2022年5月18日

姿を消す旅行会社 これからどう生き残るか

コロナ禍で観光、旅行のあり方は大きく変わりました。
大型連休中は、回復の兆しもかすかに見えましたが、コロナ前の水準までの回復はまだ見通せません。
そうした中、全国の県庁所在地や都市部に構える、大手旅行会社の店舗が次々と姿を消しています。
旅行会社は、これからどう生き残っていくのでしょうか。

(NHK松山放送局 後藤茂文)

旅行会社がなくなる?

去年以降、松山市で旅行会社の店舗縮小が相次いでいます。

松山市中心部、松山市駅近くの交差点。
ここに業界3位の旅行会社、日本旅行松山支店がありました。

4月下旬に店頭での個人客向けの営業を終了し、法人や団体への営業に特化することになりました。
日本旅行は四国内では、すでに徳島支店が個人客向けの店頭営業をやめたほか、ゆめタウン高松(高松市)にあった日本旅行グループの店舗も5月上旬に閉店し、個人が来店できるのは、高松と高知の支店のみとなりました。

南堀端停留所の目の前、NHK松山放送局から数分の距離にある農協観光の店舗も、ことし3月末で店頭での個人客向けの営業を終了。
法人や団体向けの営業に特化し、個人客には電話で注文に対応することとなりました。
農協観光はコロナ禍の経営難で、去年には東京・秋葉原駅近くにあった本社ビルを売却。さらに全国各地の支店の統廃合も進め、四国では徳島県と高知県の支店がすでに閉店しています。

松山市のオフィス街にある、名鉄観光サービス松山支店も、去年4月から店頭での営業をやめています。
東海地方以外では珍しい、名鉄観光の路面店で、私も過去何度かJR券を購入したことがあります。
いまではきっぷの発券も行わないことを、店頭で掲示しています。

近畿日本ツーリストは、日銀松山支店近くのビルに入っていた支店が、去年秋にシェアオフィス用のビルに移転。
あわせて松山営業所に名称を変更し、法人専門の店舗となっています。

いま、松山市内で個人客が訪れやすい店舗だと、松山三越にあるJTBと、松山駅に設置されたJR四国の旅行センター「ワープ」が挙げられます。
JTBは、ことし1月にイオンモール新居浜にあった店舗が閉店したため、個人向けの店舗は、愛媛県内では三越にある1店舗のみになりました。

コロナ禍の2年間で、愛媛ではこのように旅行会社の店舗が市中から姿を消しました。
こうした現象は愛媛に限らず全国各地でも起きています。

なぜ苦境?店頭営業

店頭での個人客向けの営業はこれまでにないほどの逆境にあります。
JTBは国内店舗の約4分の1にあたる、115店舗を削減すると公表。
約130ある近畿日本ツーリストの店舗は、3分の1に削減。
日本旅行は、2020年度末に約190あった店舗を、今年度末には約90店舗に半減させる計画を発表しています。
このほか、東武トップツアーズは関東で、名鉄観光サービスは東海地方で、それぞれ個人客向けの店舗削減を進めました。

店頭には多くのパンフレットが並ぶ(東温市)

個人向けの店頭営業が真っ先に合理化の対象となったのは理由があります。
それは法人向けよりコストがかさむためです。
大手旅行会社の場合、駅前や大通りに路面店を構えたり、ショッピングモールの中に入居したりするケースが多くみられますが、こうした店舗の賃料は高くなります。
また、個人客に来てもらいやすいよう、パンフレットをずらりと並べて快適な空間をつくるための費用もかかります。
そしてなにより、接客、旅行相談に対応するための人員が相当数必要で、人件費の負担が重くのしかかります。
そうした固定費の高さが、店頭営業のネックになっているのです。
さらに、ネットでの宿泊施設や交通機関の予約が当たり前になり、思うように売り上げを伸ばせない状況が、コロナ禍の前から続いていました。

「楽天トラベル」ホームページ

新幹線や飛行機と宿泊がセットになった商品は、いまではスマホで簡単に予約できます。
また、「楽天トラベル」や「じゃらん」といったネット専業の旅行予約サイトが存在感を増していますし、「エクスペディア」など外資系旅行会社のサイトを通した宿泊予約も珍しくなくなりました。
ネット予約なら、客がみずから移動手段や宿泊先を決めて申し込むため、店頭営業と比べて、人件費を大幅に抑えられるメリットがあります。
コロナ禍で旅行業界全体が苦境に陥る中、生き残りのために、さまざまなコストのかかる店頭営業を取り急ぎ見直さざるを得なくなったのです。

フジ・トラベル・サービス本社

地方の旅行会社も店舗網の縮小を急いでいます。
愛媛県最大手の旅行会社、フジ・トラベル・サービスは去年2月、半数近い10店舗を閉店し、中四国の店舗は愛媛と広島のみになりました。

