おもわく。

『モンテ・クリスト伯』

学生時代、試験前になると現実逃避のため何か勉強以外のことをしたくなる経験、どなたにもあるかと思います。私の現実逃避の手段、それが「モンテ・クリスト伯」でした。恋愛あり、サスペンスありの手に汗握る復讐劇は方程式や暗記物との格闘から、瞬時にめくるめく世界へトリップできる最終兵器。多くの方に同じ喜びを味わっていただきたいと今回取り上げた次第です。
物語の舞台は19世紀前半、革命後の激動するフランス。無実の罪で14年間孤島の牢獄に閉じ込められ、いいなずけと自らの未来を奪われた青年エドモン・ダンテスは、思わぬ幸運で脱獄、巨万の富を手に入れモンテ・クリスト伯爵と名乗ります。ダンテスは知力と財力を駆使し、自分をおとしいれた3人の男たちに完璧な復讐を遂げていきます。
希代のストーリーテラー、デュマの代表作でもある「モンテ・クリスト伯」は、連続ドラマやハリウッド映画のいわば原型ともいえる読み出したら止まらない面白さが特徴です。個性的な登場人物が織りなす同時多発するエピソード、緻密に張り巡らされた伏線。1840年代に新聞連載小説として発表されると同時に圧倒的な人気を博し、デュマは流行作家として不動の地位を確立しました。
デュマ自身の人生も、フランス革命後の激動の時代を生きた男として、主人公ダンテスに負けず劣らず波乱万丈でした。生涯の愛人は30人以上。革命に参加し決闘に明け暮れる一方、巨額な印税で浪費を重ね破産も経験という常人ばなれしたドラマティック人生を送ります。
番組では、現代のエンターテインメントのいわば元祖ともいえる「モンテ・クリスト伯」がなぜ当時の人々の心をとらえ今なお絶大な人気を誇るのか、直木賞作家でデュマの伝記も執筆している佐藤賢一さんとともに時代背景やデュマの人生を交えながら読み解きます。

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第1回 読み出したら止まらない その秘密

【放送時間】
2013年2月6日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2013年2月13日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年2月13日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
佐藤賢一(作家)

1844年から46年、フランスはパリで新聞小説として連載された「モンテ・クリスト伯」は空前の人気を博す。単行本としても出版され、推定部数は当時としては驚異的な4万、人々の心をとらえた。人気の最大の秘密はその構成力。読者に新聞を購読させるために、毎回小さな山場を持ってきて、さらに次回に続く謎を残し各回が終わるという手法だ。日本語版の文庫本で7巻からなる長編の前半のストーリーを紹介しながら、現代のエンターテインメントの元祖ともいえる「モンテ・クリスト伯」の創作の秘密に迫る。

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第2回 復讐する者される者 巧みな人間描写

【放送時間】
2013年2月13日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2013年2月20日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年2月20日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
佐藤賢一(作家)

「モンテ・クリスト伯」の大きな魅力の一つが数百人にも及ぶ多彩な登場人物。しがない19歳の船乗りから無期懲役囚、そして億万長者の伯爵へとめまぐるしく境遇を変える主人公ダンテスをはじめ、自らの出世のために裏切りを繰り返すフェルナン、守銭奴のダングラールなど、革命後のフランスならではの多様な人物像が生命力豊かに描かれている。ダンテスが完璧な復讐を遂行する物語後半のストーリーを追いながら、デュマの人間描写の技に迫る。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:佐藤賢一「至福の読書体験」
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第3回 革命が生んだ文豪

【放送時間】
2013年2月20日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2013年2月27日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年2月27日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
佐藤賢一(作家)

「モンテ・クリスト伯」の作者アレクサンドル・デュマ自身も革命の申し子だった。父はフランス貴族と黒人女性との間に生まれたいわゆる「私生児」で元奴隷。将軍に大出世するが、ナポレオンと仲違いし不遇の内に死ぬ。デュマの多くの作品は憧れの父の姿を主人公に投影したものともいわれる。またデュマ自身の生涯も波瀾万丈で自らの生活が多くの作品で引用されている。「モンテ・クリスト伯」でダンテスがカスピ海から生きたままチョウザメを運びふるまう豪勢な宴会シーンは、モンテ・クリスト城と名付けた自宅での暮らしそのもの。古い因習にとらわれることなく革命後のフランスを自由に生きた近代人デュマの生き方に迫る。

もっとモンテ・クリスト伯
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第4回 待て、そして希望せよ

【放送時間】
2013年2月27日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2013年3月6日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年3月6日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
佐藤賢一(作家)
【特別ゲスト】
安部譲二(作家)

絶望の果てに復讐の鬼となったダンテス。しかし仇敵を打ち倒すたびに、神ならぬその心は苦悩し、次第に人間性を取り戻していく。「モンテ・クリスト伯」はいわば大きな人間再生の物語でもあるのだ。ゲストに大の「モンテ・クリスト伯」好きという作家の安部譲二さんを招き、デュマのラストメッセージ「待て、そして希望せよ!」の意味をともに考えながら、現代にも通じるメッセージを読み解いていく。

NHKテレビテキスト「100分 de 名著」はこちら
○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
『モンテ・クリスト伯』2013年2月
2013年1月25日発売
定価550円(本体524円)
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こぼれ話。

「モンテ・クリスト伯」こぼれ話

一度はまると抜け出せない、めくるめく「モンテ・クリスト伯」の世界、いかがでしたでしょうか?著名人の中にもこの本がきっかけで読書への目が開かれたという人が少なくありません。番組をきっかけに多くの方に「モンテ・クリスト伯」を手にとっていただければこれに勝る喜びはありません。
色々な方がおっしゃっているのは、「モンテ・クリスト伯」はあまりにも長大で数々のストーリーが含まれ、いかようにも読み解ける物語のため、読む人や年代によって受ける印象が全く変わるということです。私自身は改めて読み返すと、表現者の端くれとしていかにお客を逃さないかその手法に心を奪われました。今回、新たに読まれた方もきっと一つのセリフ、一つのシーンがそれぞれの形で心に響くことと思います。
最後に「モンテ・クリスト伯」の著者、デュマについてもう少し深く知りたい方に、番組の指南役、佐藤賢一先生の「褐色の文豪」をおすすめします。フランス革命後の混乱の時代の波をうまくつかまえ、自由奔放に生きたデュマの生涯があますところなく描かれています。この本は三部作になっており、デュマの父、トマ将軍の伝記「黒い悪魔」、デュマの息子、デュマ・フィス(「椿姫」の著者)の伝記「象牙色の賢人」と続けてお読みになれば「モンテ・クリスト伯」が書かれた時代背景がより深くお分かりいただけると思います。あわせてお楽しみ下さい。

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