2022年4月15日

“生涯現役の村”に行ってみた

愛媛に新たな村を作ろうとする動きがあるのをご存じですか。その名も“生涯現役の村”です。人生100年時代とはいうけれど一体どんなところなのだろう。名前が気になり取材を進めたところ、そこには、ほかほかの定食と、いきいきと働く人たちの笑顔がありました。

(NHK松山放送局 的場恵理子)

生涯現役の村って・・・?

取材で最初に訪ねたのは、新居浜市の藤田敏子さん(72)。
村の発案者です。
新居浜市に本社を置く総菜の製造販売会社の社長を務めています。
20代で地元のお肉屋さんに嫁ぎ、店舗の一角で焼き鳥などを売り出したのがすべての始まりでした。
その後、総菜の製造販売に特化したビジネスを立ち上げ、当時は珍しかった主婦など女性を積極的に採用。
今では全国約70店舗にまで展開し、女性の社会進出を後押しする企業として知られています。

そんな藤田さんが作りたいとする“生涯現役の村”とは、時に働く場が限られる高齢者や障害者の人たちが活躍する場所のことです。
具体的には、新居浜市の海辺、広さ約2000坪の土地に農園、総菜工場、そして、グループホームなどを整備する計画です。

村ににぎわいを生む 誰もが輝く食堂

村はすでに動き出しています。
一角をなす食堂は去年11月にオープンしました。
コロナ禍の船出でしたが、今では1日300人が詰めかける人気ぶりです。

繁盛の原動力となっているのが障害者と高齢者です。

食堂で働く14人のうち、5人が知的障害のある人たちです。
国の統計では、「飲食・宿泊サービス業」で働く知的障害者は全体の5パーセントほど。藤田さんは、この実情を変えたいと考え、この食堂を立ち上げました。

山内康平さん

スタッフのひとりで3歳のころに自閉症と診断された山内康平さん。人と話すことが大好きな山内さんは接客をメインに任されています。お客さんが来店すれば、一目散にテーブルへ。おすすめメニューなどを丁寧に紹介します。熱心な接客は評判を呼び、いまでは、山内さんに会いたくて来店する人もいるほどです。
藤田さんは「康平くんはうちの接客ナンバーワン」だと評しています。

倉本真由美さん

ほかにも、調理が得意な、倉本真由美さんは、注文を受けてから1杯ずつ作る店の看板メニュー、具だくさんの味噌汁を担当しています。
倉本さんは「みんなで一緒に働く職場が楽しい」と笑顔で語ってくれました。

最高年齢は82歳、熟練の女性たちも

“生涯現役の村”で忘れてはならないのが、高齢の人たちです。下ごしらえの工場では70代から80代の女性たちが活躍し、最高齢は82歳です。昭和のお母さんの「手作りの味」が会社の売りにもなっています。

総菜の工場ではほとんど機械は使わず、手作業にこだわっています。例えば、食堂の名物、地元のえびを使ったそぼろ寿司。えびは味が濃いものの、直径3センチと小さく扱いにくいことが難点でしたが、お母さんたちの手にかかれば魔法のような早さで殻がむかれていきます。

また、報酬を時間単位では無く、作業量に応じて支払っていることも特徴です。無理なくマイペースで作業ができると好評です。

「このやり方が楽なんよ」

「仲間と話をするのが楽しい、最高」

大事なのは“基幹事業での雇用”と“正当な対価”

且田久美さん

さまざまな人たちが活躍する職場に必要なものは何か。その秘訣を探るため、障害者雇用に詳しい高知県の且田久美さんにも話を聞きました。且田さんは藤田さんの会社にもアドバイスをしています。

且田さんが経営する製造工場でも多くの障害者が活躍していますが、大事なポイントを2つ教えてくれました。
それは、障害者のために切り出したような仕事ではなく『会社にとって大事な基幹事業で働く場を作ること』
そして、『正当な対価を支払うだということです。

実際に藤田さんの食堂では、接客から調理まで大事な仕事を障害者を含めた全員で担っています。
そして、給料についても、月約11万円を支払っています。
障害のある人が働く「就労継続支援A型事業所」の全国平均の給料はおよそ8万円。
食堂という場で安定した労働時間を確保することで、平均を上回る給料を支払うことが出来ています。

エフピコダックス 且田久美 社長
「障害福祉施設の営むカフェやレストンは、ともすれば売れなくても仕方が無いと思いがちですが、藤田さんの食堂は繁盛しています。障害者雇用でも収益を生むことが大事なのです」

広がれ!生涯現役の村、的場の感想

クック・チャム 藤田敏子社長

藤田さんは、「高齢女性だけでなく、これからは高齢男性が活躍できる場所も作りますよ」と意気込んでいます。
そして、食堂のノウハウも、知りたい人がいれば包み隠さず伝えたいといいます。それは、誰もがいきいきと働くことができる場所が全国に広がってほしいという願いがあるからです。

藤田敏子社長
「朝起きて自分の仕事が待っているということはすごく大事なことです。ぜひ、この食堂をみなさんに見てもらいたい。そうすれば、全国にも同じような場所ができる。世の中がちょっとでも変わるお手伝いができると思うんですよ」

藤田さんたちの食堂は、高齢化や人手不足に悩む地方の一つの処方箋になると思います。「働く場所」があること、やりがいをもって仕事に向き合うことは、とても大事なことだと感じました。
私も、日々の取材に、精一杯向き合い続けていこうと、元気とやる気をいただきました。
ありがとう!

この記事を書いた人

的場 恵理子

的場 恵理子

徳島局を経て2019年から松山局勤務。災害・伊方原発の取材を担当。
好きな食べ物は「唐揚げ」。かんきつについて日々勉強中。