2022年12月14日

愛媛も舞台 「すずめの戸締まり」新海誠監督インタビュー

現在公開中の映画『すずめの戸締まり』。
愛媛も舞台の一つとなっていて、なじみのある風景も作品に登場します。先日、新海誠監督が舞台あいさつのため愛媛を訪れ、インタビューさせていただきました。この作品の制作に際し、愛媛の風景や西日本豪雨が影響を与えたということなんです。インタビュー全文です。

(NHK松山放送局 松田 利仁亜)

愛媛のきれいな景色をいくつも登場させた

松田
「『すずめの戸締まり』は、愛媛が舞台の一部となっています。以前の作品『言の葉の庭』に登場する雪野先生も今治出身でした。愛媛とどんな縁があるのですか?」

新海監督
「僕自身、何か縁があるわけではなくて、気付いたら作品の中で何度か繰り返し登場させていたという感じですね。意識していたわけではないですが、風景であったり言葉であったりが好きなのかもしれないですね」

松田
「“好きなのかもしれない”ということをもう少し伺いたいのですが、愛媛に対する印象は?」

新海監督
「そうですね、実際に1年前もロケハンで、八幡浜辺りを歩いて回った時、人と自然がミックスされたような風景が本当に美しいと思いました。山と海だけではなく町もあって、山には人の手の入ったミカン畑が美しく見えました。人と自然が共存している、柔らかな自然の風景にあふれていて、そこがとてもすてきだなと思います」

松田
「そのロケハンから、実際に景色を見て、それが作品のイメージをふくらませる原因になったのですか?」

新海監督
「そうですね。『すずめの戸締まり』の前半に、フェリーで八幡浜に入ってそこから電車に乗って移動していきます。実際に自分が街を歩いて、あ、ここはアニメーションで切り取ったらきれいだろうなというところをいくつも登場させています。いろんな影響を受けました」

愛媛の風景は描いていて楽しかった

松田
「完成した作品を見て、改めて印象はどうでしょうか?」

新海監督
「日本列島を移動していくロードムービーですが、愛媛は映画前半のすごく楽しい部分なんです。後半は、だんだんハードになっていく展開もあったりして・・・。まあ東京より先、主人公の鈴芽がせっぱ詰まった感情を抱えて映画のトーンが変わりますが、愛媛・神戸辺りが一番この映画の中で楽しい場所ですので、僕やスタッフも風景を描いていて楽しかったです。

あと、伊予弁を話す女の子が出てきます。民宿の娘という設定で出てくる千果の声は、花瀬 琴音さんという女優さんにお願いしたのですが、もちろん伊予弁を話せないので愛媛出身の方に監修に入ってもらい教えてもらいながら方言を収録していきました。僕たちが何となくイメージする関西弁とも少し違うし、九州の言葉と違いますよね。何だかかわいらしい言葉だなと思いながら、とても楽しかったです」

災害をテーマにした作品が多い理由

松田
「『すずめの戸締まり』は、主人公の鈴芽と草太が、各地の災いが訪れる扉を閉じていくというストーリーですが、その発想はどのように浮かんだのですか?」

新海監督
「最初は、今の日本列島を旅する冒険物語にしたいと思いました。ワクワクするアニメーションにするため、どうすれば新しい世界が開けていくような話が作れるかなと考えた時、どうしても今の日本というイメージだと、少子高齢化が進み、経済的にも少し難しい局面にありますよね。今、日本を旅すると“この場所にはかつてはもっと人がいたんだよ”とか“この場所は昔こんな時代があったんだよ”みたいに、にぎやかだった過去と人が減って寂しくなった現在という対比からどうしても逃れられないなと感じました。であれば、かつては人がいた廃虚を巡る物語にしようとだんだん発想が組み立てられ、廃墟を旅してその場所にかつてあった人々に思いをはせるような冒険にしようとなりました。
その時にアニメーションならではの、何かアクションが欲しいなと考え、じゃあ戸締まりをしよう、と。ドアを閉めて鍵をかける、というアクションをして次の場所に向かうという組み立てはどうだろうと考えていきました」

松田
「これまでの作品で『君の名は。』はすい星による災害、『天気の子』は大雨。天災・災害について描いていますが、どうして災害をテーマに作品を作っているのですか?」

新海監督
「災害を作品で描かなければという、何か強い使命感や義務感があるわけではまったくありません。ただ今の日本を舞台にしようとすると、どうしても災害が映画の中に入り込んできてしまうという実感です。
それは、僕たちの生活が本当に文字どおり災害に囲まれているからだと思うんです。地震はもちろんそうですし、豪雨災害もありますよね。気候危機・気候変動がどんどん激しいものになっていき、毎年経験したことないような雨が、西日本でも東日本でもある。あるいはコロナ禍も巨大な災害ですし、戦争も僕たちにとっては自然災害と同じような、どうしようもないものですよね。そういうものが増えてきたし、これから増える一方だろうと思うと、今を舞台に物語を切り取ろうとするとどうしても災害が入ってきてしまう。そんなことをこの10年ぐらい考えていて、であれば、アニメーションの中でそのことをどう扱えるんだろう、どう向き合えるんだろう、ということが自然に自分の中のテーマとしてずっと続いています」

