2022年10月28日

「止まらない“円安”」 愛媛の現場から

「作っても作っても利益がでない」
愛媛県松前町の企業の社長は、そう言って顔をしかめました。
円相場は10月20日、一時1ドル=150円台まで値下がりし記録的な円安が続いています。
影響はどこまで広がっているのか、現場を取材しました。

(NHK松山放送局 大久保凜/谷岡由実)

16種類のスパイスが値上がり

松山市花園町。
松山放送局に近くにあるインドカレー専門店です。
NHK職員の間で“第2食堂”とも呼ばれ、特にランチタイムはいつも賑わっています。

店長のアリヤル・ビシュヌさんに円安の影響を聞いてみました。

アリヤル・ビシュヌさん

「カレーの種類は36種類あります。16種類のスパイスを使っていますが価格がどんどん上がっています」

すべてインドなどから輸入しているというスパイスを見せてもらいました。

左からチリパウダー、クミン、コリアンダー

1年前と比較した仕入れ価格は以下の通りです。


カレーに欠かせないサラダ油も2倍以上値上がりしました。
1か月に140リットルも使用しているので大きな負担増となります。

ランチを値上げ

40円~50円値上げした

仕入れ価格の上昇に対抗するため、アリヤルさんは少しでも安いスーパーで鶏肉を調達するなどしてきました。
しかし、その努力も上昇のペースには追いつかず、10月にランチセットの値上げに踏み切りました。
店長になって3年になりますが値上げをするのは初めてです。

足元では円安がさらに進み、仕入れ価格は今後も上昇が見込まれています。

アリヤルさんは少なくとも年内は、ほかのメニューの価格を据え置くつもりですが、今のペースが続けば年明けには値上げも検討せざるを得ないと考えています。

アリヤルさん
「まずはコロナの影響があって、ウクライナ情勢でモノが値上がりしているのでお客さんの負担が増えています。僕たちはできる限り値上げをしたくないですが、仕入れ価格がもっと高くなったときは、多分、値上げをしないと厳しいです」

作っても利益が出ない?

松前町にあるホテルなどのアメニティーグッズを製造する会社です。
工場の中を案内してもらうと、あらゆる機械が忙しそうに稼働し、大量の歯ブラシが作られていました。
会社全体では月に600万本も歯ブラシを生産しているそうです。

この工場は、おととし急拡大した新型コロナの直撃を受けました。
緊急事態宣言や外出自粛で宿泊施設の需要が激減し、工場の生産ラインは週に2日ほどしかなかったこともあったそうです。
しかし、ことし夏以降は回復基調になり、さらに10月からは旅行代金の割り引きを受けられる「全国旅行支援」の追い風もあって今はフル生産が続いています。

一見、V字回復のように見えますが、社長に話を聞くと手放しでは喜べない事情があるようです。

(山陽物産 武内英治 社長)
「製造量はコロナの時と比べると2倍くらいに増えました。政府の旅行支援も始まって、これから年末にかけて仕事がどんどん来ると思います。本来ならばこのときに、業績を挽回したいところなのですが、今は作っても作っても利益が出にくい。それくらいの円安になっています」

すべてが値上がり

この会社では歯ブラシの毛に使うプラスチックをタイから輸入しています。
しかし、円安の影響もあって仕入れ価格は1年前と比べて30%値上がりしました。

ホテルの部屋などで使うスリッパは中国にある自社の工場で生産、袋詰めまで行ってから輸入しています。
円安に加えて影響が大きいのが輸送費の高騰です。

(武内社長)
「コンテナ輸送費の値上がりも大きいです。3年前と比べると中国で3倍、ベトナムでは4倍に跳ね上がっています。作っても作っても利益が出ないというのはちょっと悲しいかなと思います」

値上げが追いつかない

取引先に送った通知

会社は9月、取引先への販売価格を引き上げました。
先だって6月に各社に通知した文書を作成した時、会社が想定した円相場は1ドル=125円でした。

しかし、それ以降みるみると円安が進み10月下旬には1ドル=150円台まで値下がりしました。
値上げに踏み切ったにも関わらず、採算がとれない状態に陥っているのです。

会社は年明けにも再度の値上げを検討せざるを得ないと考えています。
それまでの間、一部の商品は原価割れの状況で作り続けるしかありません。

(武内社長)
「一企業で円安に取り組むのは難しいと思っています。急な円安なので経費削減といっても対応が難しく、今のところはお客様に理解をお願いするしかありません。商品を作っても適正な利益が出ないということは非常にモチベーションの部分で難しいと思います」

大久保の感想

取材したカレー専門店では、お店で使う食材という食材、どれもが大幅に値上がりしていて、店長のアリヤルさんの表情からも影響の深刻さを実感しました。
仕入れ価格の上昇に頭を抱えたていたアリヤルさんですが、「困っているのは自分だけじゃない。お客さんもいろんなものの値上げに困っているはず」と、できる限り今の価格を維持しようとしていました。
地元の人に愛される飲食店。苦しい状況が続きますが今をなんとか乗り切ってほしいと切に願います。

谷岡の感想

宿泊需要が回復して商品の販売を伸ばすチャンスなのに、円安の影響で必ずしも利益に結びつかないもどかしさや苦しさを感じました。
武内社長が言うように、一個人、一企業としては円安に対して取り組むことが難しいかも知れませんが、試行錯誤を繰り返しながら未来を見据えて頑張る方たちがいることを知ってもらい、地域の声を伝えていきたいと思います。

この記事を書いた人

大久保 凜

大久保 凜

2022年入局のディレクター。愛媛が初めての一人暮らし。
今の目標はバイクの免許を取って愛媛・四国を隅々まで回ること。

谷岡由実

谷岡 由実

2022年入局、音声志望のエンジニア。趣味は電子マリンバの演奏とドラマ鑑賞。
松山市出身。