2022年10月3日

無職で不安な人たちへ 漫画家が伝えたいこと

いま、宇和島市出身の作家が連載している漫画が注目されています。
タイトルは「無職の学校」。作家自身が無職となったとき、職業訓練校に通っていた時の経験を元に、訓練校の仲間たちと再就職を目指す人間模様が描かれています。
新型コロナの感染拡大期、県内でも多くの人が仕事を失うなど雇用情勢は悪化しました。漫画に込めたメッセージを聞きました。

(NHK松山放送局 後藤駿介)

職業訓練校とは

ポリテクセンター愛媛(職業訓練校)

そもそも職業訓練校とはどういう場所なのか。
実は恥ずかしながら、私も取材をするまでは詳しく知りませんでした。
職業訓練校とは離職した人たちが、ものづくりや建設などさまざまな専門の技術を学びながら就職を目指す施設のことを指します。
手に職をつけて、就職の際に有利になるようにすることも狙いです。

訓練期間は数か月から数年です。
通いながら手当などをもらうこともでき、安心して就職を目指せることも特徴の1つです。
雇用保険を受給せず、収入が一定以下の場合などには、国から月10万円の給付金も受けられます。

しかし、課題があります。それは認知度の低さです。訓練校の役割が十分に認識されていないのです。
松山市にある職業訓練校のひとつ、「ポリテクセンター愛媛」でも、昨年度の受講生の人数が5年前と比べて2割ほど減っているといいます。

職業訓練校を題材にした漫画とは

この職業訓練校を題材にした漫画が「無職の学校」です。
「週刊ビッグコミックスピリッツ」でことしから連載が始まりました。
作者の清家孝春さんは宇和島市出身。
自身が無職のとき、訓練校に通った経験を元にした作品です。

主人公は、高校を卒業し、アルバイトを7年間続けた20代の赤松利隆。
これまで、同居していた姉に助けられながらバイトで生計を立てていましたが、姉の婚約をきっかけに正社員になることを決め、職業訓練校に通うことになりました。

漫画には、前職で大きな失敗をして失業した女性や病気になってダンサーの夢に挫折した男性なども登場します。
さまざまな理由で仕事を失いながらも、訓練校で出会った仲間たちと一緒に就職を目指すストーリーです。

登場人物は清家さんが実際に出会った人たちをモチーフに描かれているといいます。
互いに助け合いながら、手に職をつけようと懸命に努力をする姿がとにかく印象的です。

漫画家が伝えたいこと

清家孝春さん

作者の清家孝春さんが漫画を通して伝えたいことを聞きました。
それは、無職で不安を抱えている時に感じた、職業訓練校という場所の意義の大きさだといいます。

「無職で寂しいとか不安だという気持ちは、一緒に住んでいる家族とも共有できない気持ちだと思います。僕も仕事をなくして心細い思いをして、自分自身が嫌いになったりもしました。そうした時に職業訓練校で同じ経験をしている、同じ状況にいる人たちと言葉を交わすことがすごく自分の心のエネルギーになりました。選択肢の一つとして職業訓練校があることを知るだけでも心がとても落ち着くと思うので、その存在を伝えたいです」

その上で、漫画を通して、職業訓練校のイメージを変えたいとも話します。

清家孝春さん
「訓練校に通うということが恥ずかしいということではなく、ボーナスステージみたいな楽しい場所だよというのを積極的に伝えられたらと思いますね。いろいろな人と出会いながら勉強ができる。人生を豊かにする場所という認識になったらなと思います」

労働局も動き出す

清家さんの漫画をきっかけに愛媛労働局も動き始めました。
職業安定部の三原理志部長は、訓練校の認知度の低さに悩んでいた時に清家さんの漫画を目にし、「これだ!」と思ったといいます。
すぐに清家さんに連絡を取り、この漫画を大々的に使った訓練校をPRするポスターを作りました。

そして、労働局の職員が持っているカメラなどの機材を持ち寄って、清家さんが訓練校で感じたことなどをインタビューする動画を制作してネットで配信しました。
その速い行動の裏には、新型コロナの感染が拡大したときに雇用状況が悪化した苦い経験があるといいます。

愛媛労働局 職業安定部 三原理志部長

三原理志部長
「新型コロナの感染拡大のあと、飲食業など対人サービスを伴う職種が非常に大きな打撃を受けて雇用が不安定になりました。そうしたときに手に職をつけながら就職を目指せる職業訓練校の意義は大きいと思います。細部に渡ってリアルに職業訓練校が描かれている清家さんの漫画をきっかけに、多くの人にその魅力を知ってもらえたらと思います」

清家さんが仕事で悩んでいる人たちに伝えたいこと

最後に、清家さんが離職したりして無職になったりした人に伝えたいというメッセージをご紹介します。

清家孝春さん
「無職や仕事がない時の寂しさはとても大きいものだと思います。僕もそうでした。自分の漫画の連載が始まってからも、これからやっていけるのかというとまだまだ不安で、結局何を手に入れても不安はあると思います。
そういう意味では、ずっと不安と付き合い続けるのが人生かなとも思います。
とりあえず明日丁寧に生きて、ちゃんとした時間に起きて歯磨きをしたり、風呂に入ったりと小さな事を積み重ねて自分を肯定できたら良いなと思います。
僕もこれから仕事を失うかもしれないですし、そういうときには小さいことで自分を褒めてあげたいなと思います」

担当記者

後藤駿介

後藤駿介

2016年入局。前任地は福島県の南相馬支局、震災と原発事故について取材してきました。
これまでの取材で一番惚れたのは逆境の中、大漁を目指す相馬の漁師。愛媛でも大漁目指して取材に邁進します。