「ポン」ってどういう意味か知っていますか?
「ポン酢」「ポンカン」「ポンジュース」・・・・
そして、NHK松山放送局のニュース番組「ひめポン!」。
半年前、松山放送局に赴任して以来、「ポン」というフレーズをよく耳にするようになりました。
でも待てよ、そもそも「ポン」って何なの?
広く親しまれているのには、何か理由があるのではないだろうか。
(NHK松山放送局 清水瑶平)
みんな知らなかった“ポン”の意味
大阪出身の私(清水)ではわからなかった「ポン」の意味。
でも愛媛の人なら知っているのでは?ということで、まずは町に出て聞いてみました。
「“ポン!”ってどういう意味か知ってますか?」
「うーん・・・、考えたことなかったです」(30代・男性)
「なんだろう・・・ポンっと出てきたみたいなこと?(笑)」(70代・男性)
「ポンジュースのポンはポンってビンをあける時の音じゃないの?」(12歳・女性)
老若男女に尋ねましたが、謎は深まるばかり・・・・ポンって何なんだ!
あのジュースは意外にも・・・
1つ1つ愚直に調べていくことにしました。
まずは愛媛が誇るあのみかんジュースです。
松山市中須賀にはこのジュースの「発祥の地」という石碑が建っています。
昭和27年、当時の愛媛県青果連がここにあった工場で製造を始めました。
現在は、全国農業協同組合連合会の子会社の企業が製造を行っています。
ジュースに付けられた「ポン」の意味って何なんですか?
「皆さんからよくお問い合わせをいただいています。日本一のジュースになるようにという願いを込めて“ニッポン”のポンから取りました」
え?ポンカンやポン酢とは関係ないんですか?
「はい、関係ありません」
青果連の「50年史」にも当時の経緯が残されていました。
確かに、名付け親は当時の愛媛県の久松定武知事で、「日本一のジュースになるように」という願いが込められていると記されています。
「久松知事はフランスに住んでいた経験もあるので“ボンジュール”に似ているからという説もありますが、ニッポンのポンから名付けられたというのが正しいようです。日本一のジュースを目指して、頑張っていきたいですね」
ポン酢・ポンカン 実は全部違った!
では、ポン酢やポンカンはどうなんでしょうか。
解説してくれたのは言語学が専門の、愛媛大学の清水史名誉教授です。
「ポン酢はオランダかポルトガルのどちらかから入ってきたのかな、と思います。たぶん江戸時代に宣教師が持ってきたんだろうと」
清水名誉教授によると、「ポン酢」ということばのもとになったのは、オランダ語の「pons」(ポンス)、もしくはポルトガル語の「pom」(ポン)で、どちらも「かんきつの果汁」という意味です。
「かんきつ系の果汁は酸っぱいので、お酢の酢が想起されますよね。それでポンス、ポン酢となったということです」
では、ポンカンやデコポンも同じですか?
「ポンカンはまた違います。外来語は外来語ですけど、中国語由来なんです」
ポンカンの原産地はインド。語源はインド西部の地域Poona(プーナ)と言われています。
その後、中国に伝わり「椪柑」(ポンカム)と表記されました。
これが明治初期ごろ、日本に入ってきてポンカンと言われるようになったそうです。
デコポンはポンカンから作られた品種なので、由来は同じですね。
ちなみに、ポン菓子は「ポン」とはじける“擬音語”から来ているとのこと。
なんと、由来は全部バラバラだったんです。
なんで“ポン”はこんなにあるの?
いったん整理してみましょう。
「ポン酢」 ・・・オランダ語もしくはポルトガル語
「ポンカン」 ・・・インド由来の中国語
「ポンジュース」・・・日本語
「ポン菓子」 ・・・擬音語
こんなに意味が違うのに、広く使われているのは不思議な気もしてきます。
清水名誉教授は、ポンと愛媛県民の相性の良さを指摘します。
「愛媛の人は全体としておっとりしていてお仕着せがましくない。伊予弁も共通語とくらべるととても優しく、ほっこりした印象があります。そんな土壌に“ポン”という優しく、楽しげな響きのある言葉が合っているのではないでしょうか」
一方、「脳」の観点から解説してくれたのが、人工知能の研究者で、日本ネーミング協会の黒川伊保子理事です。
「妻のトリセツ」「夫のトリセツ」などの著作でも知られ、ネーミングが脳に与える影響についてのスペシャリストです。
「『語感』が本当に秀逸なんです!『ポ』という音は唇をちょっと膨らまして前へ出し、軽やかに破裂させます。そして続く『ン』という音は、舌を弾ませるように、ちょっと宙に浮いたように前へ出てきます。両方とも弾む感じと前に出る感じがあるんですね。
つまり『ポン』と発音することで、弾む感じプラス前へ出る感じが2倍になって私たちの脳にイメージを届けている。アピールしたい気持ち、ほらほら、これ見て使ってという気持ちが伝わってくるように感じます。意味が違うのにいろいろ使われているのは、そんな語感にも秘密があるんだと思います」
さらに黒川理事は、独自のデータベースを使い、「ポン」というフレーズが脳に与える影響について分析しました。
その結果、「つやがある」「丸みがある」「ふくらむ広がる」といったイメージにつながっていることがわかったといいます。
「この結果はまさにみかんじゃないですか!よくぞかんきつ類にこの音を与えたなって思いますね」
“ひめポン!”の原点を見つめ直して
では、最後に私たちのニュース番組「ひめポン!」についてです。
尋ねたのは、2016年4月、「ひめポン!」が始まったときの初代キャスター、小澤康喬アナウンサー。
「大きく意味は2つあるんです。1つは愛媛の町にポンと飛び出して、皆さんの輪の中に飛び込んでいきますよという意味を込めました。愛媛にポン、ひめポンということですね。もう1つは、かんきつの皮をむいてその中のみずみずしい実がポンと飛び出してきたような、フレッシュな情報をお届けしたいという意味なんです」
なんと、また違う理由が出てきました。
小澤アナウンサーは「ポン!」とフットワークよく取材に飛び出し、愛媛の人とともにニュースを作り上げることをいつも意識していたそうです。
「“ひめポン!”はこれからも愛媛のみなさんといっしょに作られていく番組だと思いますので、これからも“ひめポン!”をよろしくお願いします」
愛媛の人に愛されてきた「ポン」のフレーズ。
その成り立ちを探る取材は、番組の原点を見つめ直すきっかけにもなりました。
私も記者として「ポン」と弾むように愛媛の町に飛び込んでいく、そんな気持ちを忘れないようにしたいと思います。