2022年11月21日

豪快!宇和島でマグロ一本釣り体験ツアー

釣り好きの皆さん!これまでに、どんな魚を釣ったことがありますか?
アジやサバ、キス、カサゴ…このあたりは釣ったことがある方、多いかもしれませんね。
では、クロマグロはどうでしょう!?
「マグロなんて、アマチュアが釣るものじゃないでしょう」と思ったそこのあなた!
…釣れちゃうんです。
なんと、クロマグロを一本釣り体験できる旅行商品がこのたび開発されました!
宇和島市で行われたモニターツアーに同行してきました。

(NHK松山放送局 小野文明)

宇和海で養殖される「海の黒いダイヤ」

愛媛県南部・宇和海のいけすで養殖され、年間1000トン以上出荷されているクロマグロ。
その見た目から「海の黒いダイヤ」と呼ばれています。
この魚の一本釣りを体験できるというツアーは地元の水産商社、自治体、観光業界、銀行が協力して開発しました。

豪快ツアーの中身とは

モニターツアーが行われたのは10月下旬。
愛媛県内だけでなく中国・近畿地方、遠くは東京から16人が集まりました。

宇和島市内の港を出発してからおよそ40分で、マグロを育てているいけすに到着。
初めに、参加者たちはマグロへのエサやりを体験しました。
私もやってみました。

マグロのエサとなるサバをいけすに投げ入れた途端にたくさんのマグロが群がり、水しぶきが上がります。
そばにいると海水がかかるほどです。これだけでもかなりエキサイティング…!

代表して一本釣りを行う女性

その後、一本釣り体験へ。
今回は、広島県から参加したこちらの女性が、代表として挑戦しました。
養殖マグロは通常 生後2年ほどのものを出荷していますが、ツアーでは「釣り竿で釣り上げる」という体験を提供するため、あえて生後1年ほど・重さ20kgほどの個体を狙います。

生まれて1年ほどのマグロとはいえ、かなりの重装備が必要になります。
果たして、本当に釣れるのでしょうか?

一本釣り体験の様子はこちら。

釣り針を投げ入れてから5秒足らずでマグロが食いつき、竿先がガクンと沈みます。
とても1人では釣り上げられそうにありません。
女性は、ツアーのガイドさんや養殖業者さんに支えられながら何とか釣り上げました。

参加者
「支えてもらっていなかったら海に引きずり込まれそうでした。大きさと引きの強さは、これまで釣ったことのある魚の中で一番でしたね」

釣り上げられたマグロは16kgあまり。
ふだん出荷している養殖マグロに比べるとかなり小さいとのことですが、素人目で見るとかなり大きいです。身がはち切れそうなくらいパンパンに詰まっています。

見て楽しい、食べておいしい 道後の「マグロ三昧」

港に戻って船から降りると、ツアーの参加者たちは続々とバスに乗り込んでいきました。
なんと、釣り上げられたマグロもバスに積み込まれます!
写真でいうと乗客の座席の下、通常だとスーツケースなどが収納されるスペースに、マグロと氷の入った箱が載っています。
バスが向かった先は松山・道後です。

高速道路を走ること1時間半。一行は松山市道後のホテルに到着しました。
ホテルのレストランに現れたのは、「サバキ女子」と名乗る水産商社の女性社員です。

ツアー参加者に披露されたのはマグロの解体ショー。
マグロの各部位の解説をしながら慣れた手つきでマグロをさばいていきます。

解体されたマグロはホテルの料理人たちによって調理され、ツアー参加者たちに振る舞われました。
刺身、寿司、炙り、丼の「マグロ三昧」です。
皆さん、新鮮なマグロならではの味と食感に舌鼓を打っていました。

一本釣り体験をした参加者
「弾力がすごい。これまでのマグロと全然違いました。自分で釣り上げたマグロは、やっぱり美味しいです(笑)」

東京から参加
「これまで宇和島に行ったことがなかったので、1度は行ってみたいと思ってモニターツアーに参加しました。ツアーを終えて、愛媛のことがすごく好きになりました」

