2022年10月26日

世界の壁を駆け上がる!スポーツクライミング 大政涼選手

「本当に鳥になった気分というかそんな感じがしますね」

高さ15メートルの壁を登り、速さを競うスポーツクライミングの「スピード」
松山大学2年の大政涼選手(20歳)は、競技中の感覚について、こう語った。ことし、この種目で日本記録を3度更新。2年後のパリオリンピックに向けて、自信を深めている。

(NHK松山放送局 キャスター 白井英里子)

五輪実施のスポーツクライミング

ホールドと呼ばれる突起物が取り付けられた人工の壁を登るスポーツクライミング。速さを競う「スピード」。高さを競う「リード」。制限時間内に登った壁の数を競う「ボルダリング」。
去年の東京オリンピックでは、追加競技として初めて採用され、この3種目の総合成績を競う「複合」が実施された。2年後のパリオリンピックでは「複合」がボルダリングとリードの2つで争う方式に変更され、「スピード」が単独の種目となっている。

日本記録を3度更新

高さ15メートルのスピードの壁

大政選手はスピード種目でことし急成長。
3月に国内トップ選手が集まるスピードジャパンカップで初優勝を果たし、
日本記録に0秒07と迫る5秒79をマーク。衝撃を与えた。

そして6月に行われたワールドカップの第4戦。
日本新記録となる5秒61をたたきだした。
「まだまだいける自信がある」
そのことばどおり、快進撃は止まらなかった。
続く第5戦では、5秒58。100分の3秒更新したのだ。

さらに7月に地元愛媛で開催された大会。
みずからの記録を大幅に更新する5秒42をマークした。

「誰ともしゃべらず、ずっと緊張していました。
タイムを見た瞬間日本記録更新だったので本当に最高でした。
まだまだ更新を狙っていきたいです」

ハードな練習を耐え抜く精神力

一躍頭角を現した大政選手。
クライミングとの出会いは、近所にできたクライミング施設に遊びにいったこと。
小学5年生の時にリード種目から競技を始めた。

「実は高いところが苦手で、昔は怖くて壁を登った後、落ちれなかったです。
最後まで登れたときの達成感にはまりました」

始めてわずか2年足らずで全国の表彰台にのぼった。
長年、大政選手を指導してきたコーチはハードな練習を耐え抜く精神力があったと振り返る。

愛媛県山岳・スポーツクライミング連盟の青木亮二さん

「嫌とかノーと言わない子だったのでそういう面ではストイック。
自分で決めたことは絶対に曲げないですね」

飛躍のかぎは脚力と上半身の連動

ハードルも軽々跳びこえるジャンプ力

大政選手の最大の強みは脚力。
壁を足でしっかりと蹴り、駆け上がるように登っていく。

「スピードクライミングは、ほぼ止まっている時間が無いので蹴って蹴っての繰り返し。 無心で登っていきます」

さらに東京にいるトレーナーと契約し、体幹を中心に強化したことで、
脚力と上半身の力がより連動するようになり、飛躍につながった。
日本代表のコーチも大政選手についてこのように評価し、
期待の高さをうかがわせた。

日本代表(スピード担当)/明治大学教授 水村信二コーチ

「単独で引く力が強い、単独で蹴る足の力が強いという選手は多くいますが、
大政選手はそれをうまく壁で連動させることができます。
引く力は世界のトップ選手と比べて伸びしろがあるので、 まだパフォーマンスが上がる余地があります」

パリ五輪、そして前人未到の4秒台へ

W杯を転戦し、世界の舞台で活躍する大政選手。
海外のトップクライマーのパフォーマンスを目の当たりにすることで強い刺激を受けている。

「選手によって、登り方や足の置く位置が違うので、いろんな選手と話すと
自分に役立ちます。5秒0を間近で見ることができて、どんな感覚なんだろうって気になります。
早く世界に追いつきたいです」

来年からはパリオリンピックの代表選考もスタートします。

「スピード種目は世界に比べるとまだ遅いほうと言われていたんですけど、日本の選手全員が成長していて、僕自身もまだまだいける自信があるので、まずはパリオリンピック出場を目指して日々頑張っていきたいです」

大政選手は初めてのオリンピック出場だけでなく、前人未到の4秒台へも意欲を見せている。

「4秒台を出している選手はいないので、僕が1番と言ったらやばいかもしれないですけど、そのぐらいの勢いで頑張っていきたいです」

愛媛から世界へ

「スピード」で、日本のトップをいく大政選手だが、 ほかの2種目にも取り組んでいる。
中でもボルダリングではことし6月、大学生の世界大会で優勝を果たした。
今後も3種目での日本代表入りを目指して取り組んでいくという。

大政選手は、成長の要因の一つに、地元愛媛の環境をあげている。
愛媛国体を契機につくられた、西条市のクライミング施設は3種目の壁すべてがそろう。
さらに大きな屋根があり、雨の日にも練習できる。こうした環境は現在、全国で3つの府県にしかない。
「愛媛でも」ではなく、「愛媛だからこそ」の環境で世界の頂点を目指す。
今後も大政選手の活躍に目が離せない。

この記事を書いた人

白井 英里子

白井 英里子

2021年からひめポン!のスポーツキャスターを務める。柔道初段。
趣味は温泉巡りとバスケットボール。