ゆがんだ自尊心にとわられていた。ソーニャは、大地にひざまずくことで、それを捨てろと言ったのだった。第3回では、緊迫の度を深める後半部を描く。

もっと「アラビアンナイト」
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第4回 復活はありうるのか

【放送時間】
2013年12月25日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2014年1月8日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2014年1月8日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
亀山郁夫(名古屋外国語大学学長)

ラスコーリニコフはついに自首。心神喪失による犯罪とみなされ、シベリア流刑を言い渡された。裁判の後、ラスコーリニコフを愛するようになったソーニャは、刑務所のある村へ移り住み、ラスコーリニコフに会い続けるようになる。そうした中で、ラスコーリニコフの心に変化が起き始める。第4回では、人を殺すことはなぜ罪に値するのか、そして人間が、本当に悔い改めることは可能なのかを探る。

NHKテレビテキスト「100分 de 名著」はこちら
○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
ドストエフスキー『罪と罰』2013年12月
2013年 11月25日発売
定価550円(本体524円)
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こぼれ話。

「罪と罰」こぼれ話

この番組、制作するうえでいくつか難しいことがありますが、おさえるべきポイントは、大きく分けると以下の2つかと思っています。

①今この名著を読む価値とは何なのか。
②シリーズの全体構成をどうするか。
この①と②が決まっていないと、番組が散漫になりがちです。

今回の「罪と罰」は、現代の日本にも通じるものがあると判断したので、①を満たすために「格差がもたらした犯罪」や「矛盾だらけの世の中への怒り」に焦点を当てました。このように、小説を扱う時には、現代人が共感出来るポイントを絞り込むようにしています。

また、分かりやすくするためには、②の構成が大事です。
シリーズの4回で「起承転結」があると見やすいです。
(しかし名著というのは必ずしも「起承転結」にあてはまるわけではないので苦労するのですが)
今回も4回を通して起承転結のつくテーマ設定を行い、工夫しました。

いかがでしたでしょうか?

最後に今後の放送予定をご紹介します。

1月2日は、年始特集として「100分de幸福論」(Eテレ)を放送します。
22:00から100分間、「幸福とは何か」という1つのテーマをたて、分野の異なる4つの本を手がかりに考察するというものです。

こちらも「起承転結」を考えながら構成し、意外な「入口」と「結論」を用意してみました。どうかお楽しみに!

(通常のシリーズは1月8日からの放送です。1月は世阿弥の「風姿花伝」です)

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