私たちの生活に欠かせないガソリンスタンド。これからの時期マイカーの給油だけではなく、暖房器具用の灯油も必要です。ところが今、店舗の数が急減していることにお気づきでしょうか?
車の燃費向上で需要が減ったことも影響していてやむをえない部分もありますが、車での移動が欠かせない山間部では、深刻な影響が広がっています。
(NHK松山放送局 川原 の乃)
給油のために30キロ先から
四国山地に囲まれた久万高原町。県内で最も広い自治体です。美川地区にあるガソリンスタンドで利用客に話を聞きました。
利用客
「28キロ離れた面河のほうから来ました。昔はここに来るまでにスタンドが4軒あったけれど、全部なくなってしまった。」
利用客
「これから年をとっていくから、ガソリンスタンドが近くにないと困るんだけど・・・」
町内には多いときには20店舗ほどガソリンスタンドがありましたが、今では9か所に半減。給油のためだけに数十キロの道のりを車を運転してくる客も少なくありません。人口減少の傾向が続く中山間地域では、ガソリンスタンドの「過疎化」の影響がいっそう色濃く表れています。
地域の足にも影響が
ガソリンスタンドの「過疎化」は、地域の足にも大きな影響を及ぼしています。高知との県境に近い柳谷地区でタクシーや町営バスの運行会社を経営する鶴井勝明さんです。周辺の店舗が相次いで廃業したため、10数キロ離れた店舗まで給油に行かなくてはなりません。ガソリン価格の高騰に加え、スタンドまでの往復にかかる燃料代もかさみ経営の大きな痛手になっていると言います。
鶴井専務
「燃料も高騰していますので、やはり給油のために移動の距離が長いということは、経営にとっても、負担に感じております、週に1回か2回でも給油できるような形のものでもできれば大変ありがたいなと思います」
「サービスステーション過疎地」とは
国は給油所が3か所以下の自治体、または最寄りの給油所まで15キロ以上離れた居住地がある自治体について、「SS(サービスステーション)過疎地」と定義していて、愛媛県内でも20の市と町のうち、久万高原町も含めて9つの市と町が該当します。こうした地域では安定的にガソリンや灯油などの供給を受けることが困難になっている可能性があるとしています。
町も動き始めた
こうした状況を打開しようと、町が動き始めました。
久万高原町は町民にガソリンや灯油を安定的に供給するための取り組みに必要な経費として1000万円の補正予算を計上。先行する自治体の取り組みを調べたり、住民から意見を募ったりして、今年度中に具体的な計画を策定することにしています。
とはいえ、ガソリンスタンドの維持や管理には莫大な費用がかかります。人口減少が進む一方で、山間部に人が住んでいるエリアが点在しているという地理的な特徴も、いっそう対策を難しくさせています。町はこうした事情を踏まえながら、今後採算がとれる方法を検討していくことにしています。
「採算ベースに乗らないことが一番危惧されるので、どれくらい需要があるのかを見極めながら検討したい。車のガソリンだけでなく、冬場の灯油の供給をどうするかという問題もあるため、配達なども視野に入れながら考えていきます」
ガソリンの流通に詳しい専門家は、需給のバランスを考えても、ガソリンスタンドが減っていく流れは避けられないとしています。そのうえで生活に必要な燃料を安定的に供給しつづけるためには、これまでのガソリンスタンドのあり方を考え直す時期にさしかかっていると指摘しています。
「ガソリン供給は、水道などのインフラと同じように、広い地域に安定して供給する方法を考えなければならない段階にきています。ガソリンの供給拠点のあり方にはさまざまな選択肢がありますが、地域ごとに最も効率的で安定的な方法を選んで、住民が納得できる方法を見つける必要があると思います」
取材後記
歯止めのきかない人口減少に加えて、国は2035年までに、すべての乗用車の新車を電気自動車などにする目標を掲げています。こうした時代の流れの中で、莫大な維持費が掛かるガソリンスタンドが地域から減っていくのは、ある意味、仕方のないことなのかもしれません。しかし久万高原町の住民の「これから年を取っていけば、遠方まで給油に行くのは大変」という声は切実です。さらに山間部のお年寄りの移動を支える公共交通を維持することも必要不可欠です。ガソリンを今必要としている地域の住民の生活をどのように支えていくべきか、ガソリンスタンドのあり方とともに考えなければいけない局面にきていると感じました。