2023年2月7日

カラー化で浮かび上がる 南海地震の教訓

死者・行方不明者679人、全壊・流失した家屋5400棟と、高知県に甚大な被害をもたらした昭和21年の昭和南海地震。

当時の様子を記録した貴重な映像が残されていますが、体験していない人たちにとって、どこか遠い過去のできごとのように見えました。

そこで、NHK松山放送局はAIを使って映像をカラー化。
地震や防災に詳しい専門家に見てもらい、そこから得られる“学び”を聞きました。

(NHK松山放送局 白石陽亮)

想像できなかった被害が鮮明に

まず、地震が起こるメカニズムや防災に詳しい高知大学・防災推進センターの岡村眞客員教授に話を聞きました。

岡村さんが注目したのは、サムネイルにも使用しているこちらの映像。

カラー化したことにより、浸水した水が茶色く濁った様子など、被害の状況がより鮮明になったといいます。

高知大学 防災推進センター 岡村眞客員教授

「地盤が下がって塩水が入ったっていう事実とそのコントラスト。それに対応するように山が非常に生き生きと緑っぽい色をしています。緑の山が残っているということは非常に安全なところがあることを色つきの映像というのは暗示しています」

この地震で地盤が1メートル20センチ沈下したため、およそ1か月にわたって水はひきませんでした。

岡村教授はカラー化した映像といまの町の様子を見比べることが新たな発見につながっていくと言います。

岡村眞 客員教授
「当時の白黒でちょっと縁遠かったというか、イメージが取りにくかったんですが、今の景色と同じものを感じられるようにカラー化によってなりました。特に若い人たちにとっては水に水没してしまう光景というのはなかなか想像ができません。水が来たらどうなるということを、教えてくれる格好の教材ができたんじゃないかというふうに思います」

カラー化で現代への教訓も

高知市では中心部を流れる国分川など、7本の川で11か所堤防が決壊したと言われています。

この堤防も決壊した場所の1つです。

当時の映像から

こちらの映像は地盤工学を研究している高知大学の原忠教授に読み解いてもらいました。

画像の右側が国分川。
カラー化したことで地盤が沈んだ市街地地盤が沈んだ市街地(画像の左側)に向かって水が勢いよく流れ込んでいく様子が分かりました。

高知大学 防災推進センター 原忠教授

「動画をカラー化するということは水の流れまでわかるということ。市民の目線から見てもどういったことが起こるってことを克明に教えているものであるし、それを理解するきっかけにもなる」

こうした堤防の決壊は地震のたびに繰り返してきたと原さんは指摘します。

こちらの画像は原さんが東日本大震災の時に撮影したものです。

津波が川をさかのぼって堤防が決壊しました。
昭和南海地震の時と同じような現象が、現代でも起こりうることを示唆しているといいます。

原忠教授
「東日本の大震災の調査をしたときに全く浮かんだ情景っていうのが(昭和南海地震と決壊した状態が)同じなんです。全国の海が近くて川を抱えている街は、そういうリスクがあるということが分かります。昭和の段階もそうでしたし、今も変わらないということです」

カラー化された動画はこちらからご覧ください。

高まる地域住民の危機感

カラー化した映像を地域の住民はどのように受け止めるのか。
昭和南海地震で堤防が決壊した高知市・下知地区の人たちに見てもらいました。

下はカラー化した高知市内の映像。真ん中に広がるのが下知地区です。
そのほとんどが浸水しているのが分かります。

映像を見た住民たちは、災害がすぐにでも起きるのではないかというくらい、危機感をあらわにしていました。

下知地区の住民
「津波浸水から逃げるにはもう高台に行くしかない」

下知地区の住民
「たった77年前やと地球の歴史で言うと一瞬の話です。また明日同じことが起こるか、もっとそれ以上のことが起こるかわからない。どう備えていけばいいのかっていうことを話し合う1つの題材にはなると思います」

下知地区の住民
「本当に危険さを可視化もできますし、皆さんで見て検証していくというのも1つ進む方向かなと思います。新しいことにも取り組もうと思うので、一つのきっかけになります」

白石の感想

カラー化の映像を専門家の人たちや地元の人たちに見てもらう中で感じたのは、「災害に対する強い危機感」でした。危機感があるからこそ生まれるカラー化への視点・気づき。近い将来、高い確率で起こる大災害のためにできることはないのか。少しの情報でも知りたいと、防災に本気で取り組む人たちの熱意を実感しました。

この記事を書いた人

白石陽亮

白石陽亮

NHK松山放送局ディレクター
 愛媛出身。ディレクター歴10年以上。これまでスポーツや戦争、インフラなど、四国各地で取材。