2022年10月21日

社員寮で“コミュニケーション力”を磨け?!~新居浜市~

愛媛県新居浜市に250人以上が入居できる大規模な社員寮が新設されました。
寮を建てたのは東京に本社がある大手企業で、この会社としても最大規模の社員寮です。
なぜいま新たに社員寮を作ったのか?企業の“戦略”に迫りました。

(NHK松山放送局 中元健介ディレクター 岸本南奈キャスター)

社員確保のため 新設された新社員寮

新しく出来た社員寮(新居浜市)

今年8月、新居浜市に完成した高級感あるマンション風の建物。
鉱山開発や非鉄金属製錬の大手、住友金属鉱山(本社・東京)の社員寮です。
全部で259室あり、約180人が暮らしています。(10月19日現在)

住友金属鉱山(新居浜市)

この会社はなぜ新たに社員寮を作ることになったのか?
別子地区には国内最大級の銅の製錬工場などがあり、およそ1500人の社員が働いています。工場に近い場所には社宅、社員寮が設けられ、500世帯ほどが生活しています。

以前の社員寮

しかし、社員寮の多くは築50年以上、部屋は畳敷きの6畳一間で、バストイレ共同。
若手社員から敬遠されがちで、入居者も減少する一方でした。また、男性向けの寮しかなく、近年増えている女性社員は入居できません。借り上げ社宅を増やすなど対応していましたが、民間マンションが少ないため、住宅の確保は困難です。この会社では少子化が進む中、優秀な人材を獲得するためにも、新たな社員寮を建てることにしたのです。

全国では半減

かつては福利厚生の象徴であった社宅や社員寮。
しかし、バブル崩壊以降、企業の経費削減や社員の意識の変化などから、社宅や社員寮を閉鎖して土地を売却したり、制度そのものを見直したりするところが増えています。

全国の部屋数は、1993年には205万でしたが、2018年には110万とおよそ半数に減少しています。そんな中で、新しい寮は作られたのです。

会社の歴史は社宅・寮とともに

1691年、「別子銅山」の開坑が原点というこの会社、明治以降は別子銅山や関連工場などの周辺に社宅や寮が数多く建てられました。

旧住友鉱業別子鉱業所長社宅

新しい社員寮が出来た地区には、会社の前身である旧住友鉱業の別子鉱業所長社宅などの社宅があり、国の「登録有形文化財」となっています。
昭和初期に建てられた幹部社員用の一戸建ての社宅は、大きいものだと敷地面積1000㎡を超える広さ。当時の社員にはこうした社宅に住むことがステータスだったといいます。

共有スペースで“対話力”を育め!

新しい社員寮には、若手社員の心をつかむ様々な“仕掛け”が設けられています。
特に重視しているのは“共有スペース”。これまで社員寮というと、多くの社員が入居できることが重視され、共有スペースは十分確保されていませんでしたが、ここでは自室以外でもくつろげる空間が設けられています。

談話スペース

こちらは「談話スペース」。ゆったりした空間にソファーやテーブルが置かれています。会社から帰った社員が部屋に一人でこもるのではなく、同僚とコミュニケーションを取り、“対話力を磨いてほしい”というのが狙いです。

(入居者)
「他の社員と仕事の悩みから、恋愛相談まで様々な話が出来るのが魅力です。同期に悩みを話せば視野が広がるし、違った解決策を見つけることも出来るので、このスペースを有効活用しています(笑)」

(入居者)
「地元を離れているので、寂しい時や誰かと話がしたい時、とても助かります。
他の部署の人と仲良くなって遊びに行くこともありますね」

(住友金属鉱山 人事グループリーダー 大森隆史さん)
「少子化が進む中で人材を確保するには、地元採用以外の割合が高まるので、寮という“受け皿”も大切だと考えています。新しい寮ではプライベート空間も大切にしますが、互いに刺激しあい、成長して行ってほしいと考えています」

“シェアキッチン”でチームワーク!

