2022年12月2日

四国の観光どうなる? 50社アンケートより

10月に全国旅行支援が始まり、海外からの個人旅行も解禁されて四国の観光地にも賑わいが戻ってきました。
四国の観光業はコロナ禍のどん底からどの程度まで回復したのか、ウィズコロナそしてアフターコロナを企業はどう展望しているのか、データとアンケートから探ります。

(四国らしんばん取材班)

どの程度まで回復した?

四国のホテルや旅館などに宿泊した人の9月の速報値が発表されました。

3年ぶりに行動制限がなかったことしの夏以降は、顕著に回復傾向がみられています。
去年と比べると愛媛県は80%近くも増加しました。
高知県は新型コロナの感染拡大前の2019年の水準にほぼ戻っています。

一方で、外国人の宿泊者数をみるとまだ回復からはほど遠いのが現状です。

四国の企業はこれからの観光をどう考えているのか

NHK松山放送局はアンケートを四国のホテルや旅行会社、飲食店や交通機関、酒造メーカーなど86社・団体に向けて送付し、そのうち47社から回答を得ました。
(回答期間:2022年11月1日~17日)

①全国旅行支援の受け止め

10月に始まった全国旅行支援。
アンケートをとったのは11月でしたが、「大いに影響がある」「わずかに影響がある」という回答が8割にのぼり、すでに影響を感じ始めているようでした。

プラスの影響では

「客がコロナ前に追いつく勢いで戻ってきている」(製造業)

「宿泊客が急増」(ホテル)

「国の後押しもあり、気兼ねなく活動できる雰囲気があるため、人流が活発になり、移動に伴う需要増で大きな プラスとなっている」(旅行業)

「順調な売り上げを推移」(飲食店)


と効果を実感する声が多く寄せられました。

「企業の前向きな行動につながる」(観光事業者の団体)


と、今後に期待する声もありました。

しかし不安や課題も感じているようです。

支援制度にともなう事務作業について。

「業務が煩雑になり、現場が疲弊している」(ホテル)

「仕組みが不十分で個人客も代理店も宿泊施設任せの無責任な対応で現場が混乱している」(ホテル)

「事務に手間がかかるため、他の仕事を後回しにしなければならなくなり、事務効率が落ちる。全国一律の内容でないため、それぞれの県に確認をとらなければならない」(旅行業)


また、制度による悪影響を心配する声も

「客単価が下がった」(小売業)

「割引が当たり前になったり、一部の事業者に客が集中するとマイナスの影響もあり得る」(旅行業)


さらに、支援制度の効果が一時的なものにならないか、不安視する声も見られました。

「施策が切れたあとの反動も懸念」(旅行業)

「市場予測が難しく、在庫量や生産能力のコントロールが調整しきれず、急な需要増に対応できない可能性もある」(製造業)


アンケートに回答した地域の観光支援事業を行う団体に話を聞くと、年間を通じて安定的に需要があることが理想的で、「できれば波を作ってほしくない。施策を打つなら行楽シーズンではなく、閑散期に実施して欲しい」と複雑な胸の内を明かしてくれました。


②期待されるインバウンドは

アンケートで大きな期待が寄せられていたのがインバウンドの需要です。

10月に水際対策の規制が緩和。
入国者数の上限が撤廃され、個人の外国人旅行客の入国も解禁されるなど、制限は、ほぼ、コロナ禍前の状態に戻りました。

アンケートでは「インバウンドにどの程度期待しているか」との問いに対し、76%が「大いに期待」と答え、「わずかに期待」も合わせると9割以上が期待していると回答しました。

具体的には

「問い合わせが増えており、来日に向けた商談が進んでいる。来日が決まった案件もある」(地域で観光支援をする団体)

「ビジネス渡航が戻ってきている」(旅行業)


アンケートを実施した11月の時点ですでに影響を感じ始めているところもあり、

「円安を背景に以前と違った国からの予約が入ってきている。客層の変化は歓迎している」(ホテル)


と、円安の効果に期待する声や

「観光業界も前向きになり、プロモーションなど止まっていた訪日事業が進む」(観光事業者による団体)


と、コロナ前に取り組んでいたプロジェクトの再開を待ち望む声もありました。


③四国の経済、コロナ前の状態に回復するのはいつ?

