2022年5月6日

“お米を食べたあと” リサイクルの先にあるものは

ある資源を再利用して作ったこちらのバッグ。取材をしてみると、その製作には、リサイクルにとどまらず、新しい価値を生み出して、愛媛の魅力を世界に自慢しようというこだわりがありました。

(NHK松山放送局 森裕紀)

バッグは米袋から

松山市の一等地にあるデパート。このバッグは、その1階に並べられています。
デザインされているのは、「愛媛産には愛がある」という愛媛産の良質な食材を示すキャッチフレーズや、愛媛の工芸品の「姫だるま」です。

実はこのバッグは県産米を入れる米袋でできています。
県内に工場を置く製紙メーカーなどが作った耐久性のある紙を3枚重ねてできている米袋は、もともと30キロのコメを入れて運ぶことができ、丈夫で多くのものが入るうえ、雨にぬれても破れることはないといいます。

『愛媛』を発信したい

本宮薫さん

このバッグの販売を手がける経営者に話を聞きました。
本宮薫さん、本業は介護人材の教育事業などを展開する経営者です。
コロナ禍になる前までは、県外や海外の介護関係の事業者とのやりとりをするために、愛媛県の外に足を運ぶ機会が多くあったという本宮さん。
「愛媛」の魅力がまだ十分には県外や海外に伝わっていない現状に歯がゆい思いもあったといいます。
そうした中、去年、母親が趣味で、愛媛ならではのデザインが施されている米袋を、バッグに再利用しているのを見て、そのかわらしさに目をひかれました。
はじめはSNSを通じて、このバッグをPRし、バッグに愛媛の特産品を詰め込んだ福袋を販売しましたが、入れ物にしていたこのバッグ自体に人気が集まりました。
そこで、バッグの販売を通じて愛媛を全国や海外に発信できるのではないかと考えたといいます。

「愛媛県の工芸品の『姫だるま』や私たち愛媛県民がよく見る『愛媛産には愛がある』というマークのある米袋。この2つがあれば、もう愛媛県自慢を飽きずにできるのではないかなと思いました。バッグとしてもすごくかわいいし、作っていても楽しくなりますし」

愛媛を発信したいという思いはバッグの様々なところから見て取れます。
持ち手にジーンズの布を使う新たなデザイン。
この布には、県内の縫製工場で余ったものを再利用しています。
今後も、捨ててしまう端材が出る県内の工場などに協力を求め、愛媛のものからバッグを作ることにしています。

主役の米袋は地元のスーパーから

主役の米袋は地元のスーパーなどに提供してもらっています。
このスーパーでは、多くの米を仕入れて弁当や総菜として消費者に届けていますが、米袋は使い道がなく、県内13店舗で出た米袋を松山市内の物流拠点に集めて本宮さんに提供しています。
この日は、1か月分の約100袋が積まれていました。

物流の過程で汚れがついてしまったものと、きれいなものを仕分けし、汚れがあるものは拭き取ったり、消しゴムで消したりするなどし、できるだけ使い切るようにしています。
このスーパーのほかにも、米の卸売会社や農協にも協力してもらい、使い道がなかった米袋をリサイクルでよみがえらせています。

「こんなにかわいいし、伝統工芸などがデザインされためずらしい米袋が捨てられるのはもったいないと思います」

障害者の雇用に貢献を

本宮さんのこだわりはもう1つ。
このバッグの製造過程にも「障害者の就労支援」という思いを込めました。
コロナ禍で、障害者の働く場所も減る中、やりがいをもって働く場を増やしたいと、松山市や宇和島市にある障害者の就労支援施設に、製造を依頼しています。

もともと再利用でバッグが作られるため、仕入れなどの費用はかかりませんが、バッグの販売事業での利益は、ほとんどが働く障害者の賃金にあてています。
バッグの売れ行きがさらに好調になった際には、賃金をさらに上げていきたいとしています。

働きがいにも

施設では、米袋を切りそろえたあと、ミシンで縫ったり折り込んだりしてバッグの形にしていました。
そして、アイロンを使ってしわを伸ばしたり汚れを丁寧に拭き取ったりして、きれいに仕上がりになっているかを1つ1つ確認して、納品しています。

本宮さんはこの日、購入者から送られてきた写真を資料にまとめて松山市の施設で働く人に見せ、作ったバッグがどこでどのように使われているか伝えました。

「北海道の雪の中で使ってくれた人もいるし、石川県の温泉に行く際に使ってくれた人もいます。作ってくれたバッグは、全国のいろんな人がいろんなところで使ってくれているんです!」

製造を担当する男性
「買ってくれた人も、うれしいのかなと思いました。この仕事は楽しいので、これからもいろんな仕事にチャレンジしたいと感じています」

愛媛から世界へ

空になった米袋に、愛媛を自慢したいという気持ちや愛媛で働く人のやりがいを詰め込んだこだわりの米袋バッグ。
すでに県外だけでなくアメリカなど海外で使う人もいるといいます。
本宮さんは、さらに広く発信していきたいとしています。

「愛媛のお楽しみ袋という形で発信できるのではないかなと思って、日本全国だけでなくて世界に、もしかして宇宙にも発信していきたい」

この記事を書いた人

森 裕紀

森 裕紀

2015年入局。青森局でりんごの輸出戦略などを取材。
2020年から松山局で政治・経済取材を担当。