2022年5月20日

愛媛県民はなぜから揚げが好きなのか

東京から愛媛に移住してきた女性からNHKにこんなメールが届きました。
「愛媛県民のから揚げ好きに驚いています。なぜこんなに?!気になるので調べて下さい」

から揚げの聖地といえば、全国的には大分が有名ですが、愛媛ももしや・・・!?
この疑問に答えるべく、から揚げを愛する記者が徹底取材しました。

(NHK松山放送局 的場恵理子)

依頼者の実感は正しかった!から揚げ専門店の割合は・・・

さて、どこから調べるか・・・。
インターネットで検索する中で見つけたのは全国のから揚げ愛好家などで作る「日本唐揚協会」です。
から揚げに関しそこまで有名ではない愛媛の話題に応じてもらえるのか、恐る恐る問い合わせをしたところ、驚きのデータを示してくれました。それがこちらです。

愛媛県は全国で5位、中四国ではトップでした。
協会によりますと、から揚げ専門店は2019年の消費税増税のタイミングで大手外食チェーンがから揚げのテイクアウトに乗り出し、その後のコロナ禍の巣ごもり需要がニーズに拍車をかけ、全国的にも増加傾向だということです。

冷凍食品会社が行ったこんな調査結果もありました。

愛媛県は全国3位。疑問を寄せてくれた方の実感は正しかったのです!

『骨付きから揚げ』が息づく愛媛

そもそも、愛媛にはなぜ、から揚げ好きの人が多いのでしょうか。
日本唐揚協会の専務理事、八木宏一郎さんに聞きました。

八木宏一郎さん

「愛媛には鶏を揚げて食べるという文化が昔からあるんですよ。なかでも骨付きのから揚げを食べるという文化がいまも息づいています」

愛媛の歴史ある骨付きから揚げ。その一つが今治市の名物グルメ“せんざんき”です。
“せんざんき”とは、しょうゆなどでつけ込んだ骨付きの鶏肉を揚げた料理です。

焼き鳥に詳しい今治市在住のフリーライターの土井中照さんによりますと、今治市の居酒屋の店主が太平洋戦争時に中国でその味を学び、戦後まもなく地元で販売を始めたことが発祥だと言われているそうです。

また、四国中央市では、鳥のもも肉を豪快にあげる“揚げ足鳥”と呼ばれるグルメがありこれも約60年の歴史があります。
唐揚協会の八木専務理事は、全国的には食べやすい骨なしのから揚げが普及していますが、骨の周りにはうまみがあり「骨付きから揚げ」もとても魅力的なから揚げだと言います。
そして、骨付きから揚げを根強く食べ続ける地域は全国的にも限られているため、愛媛のから揚げ文化は貴重だと教えてくれました。

愛媛県民にとって身近なお肉は「鶏」!無駄なくいただくSDGs精神も

愛媛県民と鶏肉との関わりについても調べてみました。
教えてくれたのは愛媛の食文化を研究する松山短期大学 垣原登志子教授です。

垣原登志子教授

「愛媛県民にとって、鶏肉は一番身近なお肉だったんですよ」

食糧難だった戦後、平地が比較的少ない愛媛県では身近にとれるタンパク源としてニワトリを数羽飼う家庭が多くありました。
卵を食べて鶏糞は肥料として利用し、最終的には肉にするという、ニワトリを無駄なくいただく食文化が根付いていたのだといいます。

垣原さんは、愛媛では骨付きで食べることも、この無駄なく食べるという風習が今に通じているのではと推察していました。
また、愛媛ではお祭りなど寄り合いの場でもごちそうとしてから揚げを食べる風習もあり、行事食としても県民に親しまれているのではないかということです。

「限られた状況のなかで、食材を大切に扱い食べてきた歴史がある。から揚げを通じて、そうした食文化の歴史にも触れることができるかもしれませんね」

愛媛らしい味付けのから揚げも!

愛媛とから揚げを語る上で欠かせないものがあとひとつあります。
それは、甘い味付けです。
松山市に本社があるスーパーが販売しているから揚げを食べてみると、優しい甘さが口いっぱいに広がりました。
スーパーの担当の方に聞くと、「愛媛の人は甘い味付けを好むといわれています。から揚げも、絶妙な甘さを目指し、甘めのしょうゆと砂糖が味付けのポイントになっています」とのことでした。
当初、愛媛以外の店舗では売れ行きは伸び悩んだということですが、その後は支持を受けて、今では、スーパー全体で1日約1トンも売れる人気商品に成長したということです。

的場の感想

今回の取材を通じて、初めて「揚げ足鳥」を食べたのですが、とてもおいしく、ますますから揚げが大好きになりました。
から揚げというと、どこでも食べることができるグルメというイメージがありましたが、歴史をひもとくと、地域に育まれたグルメであり、愛媛が誇る名物グルメとしてもっともっと売り出していけるのではないかとポテンシャルも感じました。
愛媛のから揚げがますます飛躍していくのか、その動向に引き続き注目したいと思います。

この記事を書いた人

的場 恵理子

的場 恵理子

徳島局を経て2019年から松山局勤務。災害・伊方原発の取材を担当。
好きな食べ物は「から揚げ」。かんきつについて日々勉強中。