東京のオフィス街に突如現れたド派手なキッチンカー。
その名も「みきゃんずキッチン」。これ、実は愛媛県の公式キッチンカーなのです。
東京で何を売り込もうとしているのでしょうか?上京までの日々を追いかけました。
(NHK松山放送局 木村京)
一回見たら忘れない?
5月下旬。キッチンカーの姿は今治市にありました。
今回のキッチンカープロジェクト、主導するのは愛媛県ですが、プロデューサーは今治市の小畠源さんが務めています。
キッチンカーやケータリングなど、飲食業に携わって10年以上のベテランです。
「キッチンカーは機動力がありますから、お客さんのもとに向かうことができるのが1番の強みですよね。良いものをどう伝え、提供していくかというところが大事なポイントになります」
「走るだけで宣伝になる」ことが強みのキッチンカー。
期待を寄せる小畠さんでしたが、作業を見守る中、思わず本音が漏れました。
「オレンジが強烈すぎますよね。東京まで運転するのがちょっと恥ずかしい(笑)」
色はとにかくド派手なキッチンカーですが、実は細かな部分まで工夫が凝らされているんです。インスタグラムを意識した丸いアイコンに。
外国人観光客の回復を見越して表記はあえて英語に。
とにかく「SNS」による拡散を意識したデザインとなっています。
愛媛のブランディング力とは
そもそも小畠さんはどんな思いでこのプロジェクトに加わったのか。
飲食業に携わって10年。ライブやスポーツイベントなどへの出店の傍ら、今治のご当地グルメ「焼豚玉子飯」の普及にもあたってきました。
自身も食べることが大好きだと話す小畠さん。
仕事で日本中を走り回っては各地の「おいしい」を食べてきました。
ただ、そのたびに愛する地元、愛媛県はグルメの発信力が足りないと痛感。
よい素材がたくさんたくさんそろっているのに、ブランディングで他県に差を付けられていると感じてきました。
愛媛県は、全国に名前を轟かせている「みかん」だけでなく、実は、キウイの生産量が全国1位です。
さらに高知が有名なカツオも、四国一の水揚げ量を誇る漁港が、愛南町にあることはあまり知られていません。
「みかんが強すぎるんでしょうね。あまりにも強すぎてその次のものがなかなか出てこない。すべてが点なんですよね。『いいものができました!』と言っても、イコール愛媛県とはなかなかならない。それぞれの市や県、が単独でやっていることも多い」
魚や豚にみかんを食べさせるなど、みかんに「頼り切っている」とも話す小畠さん。
食にこだわりがあるからこその辛口な指摘です。
そんな思いを抱えていた中、今回県から依頼されたキッチンカープロジェクト。
「愛媛のよいものをきちんと届けたい」と小畠さんは挑戦を決めました。
外観こそ「みかん」一色のキッチンカーですが「食」の部分はみかんに頼らず、こだわりを詰め込んだのです。
食材にもこだわって
完成したお弁当は八幡浜産の高級豚肉が主役です。
取材中の私も思わず舌なめずりしたほどよい匂いが立ちこめます。
関東の人の舌を意識した「甘すぎない」タレは試行錯誤の末に完成。
絡めてから焼くことで豚肉のおいしさがより引き出されます。
お弁当の価格は1000円。
豚肉丼の横には、今治名物のせんざんきや南予を代表するじゃこかつが添えられています。
みかんに頼らず、愛媛各地のおいしいものを一気に広める作戦です。
そして、都会のサラリーマンの休憩時間は1時間。待たせるわけにはいきません。
狭いキッチンカーの中でも、2分以内に提供できるよう練習を重ねます。
「あ!食べてみようと思ってもらえる環境をキッチンカーで作り上げ、おいしい料理を提供する。そうすればお客さんにはきっとわかってもらえる」
都道府県がキッチンカー事業に取り組む例は全国的に珍しく、プレッシャーもあったといいますが、愛媛の食材に小畠さんは自信を持っていました。
東京デビューはいかに?
7月6日。いよいよ東京デビューの日を迎えました。
場所は千代田区市ヶ谷駅付近。台風の影響が心配されましたが、2時間程度で50食が完売しました。
買いに来たお客さんたちは、事前にSNSなどで見ていた人もいて「懐かしい」など愛媛の話題で会話が弾んだとのこと。
「まだ余裕はありませんが、ひとまずほっとしています。今後はお客さんとの会話を交えながら、愛媛を印象づけるということを意識したい。お弁当で愛媛を主張するだけでなく、作り手も楽しみながらここをスタートにさらに愛媛のおいしいものものを伝え続けていきたい」
キッチンカーは今後、東京以外にも神奈川、千葉、埼玉も走る予定だということです。
小畠さん、そして愛媛県の期待を乗せたオールオレンジのキッチンカー。
都会で頑張る姿を見かけた際はぜひこの記事を思い出してくださいね!