2022年11月8日

全国旅行支援 “きっぷ鉄”記者が使ってみた

10月から始まった「全国旅行支援」。
宿泊料金の割引や旅行先で使えるクーポンがもらえるサービスです。
先行して各県で行われてきた「県民割」に続く、旅行需要喚起の政策です。
うまく使えば旅行がお得になるということで、注目を集めています。
実際にプライベートで旅をしてみて、どんなメリットがあるのか探りました。

(NHK松山放送局 後藤茂文)

【1日目】愛知県にて

10月下旬。鉄道の日関連に伴う、10日間ほどの出張を終えて松山に戻ってきました。
今度は休暇を使っての県外旅行を企画しました。
東北の果てまで、さまざまな交通機関を乗り継いで出かける旅程です。

初日は仕事を終えて空路と鉄路でそのまま名古屋へ。
観光はせず、翌朝からの移動に備える、いわば前泊です。
安く宿を取りたいと思い、いくつかの予約サイトで旅行支援を受けられるプランを探しました。

旅行予約サイトのページ

しかし、予想以上に宿がない!
そして、残っているところも、中々値段が高くなっています。
私が新人記者で津局に居た頃、名古屋出張で宿を取るにしても、ここまで高くなかったような…
残室が少ないから高くなっているのか、それとも「便乗値上げ」なのか。
宿泊者にとっては、なかなか分からないところがあります。
名古屋駅周辺での宿泊は諦め、一駅離れた金山駅での宿泊を考えます。
駅周辺のホテルにいくつか空室がありましたが、ここでも問題が発生。

ほとんどの地域で販売停止に(11月8日(火)時点)

いざ予約しようと手続きを進めると、途中で「空室なし」に!
ホテルの部屋は限られているので、旅行支援を受けるには1秒2秒の、戦いを制しないといけなさそうです。

悩みながらほかのホテルを探しているとその間にも値段が上がるなど思うようにいきません。
結局、金山駅から徒歩5分ほどの宿を確保。クーポンは3000円分付きました。

22時過ぎにフロントでチェックインし、受け取ったクーポンがこちらです。

愛知県が行っている旅行支援は「いいじゃん、あいち旅」という名称です。

付与されるクーポンは、500円や1000円単位の金券ではなく、QRコードが付いた紙で、チャージ金額という欄に手書きで3000円と書かれています。

これを利用先の店舗でQRコードを読み込んでもらい、付与された金額から減算していく形です。

多くの県では1000円単位の金券なので、券面の金額以上の利用をしないと使えません。
そうした面では、QRコードの方が使い勝手がよさそうです。
ただ、愛知県のクーポンが使えるのは、チェックアウトの日までとなっています。

「いいじゃん、あいち旅キャンペーン」のホームページ

クーポンが使える店を探すのは簡単でした。
ホームページで検索すると地図で示されます。
私はホテルのすぐ近くの中華料理店で1000円ほど使い、残りは翌朝、金山駅のキヨスクで使い、全額を無事に使うことができました。

【2日目】埼玉県にて

この日はライフワークとしているきっぷの収集に出かけます。
朝7時には金山駅から名古屋駅、そして歩いて名鉄バスセンターへ。
ここから、長野県南部まで高速バスで移動、3時間ほどで長野県伊那市に入りました。
市内の旅行会社2か所、そして伊那市駅できっぷを収集。
あわせて、市内のバスセンターやバスの営業所ではバスの乗車券や回数券も集めました。

伊那市内での訪問先

伊那市での収集を終えると、飯田線と中央本線を乗り継いで甲府へ。
こちらでも収集を行ったのち、石和温泉駅に到着。
この駅のみどりの窓口は、今月末で廃止になります。

収集活動を一とおり終えて、八王子駅に着きました。
徒歩で京王八王子駅に向かい、京王線で新宿に向かいます。
京王線のこの区間に乗るのは、実は初めてでした。

新宿からはJRに乗り換えてさいたま新都心駅へ。
2日目の宿は、さいたま新都心駅近くのシティホテルです。

できれば大宮駅の近くで泊まりたかったのですが、残念ながら旅行支援の対象となる宿がほとんどありませんでした。
首都圏は需要が多いためなのか、予約サイトの埼玉県用の旅行支援の枠もほとんど残っておらず、当日の午前中に宿を確保するはめになりました。