シェアキッチン

この寮には「シェアキッチン」も作られています。
寮には大食堂が設けられ、豊富なメニューが用意されていますが、自分で料理をしたいという社員も多いことから、シェアキッチンを設けて、自由に利用できるようにしています。
ここでは自分一人で料理をするだけでなく、同僚と一緒に料理をすることで、チームワークを育むことを期待しています。

(入居者)
「一緒に料理すれば自然と連帯感も生まれるし、職場では分からない一面も見られるので、より仲も深まります」

(入居者)
「“シェフ”と呼ばれているほど料理上手な社員がいるなど、お互いを良く知ることのできる場になっていますね」

寮で“飲みニケーション”?!

食堂の一角には「バーカウンター」もあります。ビールサーバーが置かれ、焼酎、ウイスキー、日本酒なども楽しめます。“5時間飲み放題、982円”という値段の安さもあって大人気!お酒を飲みながら会話を交わすことで互いを理解し合う、“飲みニケーション”の場として活用してもらおうとしています。

バーカウンター

繁華街から少し離れた場所にあるこの寮では、飲みに行くのは一苦労。社員の意識の変化や、コロナ禍の影響もあり、上司や先輩社員と連れ立って飲みに行く機会も少なくなっています。そんな中、寮の中で気軽に一杯が楽しめるこのバーカウンターは、若手同士のコミュニケーションを深める上で大いに役立っていると言います。

(入居者)
「このバーカウンターは、帰る場所も同じ建物の中なので、気軽に飲めて助かっています」

(新入社員)
「職場の中と違い、他人の目を気にせずに、お酒を飲みながらゆったり話が出来るのがいいですね」

「飲みニケーション」という言葉、ちょっと古いかも知れませんが、お酒を酌み交わしながら本音で意見を交わしたり、絆を確かめ合ったりするのに役立っているということです。

それぞれのペースで過ごせる工夫も

寮では共用スペースを充実させ、コミュニケーションを取ることを促す一方、“プライベートの時間を大切にしたい”という社員の要望にもこたえています。

こちらの食堂では、スマホからピザやポテトを注文して、寮の部屋まで“宅配”するサービスも行っています。帰宅後や休日は一人で過ごしたいという人にも配慮した仕組みを作り、若手が働きやすい環境づくりに努めています。

(住友金属鉱山 人事グループリーダー 大森隆史さん)
「会社として寮を作る以上、プライベートな空間も大切にしますが、社員同士がコミュニケーションを取り、対人関係や交渉力など、ビジネススキルにつながる部分を成長させる場にしたいですね」

中元ディレクターの感想

バブル期に建てられた社員寮は“豪華さ”を売りにして新入社員の獲得に活用していましたが、今は、社員同士の“コミュニケーションの場”として注目する企業が増えています。
プライバシーを重視しそうな若手社員ですが、思った以上に寮での同僚との交流を楽しんでいることにも驚かされました。

岸本キャスターの感想

今回、取材した新入社員の皆さんは、コロナの影響で大学の授業や就活もリモート。リアルなコミュニケーションができる場が充実していることを素直に喜んでいたのが印象的でした。私自身、学生時代に寮生活をともにした仲間との絆は今も続いています。これだけ充実した環境で過ごすことで、きっと心から信頼し合える仲間と出会えるのではないかと思いました。

この記事を書いた人

中元健介

中元健介

スポーツ番組・ドキュメンタリーのディレクターとして、スノーボード・平野歩夢選手、ソフトボール・上野由岐子選手、バスケ・田臥勇太選手、相撲・琴奨菊などを取材。
寮に住んだ経験はありませんが、相撲部屋や合宿所には数多く足を運びました。

岸本 南奈

岸本 南奈

学生時代は寮生活を経験。
地元の徳島局、富山局を経て、2020年から松山局で夕方のニュース番組「ひめポン!」のキャスターを務める。地域で懸命に生きる人の思いに寄り添った取材を目指しています。