閉店した高知営業所

私は去年1月、26年間の営業をへて閉店した、高知の店舗を訪れていました。
【関連記事】「“きっぷ鉄”にも逆風・・・」(2021年2月12日公開)

担当者は、店舗縮小の理由をこう語ります。

フジ・トラベル・サービス 営業担当 平岡直樹 シニアマネージャー

「コロナ禍は旅行業界に大きなインパクトを及ぼし、弊社でも事業再編という課題が出てきました。まずは愛媛県と向かい側の広島県、ここに傾注して事業所を展開・営業することにし、お膝元をしっかり固めようという考えで取り組んでいます」

道の駅を旅行会社が

道の駅ふたみ

店舗を縮小する一方で、旅行業以外の新規事業に活路を見いだそうという動きがあります。
伊予市にある「道の駅ふたみ」。
大型連休中、観光客やサイクリストたちでにぎわっていましたが、この運営を担っているのはフジトラベルです。
以前は第3セクターが運営していましたが、指定管理者を募る伊予市の公募に提案した結果、受託して去年5月から運営しています。

“駅長”の中川知香さん

道の駅の駅長を任されている中川知香さんです。
去年まではフジトラベルの高知営業所で旅行商品やきっぷを販売していましたが、店がなくなった後、新しい仕事に挑戦したいと愛媛に転勤して駅長の職に就きました。

中川さん

「今まで10年間、旅行業に携わってきたので、その経験を生かしてやっていきたい」

道の駅を訪れる客を増やすため、会社はいくつかのアイデアを提案しました。

その一つが産直市場です。
もともと道の駅にはありませんでしたが、導入したところすぐに人気となり今では集客の要となっています。

中川さんが手書きした

売り場づくりでは、同じグループ会社「フジ」のスーパーのノウハウを生かしてわかりやすいレイアウトにし、レジはスーパーと同じキャッシュレス決済に対応するものを入れました。
スーパーで1か月間研修したという中川さんにとって、おすすめを紹介する手書きのPOPはお手の物です。

旅行会社ならではの企画が道の駅を絡めたツアー商品です。
道の駅からおよそ5キロ離れた場所には観光名所となったJR下灘駅があります。

JR下灘駅

行きは人気の観光列車「伊予灘ものがたり」に乗り、帰りはバスで道の駅に停車するツアー商品を販売したところすぐに完売しました。

中川さん

「下灘駅のほかにも菜の花畑やスイセン畑など多くの観光資源があるので、情報を発信して、それを見たいから道の駅、伊予市に来てくれるようにしたい。そのことが道の駅の売り上げにもつながると思っています」

旅行会社が生き残る道

GoToイート食事券を販売(2020年10月)

コロナ禍でフジトラベルが始めた新事業は、道の駅だけではありません。
GoToイートなどの食事券や、事業者向けの給付金事業の事務局業務。
愛媛県が売り出そうとしている特産の魚「媛スマ」のPR事業など。
自治体の課題解決や、交流人口の拡大、特産品のPRなどといった、受託ビジネスに力を入れています。

平岡さん

「ウィズコロナの中でも安全安心に楽しんでいただける旅行を提供しつつ、あわせて地域に貢献する地域交流事業や委託事業にも注力しています。店舗にお客様が来るのを待つだけではなくて、我々がみずから外に出て、地域のお客様へ提案を行うといったマルチな営業をしていきます」

こうした新規事業はほかの旅行会社も行っています。

「たびまちゲート広島」ホームページ

広島市の旅行会社「たびまちゲート広島」は、広島市平和記念公園のレストハウスの指定管理者となっています。
この会社、もともとは「ひろでん中国新聞旅行」という広島電鉄と中国新聞傘下の旅行会社が合併した会社でした。
去年4月、旅行業の「たび」に加えて、地域商社的な事業や自治体からの受託、つまり「まち」に関わる事業も主要事業にしていくため、去年4月に社名も変更しました。

自衛隊大規模接種センター(東京)

大手では日本旅行と東武トップツアーズが去年、自衛隊が東京と大阪に設けたワクチンの大規模接種センターの会場運営を受託しました。
各社は各地のワクチン接種会場のほか、宿泊療養施設の運営なども積極的に受託しながら売り上げの確保に務めています。

後藤の感想

コロナは業界に大きな変化をもたらしました。
今後は旅行業に加えて、国や自治体からの受託ビジネスなど、新しい事業を開拓していくことが旅行会社にとってますます重要になっていくでしょう。
一方、この分野は広告代理店やコンサルティング会社など、すでに競合が多数いる分野でもあります。
既存の店舗網や、地域の魅力を見つけて観光客に売り込むなどといった旅行業ならではの強みを生かした事業をどれだけ展開できるかが、これからの旅行会社の生き残りを決める、カギになりそうです。

この記事を書いた人

後藤 茂文

後藤 茂文

津局、大分局を経て2020年から松山局勤務。遊軍担当として、公共交通や農業、文化などを取材。全国のJR線の約98%を乗車済み。旅行会社の店舗は300以上訪問済み。