全国旅行支援は2年前のGoToトラベルと違い、旅行会社やホテルごとに割引のための予算枠が決められています。
ネットで予約しようにも、旅行先の県によっては早々に予算枠がなくなり、支援を受けられない事態が多々発生しています。
予算が随時追加され、割引が復活することもあるのですが、その枠もすぐになくなるなど、全国旅行支援を受けられる宿を確保するのにも、一苦労です。

埼玉県の全国旅行支援は「全国版 旅して!埼玉割」です。

「全国版 旅して!埼玉割」のホームページ

このクーポンは1000円単位の金券になります。特徴は有効期限の長さです。
愛知県のクーポンは宿泊した期間しか使えませんでしたが、こちらは全国旅行支援が終わる日の翌日、12月21日まで使うことができるのです。

なので、使い切れなくても次回の旅行で使う、ということができます。
使える店は、ホームページの検索画面で、自治体や業種ごとに検索することができます。
飲食店だけでなく、JR東日本のコンビニや、ドラッグストア、一部のスーパーなどでも使えるので、なかなか便利でした。

【3日目】福島県にて

この日から3日間、東北を旅しました。
使ったきっぷは「鉄道開業150年記念 JR東日本パス」。

鉄道開業150年記念 JR東日本パス

日本の鉄道開業150周年を記念して、先月14日から27日の間だけ利用できた、3日間有効のフリーパスです。
なんと、JR東日本の路線なら新幹線の自由席も含めて乗り放題で2万2150円という、破格のきっぷでした。
JR東日本のフリーパスのほとんどは、乗車券としてのみ有効で、特急券は別途購入が必要、という形態なので、特急券部分も乗り放題というのは貴重な存在でした。

この日の狙いは、10月末でみどりの窓口やきっぷ売り場が廃止になる駅の訪問です。

JR東日本東北本部管内の複数の駅で10月末に窓口が消えました。
私はまだ訪問したことがなかった、磐梯熱海、藤田、東福島、伊達、桑折、蔵王の各駅を回りました。
普通列車の本数が少なく、旅程を組むのに難儀しましたが、なんとか1日ですべての駅を回り、きっぷを買うことが出来ました。

収集したきっぷの一部と訪問した駅

さて、宿泊。
この日も、残念ながら第一希望のエリアで宿を見つけることはできませんでした。
元々は仙台駅近くで泊まり、翌日に備えたいと考えていましたが、仙台駅に限らず、東北の主要駅の周辺では宿の予約が困難な状況でした。
全国旅行支援や秋の紅葉シーズン、というだけでなく、JR東日本パスが出たことで、東北新幹線が乗り放題になり、いつになく大勢の観光客が東北に押し寄せていたからです。
新幹線の自由席は盆や正月のような混雑になり、普通列車もラッシュ時のような満員状態になることもありました。

SNSを事前にみて、大変な混雑になっているのは覚悟していましたがここまでとは。
仙台はおろか福島駅、郡山駅の周辺でも旅行支援が対象になる宿が確保できず、結局、福島県と栃木県との県境に近い新白河駅周辺のビジネスホテルに宿泊しました。

福島県「来て。」割のホームページ

この日は土曜ということで、福島県の全国旅行支援「「来て。」割」でもらえるクーポン券は1000円分でした。
飲食店のほか一部のコンビニなどでも使えます。
住所の地名をもとに、ホテル近くのレストランで夕食に使いました。

【4日目】青森県にて

この日は、まだ乗車したことがない大湊線の乗りつぶし、そして恐山の訪問が目的でした。
「東日本パス」は新幹線や特急列車などの指定席を4回、無料で押さえることができました。
ただ、この日の新青森方面の一番列車は指定席がすでに満席で、1本遅い便を押さえて青森に向かいました。
青森駅に寄ったあと、野辺地駅で下北線に乗り換えました。
車内は通勤ラッシュを思わせる混雑で、一時間ほど立ちっぱなしです。