松山から参加
「沖に行ってマグロを釣るという非日常感が素晴らしいです。すごく冒険心をくすぐられ、素晴らしい体験になると思います。新しい観光需要が発掘できるんじゃないか、という気がしました」

アフターコロナの「観光の起爆剤」になるか

このツアーが開発された背景には、新型コロナによる観光業界の苦戦があります。

こちらは愛媛県の観光客数の推移を表したグラフです。
新型コロナが流行するまでは年間2500万人前後で推移していましたが2020年は1700万人あまりに。
2021年はさらに減って、1600万人あまりになりました。2019年と比べると、1000万人以上の減少です。

道後の商店街にも観光客が戻ってきた

今年の夏は3年ぶりに行動制限がなくなり、10月からは全国旅行支援の効果もあって県内の観光地に賑わいが戻りつつあります。
マグロ一本釣りツアーを実施した会社もアフターコロナに期待を膨らませています。

モニターツアーを実施した水産商社 社長・木和田権一さん

「モニターツアーは予想以上に手ごたえがありました。養殖マグロのいけすは私たちからしたら当たり前の光景だが、観光客にとっては真新しいことなんだと感じました。実は既に外国からも問い合わせがありまして、これをきっかけにどんどん宇和島の情報を発信して、多くの人が宇和島へ足を運んでくれたらうれしいです」

このツアーは今後 旅行代理店などとの打ち合わせなどを経て、来年度一般に向けた旅行商品としての販売を目指しています。
気になるツアー代金は、20人までの1団体で50万~100万円(1泊2日、ホテル代込み)になりそう、とのこと。
みんなで費用を分担すれば参加できる、かも?

取材を終えて

「私たちにとって当たり前の光景が観光客にとっては真新しい」という木和田さんの言葉、かつて別の方から聞いたことがありました。
それは、前任地・高知で、閉校になった小学校を改装してつくられた水族館を取材したときのことです。

高知県の東の端・室戸岬にあるこの水族館では、地元の漁師から持ち込まれた魚を展示しています。
水族館を新たにつくる話が持ち上がったころ、地元では「沖縄の魚など、熱帯魚を購入して展示してほしい」という声がありましたが、水族館の館長は「展示する魚はすべて地元の魚」にこだわりました。
その理由を聞いたところ、館長さんは「室戸に来る観光客は、室戸の魚を見たくて来てる。地元の人にとってはありきたりでつまらないかもしれないが、ここの魚たちは、わざわざ県外から見る価値があるほど魅力的なんだ」と話していました。

25mプールを改装した水槽。シュモクザメやウミガメ、サバなどが飼育されています

実際、廃校を活用したユニークさと充実した展示が話題になり、オープンから4年余りで県内外から50万人以上が訪れました。
今では室戸市を代表する観光施設になっています。

「地元の当たり前」を活用した例は、愛媛県内で他にもあります。
大洲市では、大洲城の天守に1泊100万円で宿泊できるという非常にインパクトのある旅行プランが開発され、県内外で話題になりました。

大洲城に宿泊できる取り組みは、2020年9月に中継リポートしました

高知・室戸にとっての「シュモクザメやウミガメ」、大洲にとっての「大洲城」、宇和島にとっての「養殖マグロ」。
三者に共通して言えるのは「地元にとっては当たり前だけれども、よそ者からしたら新鮮で面白い」ということです。

今回宇和島を取材したとき、水産商社の社員は「もちろん多くの人にツアーに参加してほしいが、それ以上に“宇和島にはこんな豪快なツアーがあるらしいよ”と話題になることで、まずは宇和島のことをもっと多くの人に知ってほしい」とも話していました。

その地域ならではのものを活用して「戦略的に目立つ」。
そこには、地域を盛り上げる大きなヒントがありそうです。

この記事を書いた人

小野文明

小野 文明

2016年入局。高知局を経て2020年から松山局。2022年度から「ひめDON!」のキャスターを担当。最近のマイブームはサウナ。