2023年2月8日

愛媛のみかんを運べない? どうする「2024年問題」

東京・銀座のデパートで高級かんきつの「せとか」が1個2700円で売られていました。愛媛のかんきつの6割が首都圏に出荷され、その97%がトラックで運ばれています。しかし、「2024年問題」で来年以降はこれまでのように輸送できなくなる可能性があるといわれています。どういうことでしょうか。

(NHK松山放送局 木村京/清水真紀子)

2024年問題って

物流業界の「2024年問題」のこと、ご存じですか。
働き方改革の一環で、トラックドライバーの時間外労働の規制が来年4月から強化されます。
まず、これまで規制がなかった時間外の労働時間が、年間960時間に規制されます。トラック業界の調べによりますと、この基準を超えているドライバーがいる事業者は全体のおよそ3割を占めているといいます。
また、国がルールとして定める年間の拘束時間もこれまでの3516時間から3300時間に見直されます。
このため法律が施行されると、「運転手不足」「輸送量の減少」が懸念されているのです。
野村総合研究所は、このまま対策を打たなければ物流業界全体で2025年には28%の荷物が運べなくなると試算しています。

みかんの7割は首都圏へ

1月下旬、松山市の選果場ではいよかんの出荷が最盛期を迎えていました。
ここから出荷される量は1日およそ100トン。1万箱もの段ボールが毎日出荷されています。

農林水産省によると、おととし愛媛から出荷されたみかんはおよそ6万2000トン。このうち首都圏が4万2000トン余りで全体の69%を占めています。

みかん列車

みかんの輸送手段は昭和50年代は半分を鉄道が担い、トラックが4割、船舶が1割でした。
これが今はトラックが97%を占めています。
愛媛のかんきつは主に冬に出荷されるため、特にお歳暮商戦がある12月の運転手不足が深刻になるとみられています。

このままでは、「2024年問題」が愛媛のかんきつ産業を直撃すると国や地元の関係者は危機感を強めています。

中国四国農政局(愛媛県拠点) 坂井一夫地方参事官

「愛媛の物流は長距離トラックによる輸送が主流で、運転手が手作業で荷物を積んだり下ろしたりしているのが問題だ。2024年問題が起きてドライバーが不足するとさらにひっ迫するのではないか」

モーダルシフトとは

こうした中、打開策として検討されているのがトラックから船や鉄道に輸送手段を切り替える「モーダルシフト」です。

今はトラックが選果場から800キロ以上離れた東京の市場に直接運んでいます。
県内の運送会社などに取材したところ、ドライバーの運転時間は休憩を除いても最低12時間かかり、さらに荷積みや待機時間などが加わります。

モーダルシフト後は、かんきつが入ったコンテナはトレーラーで近くの港まで運ばれたあと船舶に載せ替えられます。
首都圏の港で再びトレーラーに引き継がれて市場に届けられるため、運転手1人の運転時間は大幅に短縮されます。

輸送時間はトラックの倍以上

ことし1月、JA全農えひめと農政局、運送会社の関係者が参加してモーダルシフトの実証実験が行われました。
いよかんを積んで松山市の選果場を出発したトレーラーはおよそ3時間かけて四国中央市の港に到着しました。

コンテナは港に停泊していたRORO船と呼ばれる大型船の中に運ばれていきました。船は全長190メートルと巨大で、主に製紙ロールなどを運ぶために使われています。

トレーラーヘッドと切り離された「シャーシ」と呼ばれるコンテナは、すべて船に固定されています。運転手は乗りません。

船はおよそ30時間かけて千葉港に到着し、待機していた別のドライバーに引き継がれました。
実証実験では、選果場から愛媛の港まで運転するドライバー、千葉港から東京の市場まで運転するドライバー、それぞれの港で荷物を積んで降ろすドライバーと計4人のドライバーが携わりました。運転時間は長い人でも3時間ほどでした。
都内の倉庫には愛媛の選果場を出発してからおよそ40時間後に到着したため、トラック輸送の倍以上かかったことになります。

JAの職員たちが段ボールの状態や中のいよかんをチェックしたところ一見して異常はありませんでした。
今後はトラック輸送と比べて鮮度に影響がないかや、市場でいよかんを販売しても従来と値段は変わらないかなどをこれから検証する予定だということです。
トラック輸送と比べたコストについても分析します。

荷積みにも課題あり

実証実験ではモーダルシフトに対応する「荷積み」も検証されました。
愛媛の選果場ではトラックのドライバーがみずからみかん箱を積み込んでいます。
1箱10キロの段ボールを積み上げる作業はかなりの重労働です。
「2024年問題」でドライバーの負担を軽くするためには機械でまとめて積み込む自動化が有効ですが多額の費用がかかることが課題です。

静岡県の選果場はパレタイザーと呼ばれる機械を導入しましたが、一連の整備にかかった費用は総額80億円に上ったということです。

パレット

機械で運ぶためにはみかん箱の変更も必要になります。
物流業界でサイズが統一されている台、パレットに今使用している10キロサイズの箱を積み上げると無駄なスペースができてしまうからです。このままでは輸送中に箱がぶつかって傷が付く恐れがあります。

10キロ用(左) 試作品の8キロ用(右)

実験用に一回り小さい8キロサイズの箱を作ったところ隙間なくパレットに収まりました。
しかし、ここにも課題があります。かんきつを箱に詰める愛媛の選果場の多くは普及している10キロサイズに設計されているため、サイズを変更するには機械の改修が必要になります。
選果場の費用は基本的に農家が負担しています。
高齢化が進む愛媛のかんきつ農家の間では、新たな設備投資に慎重な人が多いことが予想されます。

JA全農えひめ 果実課 白石将人さん

「船での輸送は運転手不足の解消になると期待しているが、物流危機の問題は将来、避けては通れないと思う。事前にできることは何でも取り組み1つ1つ解決していきたい」

取材の感想

清水ディレクター

今回の取材で印象に残っている関係者の言葉があります。「愛媛は和歌山や静岡などほかの産地と比べて大消費地・東京から遠い。コストが高くなる分、いくつものブランドみかんを生み出し高付加価値をつけて売ってきた」。地理的に不利な状況をカバーすべく、愛媛の生産者が研究と改良を重ねて高品質のみかんを作ってきた歴史が目に浮かびました。
「2024年問題」を前に、物流網の確保や荷積みの効率化、選果場の整備など課題は山積みです。愛媛のおいしいみかんをどうやって全国へ届けきるのか。引き続き取り組みを追っていきたいと思います。

木村記者

運転手の働き方改革と愛媛のみかん。当初は何がどう影響するのかいまいちピンと来ませんでした。しかし取材を進めると島国、四国の愛媛は「2024年問題」の影響を強く受けることがわかってきました。生産者がせっかく作ったみかんを市場に届けられなくなるかもしれない。かんきつ王国、愛媛にとっては大ピンチです。一方、現場には危機感を持ちながらも簡単には動き出せないもどかしさがありました。物流には多くの人が関わります。それぞれの立場の声をしっかり聞きながら、取材を続けて行きたいと思います。

この記事を書いた人

木村京(きむら・みやこ)

木村京(きむら・みやこ)

2020年入局。県警、県政担当を経て現在は今治支局。
冬は毎日食べられるよう大好きなみかんを定期的に買い込みます。

清水真紀子

清水真紀子

2021年入局のディレクター。ふだんは「ひめポン!」や「四国らしんばん」など番組制作にかかわる。最近ハマっているのはインド映画。