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アニメ職人たちの凄技アニメ職人たちの凄技

【第72回】
今回、スポットを当てるのは、
ケシュ#203(ケシュルームニーマルサン)

プロフィール

仲井陽と仲井希代子によるアートユニット。早稲田大学卒業後、演劇活動を経て2005年に結成。
NHK Eテレ『グレーテルのかまど』などの番組でアニメーションを手がける。
手描きと切り絵を合わせたようなタッチで、アクションから叙情まで物語性の高い演出を得意とする。100分de名著のアニメを番組立ち上げより担当。
仲井希代子が絵を描き、それを仲井陽がPCで動かすというスタイルで制作し、ともに演出、画コンテを手がける。
またテレビドラマの脚本執筆や、連作短編演劇『タヒノトシーケンス』を手がけるなど、活動は多岐に渡る。
オリジナルアニメーション『FLOAT TALK』はドイツやオランダ、韓国、セルビアなど、数々の国際アニメーション映画祭においてオフィシャルセレクションとして上映された。

ケシュ#203さんに「資本論」のアニメ制作でこだわったポイントをお聞きしました。

かつて「一週間de資本論」というスペシャル番組がありました。その時にアニメーションを手がけ、その後「100分de名著」へと繋がるのですが、あれから10年。再びの「資本論」になります。
「100分de名著」と共に10年経ち、アニメーションを担当する我々の社会に対する視点も変わりました。

今回改めて触れてみて、古典であるはずの資本論が現代の問題と直結していることにとても驚きました。
どうしてお金が無いだけで死ななければいけないのか、図書館や公園まで収益を競わされるのはおかしいんじゃないか、そういった自分が漠然と抱えていた疑問が、すでに150年も昔に指摘されていたなんて。
その驚きを同じように感じてもらえたら、そしてブラック企業やワーキングプアの問題など今と地続きのものとして捉えてもらえたらと思い、アニメーションを制作しました。

題材が物語の場合、ディティールを描きこみ、より豊かな表現を目指す足し算の作り方になるのですが、今回のように解説が主となる場合は、見ている人に理解・共感してもらうため、要素を分析し、訴えたいもの以外を除外し、記号化する、すなわち引き算の制作となります。
例えば、労働者の立場に共感してもらえるよう、資本家や職人に比べて、その顔のデザインは「あなたかもしれない」という意味を込めて、よりパーツを少なく、抽象的にしています。
また資本論が書かれた当時の労働環境を再現するのではなく、現代に関わりがあると一目で伝わるよう色使いをポップに、かつ絵柄も時代性を排したデザインにしています。

また、マルクスの喩えは独特で面白いのですが、比喩を映像化するだけではなく、その奥にある意味をなるべく明らかにしようと考えました。
例えば「テーブルのダンス」のシーン。
テーブルがただ人を振り回して踊るのではなく、「お金を生み出す得体の知れないモノ」「欲しい物に変身するモノ」となることで人が振り回される、という表現にするなど、文章そのものではなく、読み解いたイメージが伝わるよう演出を考えました。

そして今回の制作で、意識するようになったことがありました。
それは、ジェンダーバイアスです。
例えば「机を作っている人」が登場するシーン。
こういった解説するタイプのアニメーションにおいて、現実を記号化したデザインに落とし込む場合、ステレオタイプなイメージを利用することがあります。
今までなら、机をつくる→大工仕事→男性という連想で男性のキャラクターを配置していましたが、しかし考えてみれば、机を作る人が男性とは限りません。
また、今回に限らず「ひと」というアイコンを使いたいときに無意識に男性のキャラクターを配置することもありました。女性のキャラクターは、女性であると明記されたものだけ。これはひどいジェンダーバイアスだと強く反省しました。
こういったことの積み重ねで、ステレオタイプなイメージは強化されていきます。
あまりにもささやかなことかもしれませんが、TVは、日常の景色の一部です。
その景色に自分も少なからず加担している、その責任の重さを最近考えています。

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