おもわく。

『こころ』

「100分de名著」新年度の第1回は、日本近代文学の巨匠・夏目漱石の「こころ」を取りあげます。
物語では最初、「私」という学生の主人公が、鎌倉で「先生」と出会い、親しくなります。しかし「先生」は重大な秘密を抱えており、なかなか心を開いてくれません。実は「先生」は、学生の時、親友の「K」と、ふたりして下宿のお嬢さんのことを好きになった過去があったのです。先生は「K」を出し抜いて恋を告白。そのことにショックを受けた「K」は自殺してしまいます。その後、「先生」はお嬢さんと結婚しますが、親友を裏切った自分を許せず、最後には「私」あての遺書を残して真相を告白し、自殺してしまいます。
学校の国語の授業では、「こころ」の一部を引用して、友情とエゴのぶつかり合いがよく解説されますが、この小説に描かれているものは、それだけではありません。実は漱石は、現代人は孤独と隣り合わせだと考えていました。村などの共同体が社会の規範となっていた時代は、自分よりも社会の方が大切でした。しかし現代では、最も大切なのは自分です。自意識や自我という城が強固であればあるほど、他人を信じ、受け入れ、自分を相手に投げ出すことが出来なくなります。漱石はその有様を、「先生」や「K」の孤独として表現したのです。
番組では、ベストセラーとなった「悩む力」「続悩む力」で独自の漱石論を展開した政治学者の姜尚中さんを語り手に迎え、「こころ」を読みときます。そして今に生きる私たちが抱えている、様々な悩みの原因を明らかにし、より良く生きるためのヒントを探っていきます。

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第1回 私たちの孤独とは

【放送時間】
2013年4月3日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2013年4月10日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年4月10日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
姜尚中(聖学院大学教授)

信頼していたおじに裏切られ、また親友Kを裏切ってしまった「先生」は、他人のエゴと自分のエゴの醜さを痛感し、人間を信じることが出来なくなっていた。「先生」は自意識が高い男だった。そのためひとりで悩みを抱え込み、他人に胸襟を開くことが出来なかった。実は孤独は、漱石が生涯をかけて追ったテーマだった。漱石は、文明や科学の発展が人間の孤独を加速させると考えていたからだ。第1回では、漱石の英国留学中の経験から、自由と独立を標榜する個人主義の落とし穴について語る。

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第2回 先生という生き方

【放送時間】
2013年4月10日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2013年4月17日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年4月17日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
姜尚中(聖学院大学教授)

「こころ」が書かれた当時、日本は日露戦争に勝利して近代化が一段落した。それは同時に、社会の目標がなくなったことを意味していた。「私」は郷里の実家の存続や自分の出世に関心がなかった。それよりももっと自分を大切にする生き方をしたいと願っていた。そのため「人生の師」を求めて、先生に近づいたのだ。第2回では、生きる指針が見つからない苦悩を見つめると共に、なぜふたりが年齢を超えて互いに認め合うことが出来たのかを探る。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:姜 尚中「「心」を書こうとした作家」
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第3回 自分の城が崩れる時

【放送時間】
2013年4月17日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2013年4月24日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年4月24日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
姜尚中(聖学院大学教授)

実家から勘当されて金がないKは、働きながら学校に通っていた。Kは先生とは性格が違い、他人に関心を示さないタイプだった。それは強さによるものではなく、他人と距離をおくことで孤独から目をそらしているだけだった。しかしお嬢さんを先生に奪われた時、Kは初めて自らの孤独に気づき、自殺することになる。第3回では、自我という城が崩れた時の敗北感と孤独について考える。

もっと「こころ」
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第4回 あなたは真面目ですか

【放送時間】
2013年4月24日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2013年5月1日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年5月1日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
2013年5月8日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年5月8日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
姜尚中(聖学院大学教授)
【特別ゲスト】
島田雅彦(作家)

先生はなぜ妻ではなく、私に全てを打ち明けたのだろうか。先生は私に「あなたは真面目ですか」と問いかける。個人がバラバラになっている時代、相手を信じて自分を投げ出すことは非常に難しい。「真面目ですか」と言う問いかけは、「あなたを信じて良いのか」という先生の魂の叫びだったのだ。第4回では、ゲストに作家の島田雅彦さんを迎え、漱石が次世代に託したメッセージについて語りあう。

NHKテレビテキスト「100分 de 名著」はこちら
○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
『こころ』2013年3月
2013年3月25日発売
定価550円(本体524円)
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こぼれ話。

「こころ」こぼれ話

学校の国語の授業で、必ずと言ってよいほど取りあげられ、マンガ「めぞん一刻」でも、五代くんに思いを寄せる女子学生が、管理人さんの関係を追求するシーンで引用した夏目漱石の「こころ」。
不必要に長い前置きになってしまいましたが、それほどまでに「こころ」は有名です。しかし10代のころに読んでも、先生やKの死をどう受けとってよいか分からず、腑に落ちないところが残ったかと思います。
そこで改めて「こころ」を読み直す番組を作ろうと思いました。大人になった今、手にとって見ると、「自我」と格闘する登場人物たちの姿には、示唆に富むものがあると感じました。そこで現代人が感じがちな「生きにくさ」と照らし合わせながら、「こころ」を読み解くことにしました。
「こころ」は分量そのものはそう多くありません。要約はすぐに終わってしまいます。そこで今回は、姜尚中さんや島田雅彦さんの解釈を加えながら、思い切った深読みをすることに徹しました。「こんな読み方もあるのか」と楽しんでいただけたなら、幸いです。

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