しかし、需要の増加の兆しは感じているものの、コロナ前の状態まで経済が回復するのは、少し先だという見方をしている企業や団体は少なくありませんでした。

慎重になる背景には、需要を効果的に取り込むにはまだ課題が多いという見方があるようです。
元々指摘されていたアクセスや交通の便の悪さに加え、再開できた国際線も四国ではまだ高松空港のソウル便のみです(2022年12月1日現在)。

加えて新型コロナの収束への見通しがまだ立っておらず、ウィズコロナのあり方の方針が見えない、感染の再拡大への不安がぬぐえないという意見がありました。

「コロナとの共生への環境整備が十分ではない」(インフラ)


コロナ禍で変化した人々の意識に対応できるのかも不安要素の一つでした。

「おもてなしの質が変わってしまっていないか。例えば今年、日本在住の外国人がお遍路中、あからさまに避けられたという話も聞いた」(地域の観光支援団体)

「インバウンド・国内観光者のニーズが変わった可能性があるが、対応策があるのか不明」(地域企業の団体)


そして、コロナ禍が長引く中で受け入れ側の体制についても

「コロナで社会が動いていなかった間に四国で観光客を受け入れるインフラや受け入れ態勢が疲弊したり、すでにあったものも再構築が必要なものもあるので、そこに対するコストや時間をかけて新しい観光業をつくっていくことができるのか、課題や不安がある」(旅行業)

「新型コロナウイルスの感染拡大が2年超続いたことにより観光産業事業者の経営体力が失われてきた。観光モデルも変わりつつあるなかで、旧型の受け入れ環境・体制にとどまっている観光施設も一定数あり、経営者も理解はしているが、新たな投資へ振り向ける資金には限界がある」(金融)

「外国人対応のノウハウが失われている。地元の受入マインドが整っていない」(運輸業)


また、人材の確保の難しさを訴える声もありました。

「コロナ禍で人員を削減しているため、需要回復期の人材確保が心配される」(旅行業)

「外国の方の場合は、通訳の人材確保と質の向上が必須」(寺)


人材の確保については他の地域でも課題になっているようです。
>>広島・宮島の事例はこちら

四国の観光戦略を牽引できる人材の育成を求める声もありました。

「中長期的な地域観光人材育成の維持発展。地元小学校低学年までの地域観光教育」(教育機関)


そして、最も多く、そして幅広い業界から上がったのが「四国の発信力の強化」について。
「四国の魅力は他の地域と比較して不十分では」「アクセスが悪いため不利」といった厳しい見方もありましたが、多くは「すでにある魅力を十分にPRできていない」というものでした。


④「オール四国」で

では、こうした課題をどう乗り越えればいいと企業や団体は考えているのか。
多くの回答が求めていたのは「四国が一体となった戦略」。そしてそれにともなうマーケティングやターゲティングの強化でした。

「四国は外から見ると1つの島であるということを実感している。四国の各県に観光に行くというよりも、「四国に行く」といった感覚でお越しくださる方が多い。特に海外からのお客様にとっては、ここが「〇〇県」であるということは重要視されないのではないか。マーケティングやセールスを見直し、もう少し自治体同士で連携した売り出し方やPRなどを行っていけたら、もっと素敵な四国になっていけるのではないか」(サービス業)

「四国四県の行政の連携に力強さを感じない。企業間の連携もパイプが細いと感じている。消極的な面が目立ってきているので、それを解消することが大切」(小売り)

「四国4県の産学官がより一層連携して取り組むべき」(インフラ)

「“四国は一つ”という言葉だけでない具体的で実効性のある取り組みが、そろそろ求められているのではないか」(地域アクティビティ団体)




⑤サステイナブル・ツーリズムへの期待

アンケートの中で、このようなコメントがありました。

「サステイナブル・ツーリズムの推進は、地方にこそチャンスがあると思われる」(金融)


サステイナブル・ツーリズムは“持続可能な観光”という意味で、環境・社会・経済に配慮した旅のスタイルを意味します。

大洲市が「世界の持続可能な観光地トップ100」に選出

アンケートからは、「オーバーツーリズム」を警戒しつつ、今ある魅力を生かそうという姿勢が見られました。

「無理をせず、四国が培ってきたありのままを見せる」(寺)

