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鳥インフルエンザ過去最多で“土地が足りない”

  • 2023年04月06日

収まる気配が見えない今シーズンの鳥インフルエンザ。
処分されたニワトリなどは1700万羽を超えて過去最多を更新し続けています。
その影響で処分したニワトリを埋める土地が足りないなどの問題が全国各地で起きていることがわかりました。
処分の遅れは高値が続く卵の価格にも影響します。現場で何が起きているのでしょうか。

(NHK松山放送局 木村 京)

国内のニワトリの9%が処分

香川県観音寺市(2022年11月)

処分された1700万羽。これは卵を採るための国内のニワトリのおよそ9%にあたり、鳥インフルエンザの感染拡大は卵が値上がりする要因にもなっています。
Mサイズ1キロ当たりの3月の平均価格(JA全農たまご 東京地区)は2か月連続で300円を超え、最高値を更新しました。

土地の問題は各地で起きていた

養鶏場などで鳥インフルエンザが発生した際、自治体と養鶏農家は感染拡大を防ぐため、速やかにニワトリなどを処分することが求められています。
その方法は2つ、土の中に埋める「埋却」か「焼却」です。
どちらの手段をとるかは自治体と養鶏農家が連携して決めますが、焼却は施設を借りるなど調整に時間がかかることなどを理由に、多くの自治体は埋めることを優先しているのが現状です。

今回、この埋める土地をめぐって各地で問題が生じていたことがわかりました。

NHK松山放送局は、今シーズン鳥インフルエンザの発生を国に報告した26の道と県に処分したニワトリを円滑に埋められたかどうか聞きました。

すると、▽茨城、▽埼玉、▽千葉、▽新潟、▽和歌山、▽広島、▽鳥取、▽香川、▽福岡、▽鹿児島、▽宮崎、▽沖縄の12県の14件で「事前に用意していた土地が使えなかった」ことがわかりました。
また、▽北海道、▽青森、▽宮城、▽群馬、▽千葉、▽新潟、▽香川の7道県の9件では「土地の面積が足りなかった」ということです。
その理由を自治体に尋ねたところ、さまざまな声がありました。

「地下の水位が高く、水がしみ出す恐れがあった」
「大きな石などがあり重機を入れられなかった」
「近くに食品関連の工場や民家があり、悪臭の被害が出る恐れがあった」

いずれのケースも急きょ別の土地を確保したり、焼却処分に変更したりして対応したということですが、処分するニワトリが自治体の想定を超えて増えたことなどで対応が困難になっている実態が見えてきました。

鹿児島県出水市のため池

実際、「想定外」の被害も出ています。
鹿児島県出水市では、去年、ニワトリを埋めた土地から農業用のため池に消石灰が流れ込み、悪臭や大量にハエが発生する被害が出ました。
県は別の場所に死骸を埋め直す方針を示していましたが、作業はまだ行われていません。

また、3年前に広島県三原市の養鶏場で鳥インフルエンザが発生した際は、予定した土地が使えず急きょ焼却処分に変更したものの、作業を完了するまでに50日間かかりました。

農家にのしかかる重い負担

処分したニワトリを埋めるための土地の確保は法律で「一義的に家きんの所有者が行うべき」とされています。このことが全国の農家にとっては重い負担となっているのです。

冨田泰広さん

愛媛県西条市の冨田泰広さんの養鶏場では去年1月、初めて鳥インフルエンザが発生しました。
事前に養鶏場の敷地内に十分な広さの土地を確保していましたが、埋めようとした矢先、「水がしみ出すおそれがあり、埋めるのに適さない」と県に判断されました。
そのため、県の指示で死骸を埋めるのではなく焼却することになり、およそ15万羽のニワトリは東温市の施設で焼却されました。

しかし、養鶏の再開に向けてハードルとなったのがニワトリを埋めるための土地を新たに確保することでした。
次の発生に備えた土地の確保が再開の条件になっているからです。
国が求める基準に合わせると冨田さんはおよそ1ヘクタールの面積の土地が必要でした。

地下から水が出ないなど条件に合った土地を見つけるため、冨田さんは携帯電話の電波も届かない山奥まで車を走らせました。

冨田さん
「まさに土地探しの行脚でした。本当に苦い思い出です。条件にぴったり合う土地なんてそう簡単に見つかりません。毎回、わらにもすがる思いで、取引先や友人たちから紹介された土地を見に行きました」

冨田さんは3か月あまりかけて何とか適した土地を見つけ、営業再開の許可までこぎつけました。しかし、県外の養鶏仲間の中にはあまりに重い負担に再開を諦めた農家も多いということです。