下北駅に到着。
駅の待合室は人でごった返し、みどりの窓口も行列が出来ていたため、きっぷの購入は断念し、バスに乗り換えます。
恐山行きの下北交通のバスも、補助席を使うほどの混雑でした。

恐山

山道をひたすら走り、始めて訪れた恐山は、どこか寂しさを感じさせる、まるであの世のような不思議な空間でした。
1時間ほどの滞在で帰る際には、バスが続行便も用意され、計2台で下北駅に戻りました。
ここで下北駅のきっぷも買って、すぐさまタクシーに乗り大湊駅へ先回り。
終着駅、大湊駅でもきっぷの収集活動を行い、今度は座って野辺地駅へ向かいました。

これで大湊線は完乗、全国のJR線の乗車率は99点2%に到達しました。
とうとう全国の路線完乗が視野に入ってきました。

大湊線の終着駅 大湊駅

この日宿泊したのは八戸市内のホテル。
青森県の旅行支援「青森県おでかけキャンペーン 全国版」でもらったクーポンは、翌日に使う時間がないため、全額夕食に使いました。

「青森県おでかけキャンペーン 全国版」のホームページ

せんべい汁がおいしかったです。

【5日目】松山へ帰る

この日が旅行最終日。
翌朝に取材が入ったため、最終の羽田発の便で松山に帰ることを決め、それまでの間、東北各地の旅行会社の支店を回って収集活動をすることに。

鮫駅

早朝は鮫駅と本八戸駅を訪問しました。
「鮫」という一文字の駅名が印象的です。

9時過ぎからは、市街地の支店を訪問。
その後は東北新幹線で南下、盛岡と一ノ関でも下車しました。
支店ごとにそれぞれ個性があり、興味深く回ることができました。

訪問した東北の旅行会社

一ノ関から東京に戻る新幹線は、指定席が満席ということで、別途グリーン券を購入することになりました。
痛い出費でしたが、東京駅に着いて羽田空港に向かい一路松山へ。夜10時頃には帰宅できました。

使い勝手はどうだった

今回の旅行は、いずれも全国旅行支援を使って宿代を少し節約できました。
一方で、旅行支援の影響なのか、宿の空室が少なかったり、そもそも旅行支援が受けられる宿を探すのに苦労するなど、不便さも多々感じました。
全国規模の政策でありながら、各県が事業主体となり、既存の県民割をベースにしたことが一因でしょう。
旅行客としてみるならば、以前のGoToトラベルと比べて、全国旅行支援の使い勝手はあまりよいとは言えません。
まず、支援対象の宿を探すために、複数の予約サイトを何度もチェックしないといけません。
予約サイト、旅行会社によって、どの県のホテルなら支援がまだ受けられるのか、あるいは支援の枠が無くなっているか、それぞれ異なるからです。

また、配布されるクーポン券も、GoToトラベルのときは宿泊地だけでなく隣接する県でも使えましたが、今回の旅行支援では宿泊した県でのみの使用になります。
私が今回した旅のように、各県をひたすら移動、周遊する場合、単一の県でしか使えないクーポンは、使い勝手が悪いと言えそうです。
埼玉県のように期限が長くて便利なクーポンもあれば、QRコードを読み取るタイプのクーポンだったりと、県によってクーポンの形式が大きく異なるのも、今回の特徴です。

今回の全国旅行支援は、12月20日まで続きます。
同様の旅行支援が来年も行われる可能性はありますが、旅行客、そして旅行会社やホテルにとっても使いやすい制度に洗練されることが、重要だと感じます。
そして何よりも、旅行支援の政策に頼らずとも、観光需要がしっかり回復することを願っています。

この記事を書いた人

後藤 茂文

後藤 茂文

津局、大分局を経て2020年から松山局勤務。遊軍担当として、公共交通や農業、文化などを取材。全国のJR線の約99%を乗車済み。