2023年1月23日

コロナ後遺症に向き合う “治療法”のない中で

「いつになったら治るのかわからない。どこまでひどくなるのかわからない」
取材に応じてくれた女性は、強い不安を感じていました。

多くの人が苦しむ新型コロナの後遺症。
詳しいメカニズムはまだわかっておらず、「治療法」も「治療薬」も現時点では確立されているとはいえません。手探りの治療を進める松山市の医療現場を取材しました。

(NHK松山放送局 清水 瑶平)

“人が変わったように”

松山市にある耳鼻咽喉科。ここでは新型コロナの後遺症とみられる患者をこれまでに100人以上、診察してきました。
患者の多くは「せき」や「のどの痛み」などを訴えているため、耳鼻咽喉科が診察をするケースも多いのです。

ただ、症状はそれにとどまりません。
診療の記録には、「体がだるい」「息苦しい」「集中力が無くなった」といった、さまざまな症状が記されていました。

「脳に霧がかかったようになる」という人もいるといいます。
仕事に行けなくなったり、学校での勉強ができなくなったりと、日常生活にも大きな支障が出ています。

院長の久我正明さんは精神面への影響も大きいと感じています。

くが耳鼻咽喉科 久我正明院長

「人によって千差万別ですが、重い症状の人は本当に深刻です。現状では治す方法がないわけですから。元気がなくなって人が変わったようになったり、精神的に不安定になっている人も多いですね」

少しでも楽になるなら

現在、コロナの後遺症には明確な治療法が確立されていません。
久我さんが試みている1つの方法が、鼻とのどの奥にある部位、「上咽頭」への治療です。後遺症を訴える患者の多くはこの「上咽頭」に炎症があります。

上咽頭に直接、薬剤を塗ることで後遺症の症状が改善するケースがあるといいます。
久我さんは「はり」や「漢方」などの治療法と組み合わせながら試行錯誤を続けています。

久我正明院長
「少しは楽だと言ってくれるから、それが救いだと思ってます。僕がやっている治療が理想というわけではないけれど、少しでもよくする方向にしたいなと思いながらやっているんです」

病院が見つからず 不安だけが

治療を受けている患者の1人、40代の女性が取材に答えてくれました。
女性は去年7月に新型コロナに感染したあと、いったんは症状がなくなりました。
しかしそれから2週間ほどたって、37度台の微熱や下痢、息苦しさなどの症状が出てきたといいます。

治療中の女性
「1日の中で熱が上がったり下がったりして落ち着きませんでした。それに全力でスポーツをしたときのようなしんどさやどうき、息苦しさがなかなかおさまりませんでした」

症状が重くなり、女性は仕事にも行けなくなりました。
その後、内科や耳鼻科など3つの医療機関を受診し、精密検査も受けました。
しかし明確な原因はわからず、不安だけが増していったといいます。

治療中の女性
「ある医療機関でコロナの後遺症だと思うが、現時点ではなかなか治療するのが難しいですねと言われました。これはいつになったら治るのか、どこまでこれからひどくなるのかわからない。不安が大きかったです」

少しずつ改善も

女性は去年9月から、久我さんの医院に通い始めました。
週に1回ほど治療を受け続けることで少しずつ症状が改善しているといいます。
そして何より不安をやわらげてくれたのは、気持ちに寄り添ってくれる医師と出会えたことでした。
治療法やメカニズムなど分からないことが多い後遺症ですが、それも含めて丁寧に医師から説明があり、完治するまで寄り添ってくれるという信頼感があったといいます。

治療中の女性
「先生は安心して相談できる人です。つらいこともありましたが、周囲の理解もあり、先生にもお会いできたことで乗り越えてこられました」

久我正明院長
「治療法が確立していないというのは医師として非常に難しいですが、もう治らないと思い込んで落ち込んでしまうのが一番よくない。こういう治療をしたら良くなるかもしれないと示してあげること、そして諦めないことが大事だと思っています」

より踏み込んだ対策を

コロナ後遺症の治療に特化した専門外来は愛媛県内にはありません。
後遺症の正確な実態もわかっておらず、行政による支援策も十分とはいえないのが現状です。

愛媛県のホームページ

県は電話相談を受け付け、医療機関の紹介を行っています。
しかし、どの医療機関が後遺症への治療を行っているのかを尋ねると、「症状が多岐にわたるため」として、把握しきれていないというのです。
では県内にコロナ後遺症を訴える人は、どのぐらいいるのかというと、その実態も県は把握していないといいます。

その理由について県の担当者は、「現状では目の前の感染対策を最優先にせざるを得ない」として、コロナ後遺症への支援や実態把握が十分でないことを認めていました。
確かに限られた人員の中で感染対策に追われているという事情も理解できます。
しかし、コロナ禍もすでに3年が過ぎました。本当にそれでいいのだろうか、という思いもあります。

NHKの取材によると、後遺症の実態調査を行っている都道府県は少なくありません。

▼秋田県・・・県内の医療機関を対象にした実態調査
▼山形県・・・県内の医療機関や感染した人を対象にした実態調査
▼山梨県・・・県内の感染した人4万人余りを対象にした実態調査
▼茨城県・・・県内の感染した人4万人余りを対象にした実態調査
▼大分県・・・県内の医療機関や感染した人を対象にした実態調査
▼沖縄県・・・県教委が小中高や特別支援学校を対象に実態調査
など

また厚生労働省が去年6月、都道府県と保健所を設置している政令指定都市などあわせて157の自治体を対象に行った調査によりますと、このうち35の自治体で後遺症に対応できる医療機関のリストを作成して公表していました。

現時点では「治療法」も「治療薬」もない、新型コロナの後遺症。
しかし、症状に苦しむ人がいるなかで、各地の自治体では支援や実態把握が始まっています。愛媛県でも1人1人の不安に向き合い、より踏み込んだ対策に乗り出すことが求められています。

この記事を書いた人

清水 瑶平

清水 瑶平

2008年入局、初任地は熊本。その後社会部で災害報道、スポーツニュースで相撲・格闘技を中心に取材。2021年10月から松山局。学生時代はボクサーでした。