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土俵復活 ~西予市野村~

西日本豪雨から5年
  • 2023年06月16日

相撲が盛んな西予市野村町では2018年の西日本豪雨で地域の人に親しまれていた相撲場(すもうば)にも大きな被害が出ました。この春、土俵の復活にかけた地域の人々の思いを取材しました。

(松山放送局 岩崎温カメラマン)
 

今年4月下旬、西予市野村町を流れる肱川沿いで土俵開きが行われました。この土俵は5年前の西日本豪雨による肱川のはんらんの影響で建物ごと失われましたが、この日、ようやく復活の日を迎えました。

西予市野村町は江戸時代に地元の神社に火の用心を祈願するために相撲を奉納したことが始まりの伝統行事・乙亥大相撲で知られています。170年以上続けられている行事で、年に一度11月の終わりごろに開催される時期には、町は相撲の熱気に包まれます。

2018年以前の土俵(春日館相撲道場)

町の中心部にある野村大橋から肱川沿いにおよそ2.5キロメートル上流に「春日館相撲道場」という相撲場がありました。
小学1年生から6年生が所属できる少年相撲クラブの稽古場所として使われ、子どもたちは乙亥大相撲の土俵で活躍することを目指していました。この土俵は大相撲の元力士をはじめ大学や社会人で活躍する選手を輩出してきた伝統のある土俵でした。

しかし5年前の西日本豪雨の際、そばを流れる肱川がはんらんし土俵が入っていた建物が建つ地盤が流失し、建物内にも濁流が流れ込み相撲場の壁やトレーニング機器が流され、土俵も使うことができなくなりました。

父親と道場の運営や少年相撲クラブの指導をしていた渡邊勝也さんは、道場に隣接する自宅から家族と避難していて助かりましたが道場や自宅を失いました。

渡邊勝也さん

「まさかこういう状態になっているとは思わなかったので、ぼう然としたっていうのが正直なところです。これから本当どうしようかなと」

地元の高校の土俵で稽古

渡邊さんは被災後、自分の生活もままならない状態でしたが、地域の伝統である相撲に取り組む子どもたちのために相撲ができる環境を探し、地域の支援もあって稽古を継続させることができました。
相撲の強豪校で知られる地元の高校の土俵も高校生の稽古が終わった後に、子どもたちの稽古で使わせてもらっていました。
しかし、渡邊さんは以前より時間や場所の制限があるため稽古の機会が減少したことを感じ、もっと相撲をしたいという子どもたちのため土俵を復活させることを決意しました。

住宅の再建など自分の生活にもめどが立ちはじめたことし、土俵をつくるための工事を開始しました。新しい土俵は再び川のはんらんによる被害を受けないようにするため、土俵が元あった場所よりも2.5メートルほど高い場所に移動させることにしました。

子どもたちの土俵の再建には、相撲をこよなく愛する地域の方の支援もありました。土俵に敷き詰める土作りを買って出たのは野村町上野地区に住む浅松洋さんです。
浅松さんは乙亥大相撲の元行司で、乙亥大相撲で使われる土俵の管理にも35年携わってきた土俵作りに欠かせない渡邊さんも頼りにしているひとりです。

浅松洋さん

「所作とか礼儀とか相撲の心とか教えてくれるのが春日館だと思っているので。なんとかしてやろうと」

浅松さんは、自分の山から採ってきた赤土から小石やゴミを取り除いた後、すきで細かく砕いてふるいにかけ粒の大きさを揃えます。こうすることで土が固まりやすくなり、ふんばっても足を滑らせにくいといいます。およそ4ヶ月かけて土俵に使われるおよそ2.5トンの特製の土が用意されました。

浅松さん
「肌触り、足触りもいいので、指先の力がぐっと土に伝わるような土俵がいいと考えました」

4月中旬、浅松さんの土が新しい土俵に運び込まれました。渡邊さんのかつての教え子も手伝いに加わり、8メートル四方の相撲場にまんべんなく広げられました。
土俵におうとつがあるままでは、けがのリスクも高まるため、入念に平らにならします。 そして、平らにならした後は土俵を囲む俵が埋め込まれました。

およそ8時間かかった作業で土俵の形が少しずつ見えてきました。

土俵作りの仕上げを行う4月下旬、渡邊さんのかつての教え子や地元で相撲に励む中学生や高校生も参加して「土俵たたき」という作業が行われました。
土俵の表面を木づちでたたき、土を固めながら足の指などが引っかからないようにするためにわずかな隙間も埋めていきます。

「楽しいです。大勢の人が自分たちの土俵を作ってくれてうれしくなった」

作業開始からおよそ6時間、ついに土俵が復活しました。

5月13日の初稽古は、少年相撲クラブの子どもたち5人に加え、社会人や高校、中学校の相撲部の生徒などが駆けつけ合同で行われました。
自分よりはるかに大きなお兄さんたちを前に、少年相撲クラブのキャプテンの渡邊越郎(小4)くんがかけ声をかけながら新しい土俵を力強く踏み込んでいました。

「やりやすかった」

「大事に使おうと思った」

「土本来の柔らかさであったり温度であったりそういうのを足の裏で感じて、新たな土俵の命じゃないですけど、そういうのを感じてくれたんじゃないかなと。新たなエネルギーを生み出せるような、勇気や元気もらえるよと言ってもらえるような場所にしたいなと思っています」

渡邊さんは、再建した土俵は子どもたちに思い切って相撲に取り組んでもらい地域の大切な伝統である相撲文化の継承と発展に貢献し、地域内外の方にも利用してもらうことで交流の場にもしたいと話していました。

岩崎の感想

今年の春、子どもたちの稽古を取材させてもらいました。子どもたちが相手に倒されても、悔し涙を流しながら再び立ち向かっていく姿を見て頼もしさを感じました。
土俵を復活させることで、相撲を取れる環境を整え子どもたちの相撲への情熱を絶やさないようにしたいという渡邊さんや地域の方々の思いを感じました。

  • 岩崎温

    岩崎温

    2020年から愛媛県で勤務。趣味はきれいな自然を見に出かけることとダイビング。愛南町や高知県の柏島などの海でサンゴや熱帯性のカラフルな魚を見ると心が躍ります。

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