「≪四国だからできること・四国でしかできないこと≫素朴なままでいること!」(地域アクティビティ団体)


>>他の地域でのサステイナブル・ツーリズムの取り組みはこちら


⑥四国のポテンシャルは

今回のアンケートで、経済回復の起爆剤として観光需要に大きな期待があるだけに、この機会を逃すまいと身を引き締めるようなコメントが多く寄せられました。

観光戦略に詳しい専門家に、四国はどのような考え方で向き合えばいいのか、聞きました。

村山慶輔さん(観光戦略アドバイザー)
「外の方を受け入れたり、おもてなしをしたりするマインドが四国にはあると思うんです。それはお遍路の文化です。観光客を歓迎する、観光を地域の方が肯定的に捉えるということでもあります。
観光は基本的には地域の文化や歴史、自然といった、ソフトの部分を使った取り組みです。地域のおかげで、地域の資源を使って成り立っているので、地域に還元したり地域によくしたりするのは、本当は前提なんです。そういった前提に立ち返って考えるというのは大切です。
サステイナブル・ツーリズムはコロナ禍で一気に広がった考え方です。観光客が大挙して押し寄せてくるのが、感染拡大の懸念があったり、“映えスポット”が荒らされたりして必ずしも良いことではなくなったのです。そこで地域をリスペクトできる、量より質を求める傾向が顕著になりました。サステイナブル・ツーリズムで大切なことは、地元の方が観光を肯定的に捉えていることがとても大切なんです。お遍路文化が根付いている四国はそのベースとなる素地があるんじゃないでしょうか」


⑦四国も動き出している

アンケートでは実際にどのような取り組みを始めているのか、尋ねました。

「持続可能な観光の認証団体から認証をもらい、四国のブランド化に繋げる活動を行っている」(観光事業者の団体)

「林業や農業を観光の軸に据えてSDGsの観点を取り込む。また、ダムの見学&解説、SDGsカードゲームを組み合わせたプログラムを開発。その他、サステナブルを楽しく実感させる各種ツアーやプログラムを地元業者とともに開発中」(観光事業者の団体)

「空き家を購入してのゲストハウスを整備。山に入って間伐体験や林業者の話を聞き、間伐を体験。数ヶ月後に伐り出した木材を加工した机を組み立てるツアーを実施している」(製造業)

「減農薬の田んぼで米を育て、日本酒にして販売。売上の一部を地域に生息するコウノトリの保護・自立の活動に役立てている」(製造業)

「四国の魅力は「四国遍路」および「サイクリング」と考え、四国遍路をつなぐ移動手段としてのサイクリングや周辺の観光コンテンツをゆっくり周遊するポタリングとしてのサイクリングなどの推進に取り組んでいる」(地域アクティビティ事業者)

「海外で勤務した経験のあるスタッフを加え、インバウンド事業を本格始動させようとしている」(観光事業者の団体)

「インバウンドのみならず、ユニバーサル・ツーリズム(高齢や障害の有無などに関わらず誰もが参加できる旅)やペットとの旅行など多様化するニーズに対応ができるよう、施設改修を行っている」(サービス業)




「アンケートに協力いただいた企業と団体」(回答順)

四国ツーリズム創造機構
さぬき市津田地区まちづくり協議会
本家松浦酒造場
四国ガス
安岐水産
ANAあきんど
JAF四国本部
イーストとくしま観光推進機構
四国電力
にしきおり
オークラホテル
土佐れいほく観光協議会
西野金陵
トキワ工芸社
ばうむ
OーSHIKOKU
四国銀行
バジェット・レンタカー四国
鳴門観光興業
日本郵便四国支社
高松三越
三井住友海上火災保険
ソラヤマいしづち
伊予銀行
JAF
太陽石油
まるがめ世話やき隊
秋山興産
いわま黒板製作所
四国旅客鉄道
道の駅 源平の里 むれ
四国ガス
マツオカ
まんでがん
Shikokuブランド
瀬戸内ブランドコーポレーション
せとうち観光専門職短期大学
四国遍路
東林院
アオアヲ ナルト リゾート
アサヒビール東四国支社
一日一斉おもてなし遍路道サイクリング実行委員会
スタジオ エヌツー
JTB高松支店
土佐山アカデミー
高松商運
穴吹エンタープライズ