冨田さん
「土地から水が出るとか、土が固くて重機の刃が立たないとかは掘ってみないとわかりません。そもそもここまで発生が続くと、その都度土地を探すことはまず無理です。僕もそうでしたが、発生を経験すると精神的にきついし、さらに土地の確保となると諦めて離農してしまった仲間もいます。個人の自己責任とか、民間だから企業努力でというのはおかしいと思います。国には国民の食生活を守るという観点で根本から考えてほしいです」

国は抜本的な見直しを

なぜ土地の確保が困難になっているのか。
鳥インフルエンザに詳しい北海道大学の迫田義博教授は、自治体の想定を超えるペースで処分するニワトリが増えたことや、都市近郊でも養鶏が行われている日本では埋めるための土地探しが容易ではないことを要因にあげています。

北海道大学 迫田義博教授

「日本の土地の性質上、水やガスが出るかなどは実際に掘らないとわからず、対応が後手になっているのが現状だ。土地の確保はこれまでも大変だったが今後はもっと難航することが予想される。早く経営再開しないと農家は収入がない。スムーズに封じ込めて再開の道をつくるためにも埋却する土地の確保は次のシーズン以降も重要になる」

さらに迫田教授は、国は法改正も含めて新たな対策の導入などこれまでのやり方を抜本的に見直す時期にきていると指摘しました。

迫田教授 
「鳥インフルエンザの感染は地球レベルで起きているので、もはや自治体レベルでは対処できない。県の判断でやって下さいといういい加減な行政が許される状況ではもうない」

「分割管理」も有効

有効な対策のひとつとして迫田教授があげたのが処分の対象となるニワトリの数そのものを減らす「分割管理」と呼ばれる方法です。
今は処分の範囲は農場単位で行われていますが、分割管理では鶏舎ごとに人や資材などが完全に独立して衛生面の管理が明確に分かれている場合は別の農場とみなします。
このため、問題がない鶏舎のニワトリは処分の対象から外れることになります。

今シーズン、新潟県の養鶏場で起きたケースの1つでは、ウイルスが検出された鶏舎とは別の鶏舎は分割管理されていると判断され、数万羽のニワトリは処分の対象にはなりませんでした。
分割管理は施設の改修などコストの増加が見込まれますが、青森県三沢市の養鶏場でもこの仕組みを導入して再建を目指す動きがあります。

自治体は試行錯誤

地方自治体の中でも進んだ取り組みをしているところもあります。
高知県では、市町村の関係者などでつくる協議会を開いて養鶏農家と土地の情報を共有し、確保が難しい場合は市町村の所有地を利用できるようにしています。

青森県では大規模な発生に備えて事前に国と協議し、広大な防衛省の土地を確保していました。実際、去年12月、事前に確保していた土地が利用できないと判明した際には、この土地に埋めることでスムーズに対応できたということです。

高知県が農家の土地を試掘

高知と青森の両県は緊急で予算を組み、農家が用意した土地が使えるかどうか事前に調べる試掘も行っていました。
水漏れのリスクがないかや重機を入れられるかなどを確かめ、高知ではこの試掘によって埋めるのに適さないことがわかった事例もあったということです。

松野官房長官

国も今年度の予算に試掘など「埋却予定地の事前調査」のための交付金の費用を盛り込んでいて、都道府県からの申請を受け付けることにしています。

松野官房長官は、4月4日の会見で「殺処分を行った鳥の処分は埋却または焼却することとされているが、埋却地の確保が難しい場合には焼却も活用できることを周知している」と述べています。

〈取材後記〉

愛媛県で初めて鳥インフルエンザが発生した2021年12月の年の瀬。関係者から1報を受け取った時のことを今でもよく覚えています。
その数週間後、大変な状況にも関わらず取材に応じてくれた冨田さんは日本の養鶏業の現状を包み隠さず話してくれました。
今シーズン、鹿児島県で一度ニワトリを埋めた場所から別の場所に埋め直すというニュースに接して、冨田さんが「用意していた土地に埋められなかったんよ」と話していたことを思い出しました。

3か月土地探しに苦労した冨田さん

そもそも埋める土地は誰が用意しているのか、処分が想定通りに進まない場合はどうしているのか。そんな疑問から1年越しの取材が始まりました。
松野官房長官は会見で「焼却処分も活用できる」と発言しましたが、焼却施設を利用するためには調整に時間がかかるため、現場では埋却せざるをえないのが実態です。
埋める土地を農家が確保しなければならない今のルールは適切なのでしょうか。
鳥インフルエンザは今後も拡大が続くと見込まれています。
卵の安定供給が危うくなっている今こそ対策の根本的な見直しが急がれます。
私たち消費者も、養鶏農家の方々が置かれている状況を忘れてはいけないと思います。

  •  木村京

     木村京

    2020年入局。2022年8月から今治支局。卵の生産量全国1位の茨城県出身。

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