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地元愛が止まらない!!四国中央市のご当地レスラーを訪ねて

私の東方見聞録①四国中央市
  • 2023年08月28日

私が暮らしている宇和島市から170キロ東に向かうと四国中央市にたどりつく。その名のとおり四国の真ん中にあり紙の出荷額日本一のまちだ。今回私はある人に会うために、ふだんの活動範囲を飛び出してそのまちに向かった。その人は地元をこよなく愛するプロレスラー。「紙国」と刺繍された覆面からは、なんとティッシュが飛び出している。私の東方見聞録の始まりであった。

(NHK松山放送局 宇和島支局 山下文子)

彼の名前は「凡人パルプ」。愛媛を拠点にするご当地プロレス団体「愛媛プロレス」に所属する覆面レスラーだ。「超人ハルク」をもじってみずから考案したリングネームである。2016年の団体立ち上げとともにリングデビューした彼はことしで47歳になる。

凡人パルプさん
「僕は地元が大好きで、よその土地に出て行こうと思ったことは一度もないんです。もともとプロレスや格闘技が好きでプロレスラーになるという夢が40歳で叶ったときは、めちゃめちゃうれしかったです。7年間あちこちのリングに上がっては四国中央市をアピールしています。市の観光大使も任命されましたし、僕が四国中央市の良さを伝えねばという思いです」

その鍛え上げられた肉体に宿っているのは底知れぬ地元愛だ。
いざゴングがなると相手レスラーに頭から飛び出ているトレードマークのティッシュを抜き取られてしまうこともある。その瞬間パルプ選手はへなへなとリングに倒れ込んでしまう。
ティッシュはエネルギーの源でありかつ弱点でもあるのだ。
力を失ったパルプ選手は、ほうほうの体で、リングの外の観客に手を伸ばす。
「だ、誰か、私にティッシュを・・・」。
すると観客はおもむろに立ち上がると、かばんからティッシュを取り出しパルプの頭に詰めてくれるのだ。
観客とレスラーとのこの距離感たるや。私はこのやりとりがたまらなく好きだ。
パルプ選手の試合を観戦するにつれて、私はしだいに四国中央市を意識し始めるようになった。
思い切って、この夏パルプさんに地元を案内してもらえないかとお願いしてみた。
快く返事が来たのは言うまでもない。

川之江城

残暑厳しい8月21日。
パルプさんが待ち合わせ場所に指定したのは川之江城だ。
この城は、讃岐、阿波、土佐との境に位置することからたびたび抗争の舞台になったという。現在の城は昭和61年に再建されたが、天守閣からの眺めがパルプさんイチ押しなんだと。
私も一緒に上ってみた。なるほど、城の四方すべて絶景だ。
瀬戸内の島々、大きな製紙工場の煙突。
私が慣れ親しんだ宇和島城からの眺めとはひと味違う工業と自然の交わり合う景色に見入ってしまう。むき出しの配管や無骨な工場のたたずまい、もくもくと上がる煙のもとで、人々の生活に欠かせない紙が作られているのだ。
パルプさんは一つ一つの煙突がどこの工場のものかすらすらと教えてくれた。
実は、ふだんのパルプさんは会社勤めの顔も持っている。もちろん製紙関係の会社だ。

「僕は日本一の紙のまちということに誇りを持っていますし、地元の産業が続いていくためには若い力が欠かせません。僕がプロレスラーとして紙のまちを発信し続けることで、未来を担う子どもたちに地元で働きたいと思ってほしいですね」

次に案内してくれたは新宮町にある道の駅だ。
到着するやいなや、「やあ、パルプさん!」などとスタッフたちが笑顔で迎えてくれた。さすが地元だ。知り合いが多い。県内有数の茶の産地である新宮町、パルプさんはカフェならぬ「茶フェ」に案内してくれた。

「新宮茶の一番の特徴は無農薬で栽培していることなんです。体にも優しいし、香りもいいし、すっごく飲みやすい。実は、私も毎日飲んでます。私の腕の片方はお茶でできていると言ってもも過言ではありません」

いつも飲んでいるという水出し茶をいただく。
水で出すことで、ゆっくりと茶葉が開いていき、茶葉の甘みが引き出されるのだそう。
うまい!冷茶いい!!
飲むだけじゃない、お茶のスイーツも盛りだくさんだ。大福に、ゼリーに、チョコ。それに夏限定のかき氷も。どのスイーツもふんだんにお茶が使われている。私は濃厚なお茶を味わい尽くした。

道の駅の近くをそぞろ歩いていると、涼やかな水の流れる音が聞こえてきた。
馬立川だ。
市街地から車でわずか20分ほどの距離だが清らかな水面とせせらぎはまさに夏の癒やしだ。
多くの家族連れが訪れ思い思いに川遊びしている。
その時だ、子どもたちが水をすくってはバシャッ!と水しぶきを上げた。
ああっ!!なんということだ!パルプさんのティッシュが濡れてしまった!
180センチ、80キロの大きな巨体がへなへなと倒れ込んでいるではないか。
すぐさま、新しいティッシュをパルプさんに渡さねばと、私は慌ててズボンのポケットを探る。
あった! どんなに鍛えても頭のティッシュだけは鍛えようにない。
そんなかわいらしさも人気の秘密なのかもしれない。
この日もちびっこたちはパルプさんを見かけると手を振ってくる。そしてパルプさんも笑顔で振り返す。地元にプロレスラーがいるというのは心底うらやましい!地元でリングイベントを開くことが次の夢だそうだ。

いつもトレーニングをしているという砂浜を案内してくれたパルプさん。
ここで太陽と潮風をを体いっぱいに浴びながら、ここでタイヤを引いたりダッシュを繰り返したりしているのだという。さんさんと照りつける夏の日ざしの中、地元・四国中央市に対する熱い思いを語ってくれた。

「子どもたちが地元を離れて人口が減っていくと、地域はますますさみしくなると思うんです。地元の産業を守っていくためにも、若い世代にもっと四国中央市を好きになってもらいたい。そのためにプロレスラーとしても地域にもっと溶け込んで、自分ができることで地域を盛り上げていきたいと思っています。プロレスラーは、リングの上で何度も立ち上がる。どんな状況になってもあきらめないのがプロレスラーですから」

筆者(左)と凡人パルプさん

地元愛とは何か。私も宇和島で生まれ育った。幸い、地元の情報をこうして発信できる仕事に就いたものの、どのくらい地元のことを知り、愛しているだろうか。
パルプさんが行く先々で、人々はひとめ見たプロレスラーの出で立ちに目を奪われる。笑顔で手を振り返してくれただけで、その出会いがうれしい。リングを見に来た人は、頭からティッシュが出ているレスラーの機敏な動きと強さに圧倒される。存在そのものが地元を背負っているようだと、ますますパルプさんと四国中央を知りたいと思うとともに、私自身も地元をもっと愛そうと心に決めた。

  • 山下文子

    山下文子

    2012年から宇和島支局を拠点として地域取材に奔走する日々。 鉄道のみならず、車やバイク、昭和生まれの乗り物に夢中。 実は覆面レスラーをこよなく愛す。

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