2022年9月29日

四国遍路は“オーセンティック”! 海外の人に聞いた魅力

四国が誇る遍路が海外から高い人気となっているのをご存じでしょうか。
世界的な旅行ガイドブックでも高く評価され、海外のSNSでも盛り上がっています。
コロナ禍で外国人観光客が激減したのに、なぜそこまで注目されるのか、不思議に思って取材をしてみました。
「遍路はもう知っているよ」という方も読むと新たな発見があるかもしれません。

(NHK松山放送局 ディレクター 髙橋英佑)

四国が“世界6位”に選ばれた!

「四国遍路」。
それは、約1200年前に弘法大師(空海)が修行した八十八カ所の霊場をたどる巡礼のことを指します。
総距離はおよそ1400kmにおよぶとも言われています。

遍路を歩く人々は「お遍路さん」と呼ばれ、江戸時代には大衆に親しまれるようになりました。
お遍路さんに食事を振る舞ったり宿を提供したりする「お接待」という独特の文化も生まれ、今も四国各地で受け継がれています。

ただ近年はレジャーの多様化などの影響で、お遍路さんが減少。
巡礼に来る人は10年で4割減少したとも言われます。

その一方で、実はいま遍路が「世界」から大きな注目を集めているというのです。
ある施設の統計では、2017年からの5年間で世界各地およそ50の国と地域からお遍路さんが訪れるほどになっています。

四国遍路の人気ぶりは、世界的旅行ガイドブックにも認められています。

毎年、世界各地の訪れるべき場所をランキング形式で発表している「ロンリープラネット」。日本からは過去に京都などの有名観光地が名を連ねてきました。

それが昨年11月、「2022年に訪れるべき場所地域部門」に“四国”を6位に選出しました。しかも日本で唯一のランクインです。

今回、編集者を取材することができました。
すると「遍路」の存在が、選出の大きな要因になったと明かしたのです。
編集者いわく、新型コロナ以降、自然や伝統を感じながら歩く旅がトレンドになっていて、四国遍路はぴったりなんだそうです。

確かに八十八カ所の伝統ある寺院を回るだけでなく、瀬戸内海・太平洋・四国山地のような自然を感じられる遍路は、コロナ禍に適した体験かもしれません。

さらに遍路の持つ特別な魅力として、ある“キーワード”を挙げました。
「オーセンティック」という言葉です。

オーセンティックな体験って?

「オーセンティック」とは、「本物の、正真正銘の」といった意味の英単語です。

いま日本への旅行者は『ただ有名な都市を訪問するのではなく、日本の本質を知りたい』と感じていて、四国遍路は旅に“オーセンティック(=本物)”を求める人に完璧な場所だというのです。

では“オーセンティックな体験”とはどんなものなのでしょうか。

私(ディレクター)は、実際に遍路を経験した人に話を聞くことにしました。

マーク・グルネウォルドさん

会いに行ったのは、遍路が大好きだという高松市在住のカナダ人、マーク・グルネウォルドさんです。

6年前に遍路を経験してからその魅力にとりつかれ、自ら本も出版したという「遍路マニア」です。

「オーセンティックな体験がしたいなら」とグルネウォルドさんが連れて行ってくれたのは、第七十五番札所の善通寺でした。

善通寺の“オーセンティック”な体験として、まず案内してくれたのは寺の本堂でした。
善通寺では本堂に入って本尊を拝むことができます。
四国では当たり前のことですが、実はこれが“オーセンティックな体験”の一つなのだといいます。

「たとえば京都の金閣寺は池をはさんだ場所からでしか見ることができず、遠くに感じます。一方で、四国遍路でめぐるお寺はどこも近くで見ることができます。特に善通寺のようにお寺の中に入れる体験はものすごく貴重です」

「地域の人々が大切にしてきた信仰の場に入り込んだような感覚になれる」
その感じが、日本各地の観光地をめぐってきたグルネウォルドさんにとって特別な体験なんだそうです。

善通寺には“オーセンティックな体験”はまだまだありました。
次に向かったのは、御影堂で体験できる「戒壇めぐり」です。

「戒壇めぐり」は弘法大師(空海)が生まれた場所まで地下道を歩くというもので、歩いた先では、弘法大師の声を再現したことばを聞くことができます。
中は本当に一寸先も見えない暗闇です。

「暗闇を歩いていると悩みや考えごとを忘れてリフレッシュできます。生まれ変わったような気分になるのです。善通寺での体験は、ただ建物や文化に触れるだけでなく、自分自身を知る機会にもなります。このように、文化や人々との表面的ではない、つながりを感じられるのが遍路の大きな魅力です。四国には木々や川の自然、歴史有る神社仏閣などがあります。そこに加えて人々との親しい交流もできます。日本の文化の本質を感じたい人にとって、四国はまさに完璧な場所だと思います」

オーセンティックな体験はなぜ四国で可能なのか?

神社仏閣があって親切な人と出会える体験は、日本全国至る所でできそうな気がします。
それなのになぜ遍路がとりたてて“オーセンティックな体験”だというのでしょうか。

徳島大学准教授 モートン常慈さん

その答えを求めるため、外国人と遍路の関係に詳しい徳島大学准教授のモートン常慈さんに聞きました。
モートンさんは、遍路には3つの重要な要素がそろっているからだと指摘します。

①「リアルジャパン」
観光地化されていないからこそ、日本本来の姿がある。
②「クールジャパン」
洗練された興味深い文化的な体験ができる。
③「オールドジャパン」
四国遍路という長く続く伝統と、昔ながらの風景が残っている。

モートン常慈さん
「その3つを四国で経験することができるため、オーセンティックを求める人々の心を捉えるのだと思います」

2022年10月には外国からの個人旅行が解禁となり、今後さらに海外のお遍路さんが増えると見込まれています。
遍路をもっと世界に広めていくためには、「オーセンティック」というキーワードがヒントになるかもしれません。

この記事を書いた人

髙橋英佑

髙橋英佑

2020年入局のディレクター。趣味はフィルムカメラを持って街中を歩くこと。愛媛は歩きがいがあって楽しいです。