2023年3月8日

“もしもは いつもの中にある”愛媛の小学生が防災を語る理由

2022年、愛媛県の防災学習コンクールで優秀賞に選ばれ、注目された1本のレポートがあります。
タイトルは「もしもは いつもの中にある」

写真やイラストを駆使して21ページにわたって災害の恐ろしさ、防災の大切さを“自分ごと”として捉えられるように、丁寧に書かれたレポート。
作者は小学4年生でした。

被災経験もないのになぜレポートを書こうとしたのか、本人を訪ねました。

(NHK松山放送局 石丸 栄一郎)

きっかけはテレビで見た東日本大震災の映像

レポートを書いたのは愛媛県松前町の小学4年生の西村遥夏さん(10)です。
生まれも育ちも愛媛県という、普通の小学生。
もともと災害や防災に関心があったわけではなかったといいます。

西村遥夏さん

転機になったのは2年前。
テレビで見た、東日本大震災の映像に衝撃を受けたことでした。

西村遥夏さん
「“東日本大震災から10年”の節目に放送された番組を見て、すごい被害があってほんとにそんなことがあったのかなと思って。作りものじゃないかと思って知りたくなりました」

自分の目で見た震災の爪痕

そこで小学4年の5月、西村さんは家族で東日本大震災の被災地を訪ねることにしました。
未だにさら地のままになっている沿岸部、津波の爪痕を残した遺構…。
テレビを通して見た世界をはるかにしのぐ光景でした。

大川小学校で弟と

そして、一家は大きな被害が出た宮城県石巻市の大川小学校にも足を運びました。
児童・教職員合わせて84人が犠牲になった場所です。

自分や友だちたちと同じ小学生たちが、ある日突然、災害の犠牲者になる…
西村さんは急に震災が自分に降りかかってきたかのような衝撃を覚えたといいます。

西村遥夏さん
「言葉が出ませんでした。学校の時計も津波が襲った時間で止まっていてテレビではわからなかった生々しさを感じました」

もしもは、いつもの中にある

愛媛に帰った西村さんは、あの日のことをもっと知りたいと、動画配信サイトやインターネットを使って詳しく調べました。

特に印象に残ったのが大川小学校の6年生だった娘を亡くし、現在は宮城県石巻市で語り部活動をしている佐藤敏郎さんが出ていた動画でした。
動画の中で佐藤さんは「あの日問われたのは全部ふだんのこと。もしもはいつもの中にある」と繰り返し強調していました。

「もしもは、いつもの中にある」

佐藤さんのこのひと言が、西村さんのレポートのタイトルになりました。
愛媛の友だちに伝えるべきメッセージが込められていると感じたからです。

レポートの中にも、このことばを登場させました。

西村遥夏さん
「地震はいつ起こるかわからないし、どこに起こるかわからないから、ひと事ではありません。地震が起きたときにちゃんと逃げて自分の命は自分で守らないといけないと思いました。やっぱり大切な人を失いたくないので」

家族で作る独自のハザードマップ

愛媛にいる自分に何ができるか。
西村さんはまず、家族と一緒に通学路の危険な場所の洗い出しから始めました。

ブロック塀など倒れる危険がある建物は赤。
飲料水が無償で出てくる自動販売機は黄色。
停電で信号機が消えることを想定し、交通量の多い場所を紺色。
避難する際、助けてくれる大人がいる場所は水色。

地図に印をつけていき、自分たちの生活に合わせた独自のハザードマップを作りました。

西村さんが作ったハザードマップ

あいさつも防災

さらにもう一つ、大切にしていこうと考えたことがあります。
あいさつです。

一見、防災とは無関係に思えるかもしれません。
でも西村さんは、ふだんからあいさつをすることで互いに顔見知りになり、いざという時に助け合えると考えたのです。

西村さんが毎日あいさつをするという通学路近くで電気工事会社を営む男性も、毎日通る子どもたちの顔が知れて安心だといいます。

これらの情報をまとめて、西村さんは夏休みに1か月かけてレポートを作り上げました。

レポートの最後は、こんな文章で締めくくられています。

「私にとって、1番大切なものは家族だ。私が自分の命を自分で守ることができたら、家族も安心してひなんして家族の命を守ることができる。
だから、もし災害が起きたら、私は自分の命を第一に守るためにひなんする」

「ただいま」を必ず言う

2023年2月、愛媛県西条市で子どもの安全を守るための講習会が開かれました。   
その講師の1人として、西村さんがレポートを書くきっかけになった大川小学校で語り部活動をしている佐藤敏郎さんも招かれました。

佐藤敏郎さん

佐藤敏郎さん
「子どもたちにいつも言います。「ただいま」を必ず言うと。それが防災です。「行ってきます」と言ったからには、必ず元気よく「ただいま」って帰る。あの日言えなかった、聞けなかった「ただいま」。たくさんあります。うちの上の娘は26歳になりました。一番後悔してるのはあの日の朝だったそうです。妹に、「お姉ちゃんおはよう」って言われた洗面所で返事をしなかったんです。大好きな、かわいい、かわいい妹との最後の会話がこれになってしまいました。こんなに後悔したことはないって」

会場には、西村さんの姿もありました。

西村さんが書いたノートを見せてもらうと、「「ただいま」をかならずいうこと」の文字が。
新たに心に刻まれたことばです。

西村遥夏さん
「学校でみんなに発表する機会があるので、その時にみんなに自分の命は自分で守ることと、帰ってきたら必ずただいまを言うことを伝えたいです。あいさつをして家を出たら必ず生きて帰ってくる。私は家族を失いたくないからやっぱり自分の命を一番に守りたいと思います」

石丸の感想

これまでも私は防災に関する番組を制作してきました。全国でも珍しい先進事例を紹介することこそが、南海トラフ巨大地震から命を救うヒントになると考えてきましたが、西村さんのレポートを見た時にハッとさせられました。
・「地域の危ない場所と安全な場所を確認しておく」
・「家族で話し合う」
・「災害時に頼れるのは近所の人なので、ふだんからあいさつをする」
共通するのは、どれも“今すぐにできること”です。
まずは身近なことから始める。それが大切なんだと教えられました。

こうした“若いチカラ”が四国にあることを心強く感じますし、これからも取材をして応援をしていきます。

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この記事を書いた人

石丸栄一郎

石丸 栄一郎

生まれも育ちも松山市。主に四国らしんばんの番組制作を担当。
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