松田
「今回は、地震をテーマにしています。このタイミングで地震をテーマにしたというのは、どうしてですか?」

新海監督
「ずっと連続感が自分の中ではあるんです。2016年の映画『君の名は。』を作る大きなきっかけになったのは2011年の東日本大震災です。1000年に一度の地震と言われましたけども、『君の名は。』で1000年に一度、日本にすい星が訪れて街を消してしまう話を描いたのは、やはり私自身メタファーのつもりで描きました。あの時は地震を描いて、それが人々にどう受けとめられるのだろうかということを確かめながら映画を作っていきましたが、その時にいろんな意見がありました。とてもよかったという人もいるし、災害をなかったことにするような映画じゃないかと言われることもありました。
では次は全ての人が当事者となる気候危機をモチーフにした物語を作って、それがどう観客に届くかを見てみたいと思って『天気の子』を作りました。でもそれでもやっぱりいろんな意見が来ました。よかったという方もいますが、主人公たちがとてもわがままに見えて、感情移入できなかったというご意見もありました。
どうしてもうまく映画を作ることができないなという感覚が積み重なって、今度こそはどうだと。今、だんだん変化していく日本で生きていく中で、どういう気持ちが自分を明日につなげていくために役に立つのか、自分を前に押し出してくるのかを考えながら映画を作ってきたんです。
『君の名は。』を作り始めた8年ぐらい前からある意味で同じことを考えながら映画を作っているような気がします。『すずめの戸締まり』で何か特別に新しいことをやったというよりは、うまく伝えられなかったことを今度こそ、という気持ちで続けてきて、その果てにこの映画があったというような気持ちが実感に近いです」

映画制作中に起きた西日本豪雨の影響

松田
「今回は地震がテーマですが、西日本豪雨では愛媛にも大きな被害を受けた方が多くいます。すぐ近くに災害はあるけれども、そこに立ち向かう人の姿でもあるのかなという感じもしました」

新海監督
「そうですね。この映画の中で描かれる愛媛は八幡浜のにぎやかな場所と、土砂崩れで半分埋まってしまった学校が出てきます。それは東京で映画の製作中に、西日本豪雨災害があって、こんなことが起きてしまうんだと強くショックを受けました。被災地そのものをそのまま描くわけではありませんが、愛媛を描く時にその場所で彼女たちが戦う場所を土砂崩れの場所にしたんです。意外にもそのことを指摘されることはありません。
東日本大震災ですら、そもそも記憶にないという世代がこの映画を見ている中ですごくたくさんいるんですよね。ほとんどの10代にとっては教科書の中の出来事だったりします。こういうエンターテインメントで、“あ、意外に昔のことじゃないんだな”と、ヒロインの鈴芽が、東日本大震災と今でもつながっているように、今の10代でも11年前の出来事とつながっている10代はいます。映画を見ることでそのことに少しだけ “ああ、そういえばそうだな”と、小さな気づきになればエンターテインメントを作っている者としてはうれしいなと思いますね」

松田
「最後にもう1つ。お忙しい中でも全国各地を回っているのはどういう思いがあるからでしょうか?」

新海監督
「観客の方がこの映画を見て何を感じたかを教えてほしいから、という気持ちがとても強いです。教えてもらわないと自分が作ったものが何だったのか分からないし、みんなが次に何を見たいと思っているのかが分からない。全国各地に行くと教えてもらえるんですよね。感想を直接聞く機会、聞ける機会もたくさんある。それがないと、どこに向かって何をやっているのかを自分でも見失ってしまうので、皆さんに教えてほしくてお邪魔している、という気持ちです」

松田
「それがまた次の作品にもつながっていくということですね?」

新海監督
「そうですね。僕は自分の内部からどんどん作りたいものが湧いて出て、次に作るものが順番待ちで自分中にたまっているというタイプでは全くなくて、1本作り終わると、毎回白紙になっちゃうんですよね。次に何を作るべきなんだろう、と途方に暮れる時期が半年ぐらいあって、その半年ぐらいの間になるべく、最新作を見てくださった方がいるなら感想を聞いて次の課題を探すという繰り返しです。逆にお邪魔させていただかないと何も作れない。そんな気持ちがあります」

松田
「気が早いようですが、次回作も期待しています」

新海監督
「見ていただけるようにがんばります。ありがとうございました」

この記事を書いた人

松田利仁亜(まつだりにあ)

松田 利仁亜(まつだりにあ)

2002年入局。2014-2017年以来2度目の松山局勤務。公私共にさらに愛媛の良いところを探し求めています。
夏には松野町でキャニオニングを初体験、気持ちよかったです。