2022年6月8日

真珠生産量 全国1位陥落の衝撃

12年連続で日本一の生産量を誇ってきた愛媛県の真珠。
しかし、農林水産省が5月に公表した水産統計で去年は長崎県に抜かれ2位に転落してしまいました。
生産量1位を誇りにしてきた地元に衝撃が走りました。

(NHK松山放送局 後藤駿介)

長崎に抜かれた

宇和海の穏やかな海

真珠の産地と聞くと、真珠養殖発祥の地として有名な三重県をイメージする人も多いと思いますが、実は生産量では愛媛県の方がずっと多いのです。
南予地域の宇和海がリアス式海岸に囲まれ養殖に向いていたこと、母貝として使うアコヤガイの生産が盛んなことなどから愛媛の生産は昭和中期から大きく成長しました。

愛媛県の生産量は2009年から2020年まで12年連続で日本一です。全国に占めるシェアは42%、産出額は57億円(2020年)で地域経済にとって重要な産業になっています。

しかし、農林水産省が公表した2021年の水産統計の速報値によると、愛媛県は前の年より30%以上減少して4300キログラムに。これに対して長崎県は5100キログラムで愛媛県を上回り1位になりました。

地元の人たちは

うわじま きさいや広場(宇和島市)

地元の住民もまさかの2位転落に衝撃を受けていました。

40代女性
「とても悔しい。愛媛の真珠はすばらしいので、生産量も2位じゃなく1位を取り戻して欲しい」
70代女性
「県外の友達も宇和島と言えば真珠とミカンが代表的よねと言ってくれています。2位転落は悲しい」


「生産量が日本一」の売り文句を使えなくなることへの反応もありました。
観光客などに人気の道の駅「うわじま きさいや広場」にある真珠店です。
商品の横には「日本一の真珠の産地」と誇らしげに書いた文字がありました。

松廣大士 支配人

「県外から来た客などに、なぜ宇和島で真珠を販売しているのかと聞かれると、生産量が日本一だからと説明してきました。そうしたPRができなくなるのはとてもさみしく感じます。ただ、品質は日本一だと思っているので、これからはそれを伝えていきたいです」

減少の原因はアコヤガイの大量死

死んだ状態のアコヤガイの稚貝(2019年)

生産量が大きく減少した理由は、養殖に使われるアコヤガイの稚貝の大量死です。
真珠の養殖は真珠のもとになる核をアコヤガイの体内に入れて行います。すると、核の周りに真珠層と呼ばれる膜ができて最終的に真珠となります。
宇和海ではそのアコヤガイの稚貝が2019年以降3年連続して大量に死ぬ被害が出ています。

提供:水産研究・教育機構

これまで大量死の理由は謎でしたが、国と県の研究機関が調べたところ、「ビルナウイルス科の新種」という新型ウイルスが原因であることがことし初めて特定されました。
このウイルスに感染した貝は、身が萎縮する症状が出るといいます。

では、どうすれば被害を防げるのか。
愛媛県水産研究センターの桧垣センター長によると、このウイルスに感染してもすべての貝が死ぬわけではないそうです。そこで大事になるのは、感染した貝にダメージを与えないことだといいます。

アコヤガイへい死対策協議会の資料より

貝の状態を確かめる方法は案外簡単です。
貝の裏側からライトで光を当ててみると身が影になって映るため、萎縮などの状態を確認することができます。

愛媛県水産研究センター 桧垣俊司センター長

「ウイルスに感染して弱っている状態の貝にダメージを与える作業をすると大量死が発生しやすくなります。貝の萎縮が観察された場合は、貝が網に付着するための足糸(糸状の繊維)を切って、網あげや網替えをするといった作業を控えて欲しいと考えています」

もうひとつ、今シーズンから始めた対策があります。
それは養殖場所の変更です。水温が比較的低い、北部の海域にはウイルスが少ないことがわかってきたため、その海域に貝を移動させて飼育を行うという試験を今シーズンから始めました。

「稚貝を一時避難的に飼育してやることでより多くの母貝を残そうというのが今回の試みです。対症療法的なことをできるだけ多く見つけ出して広く普及していきたい」

ウイルスに打ち勝つため、様々な対策が始まっています。
生産量1位奪還に向けて、愛媛県漁業協同組合は、生産者が研究者と一丸となって取り組むことが大事だといいます。

愛媛県漁業協同組合 平井義則 組合長

「厳しい状況は続いていますが、愛媛は生産に関わる人数など生産力は全国トップレベルだと思うのでアコヤガイの稚貝の大量死を少しでも食い止め、次は日本一を目指していきたい」

取材を終えて

今回取材していて一番印象に残っているのは、真珠の生産量が全国2位に転じたことを地元の住民のみなさんが悔しがっている姿です。それほどまでに多くの県民が真珠産業を誇りに思っていることを強く感じました。
生産量は2位に転落しましたが、品質や生産力は日本一だという力強い言葉も聞きました。アコヤガイの大量死の対策が進み、生産者が通常通りの養殖ができるようになることを願いながら、引き続き取材を通じて応援していきたいと思います。

担当記者

後藤駿介

後藤駿介

2016年入局。前任地は福島県の南相馬支局、震災と原発事故について取材してきました。
これまでの取材で一番惚れたのは逆境の中、大漁を目指す相馬の漁師。愛媛でも大漁目指して取材に邁進します。