2022年4月11日

原発事故に備えるヨウ素剤 伊方町の人は確かめて

ことし3月で東日本大震災と原発事故から11年が経過しました。
私は、去年11月まで5年半、福島放送局に在籍し、原発事故の取材をしていました。
転勤後、愛媛の伊方原子力発電所について現状を調べてみると、ひとつ気がかりなことがありました。それは、福島の事故を教訓に原発周辺の住民に事前配布されることになった、「ヨウ素剤」という薬の配布状況です。伊方町で対象となる人のうち、所持していなかったり、使用期限が切れたものを交換していなかったりする人が、あわせて約3割いるというのです。万一の原発事故への備えとして重要な「ヨウ素剤」。福島から離れた愛媛で何が起きているのか。取材を始めました。

(NHK松山放送局 後藤駿介)

内部被ばくを防ぐ「ヨウ素剤」

そもそも「ヨウ素剤」は、原子力発電所で事故が起きた場合などに、甲状腺の内部被ばくを防ぐために服用する薬です。ヨウ素という放射性物質を吸入するまでの24時間以内、もしくは直後に服用することで、甲状腺への集積を90%抑制することができるとされています。

福島の原発事故を教訓に事前配布

伊方町でのヨウ素剤の配付会(2017年)

この「ヨウ素剤」、全国の原発周辺の住民に対しては、事前に配布されることになっています。愛媛県でも、四国電力の伊方原発からおおむね5キロ圏内に暮らす、伊方町の40歳未満の人たちが対象となっています。

事故があった東京電力福島第一原子力発電所

事前配布が始まったのは11年前に起きた東京電力福島第一原発の事故が教訓となっています。福島では、事故が起きた後、自治体の職員がさまざまな対応に追われる中、国や県からの情報も錯綜したことなどから、住民にヨウ素剤が十分に行き渡らなかったケースがありました。そうした反省から原発により近い地域に住む住民に対しては、事前配布が始まったという経緯です。

期限切れを所持する人も

しかし、伊方町の事前配布の状況について取材してみると思わしくないデータが出てきました。このグラフはことし2月時点の配布状況です。
対象者全体の1215人のうち、適切に処方されていない人が3割に上っていることが分かりました。
転入者などヨウ素剤を受け取っていない人が160人。一度は受け取ったものの、5年の使用期限が切れ、交換していない人が194人にのぼりました。使用期限が切れたヨウ素剤の効果は今のところ確認されていません。せっかく所持していても、備えにはならないのです。

なぜ配布が進まない

では、なぜこうした現状が起きているのか。伊方町の中心部で、町民に話を聞いてみました。

小学生の子どもを育てる30代女性
「ヨウ素剤は子どもの分だけ持っています。ときどき大きな地震も発生したりするので、やはり持っていた方がいいとそのたびに思っています」

去年転入してきた30代女性
「ヨウ素剤は持っていないですし、そもそも配付されることを初めて知りました。役場の周知も心当たりはありません。もしあれば欲しいです」

原発が立地する伊方町の人たちの間で「ヨウ素剤」の認識にも差があることが分かりました。

ヨウ素剤を入手するには

ヨウ素剤に関するチェックシート

「ヨウ素剤」は、行政から薬が自動的に届くという訳ではありません。住民自らの行動が必要になります。というのも服用にはまれに副作用が出る可能性があるため、医師や保健師と面談し、持病の有無や服用中の他の薬などを確認しなくてはいけません。
そこで住民みずからが伊方町で毎年開かれる説明会の会場などに出向いて、手続きを取る必要があります。また、5年の使用期限が切れた場合でも、再度、問診が必要になります。

この状況に伊方町は

ヨウ素剤の交換を呼びかける文書

ヨウ素剤を適切に所持してもらおうと、伊方町では、定期的に文書を郵便で送って呼びかけています。
特に最近は、先述したように5年の使用期限が切れた人も増えてきています。町では、今後、新しいものへの交換に関しても周知を強めていく考えです。

伊方町総務課 谷村栄樹 危機管理監

「伊方3号機に関しても、想定外の何かが起きる可能性があることは常に住民も我々も知っておく必要があるので、ヨウ素剤についてホームページや広報などで周知していきたい」

福島の事故を忘れないで

災害時の避難に詳しい専門家は、ヨウ素剤の配付を進めるには、住民みずからが福島の原発事故の記憶を忘れず、防災意識を持ち続けるための工夫が必要になると訴えます。

東京大学大学院 関谷直也 准教授

「ヨウ素剤を配ること自体が珍しい事例ですが、自分たちで意識して、事故が起きた場合どういう対応をしなくてはいけないのかということを理解して学ばなければいけません。ヨウ素剤を事前に持っておくことは、原子力災害が発生した場合、行政が薬を配る時間をできるだけ短くすることができます。住民ができるだけ遠くに早めに避難するためにも重要になるのでみなさんには事前にしっかり準備して欲しい」

原発への関心の先に万一の事故への備えを

今回取材を進めていて、「ヨウ素剤」の配布状況というのは、原発事故に対する防災意識のバロメーターに近いと感じました。福島の事故の記憶が風化し、防災意識が薄れれば、交換しない人も増え、配布率もどんどん下がっていく可能性もあると思うためです。

四国電力の伊方原発は、事故を起こした福島の原発とはタイプが異なる原発ですが、おととし1月以降、連続してトラブルが発生し、地元の人たちは、原発が安全に運転されるよう注視しています。
世界ではロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻で、チョルノービリ原子力発電所がロシア軍に一時占拠されました。
想像していなかったことがいきなり起こる可能性がないとは言い切れません。

原発の運転に関心を持ち続けていくことは、万一の事故への備えにつながります。
伊方町で対象となる人は、「ヨウ素剤」をきちんと所持しているかどうか確認してもらいたいと思います。

また、防災意識を持ち続けることは、どこで暮らしていても大切なことです。
3月には東北で震度6強を観測する地震もありました。
ぜひ身の回りの準備について話し合うなど災害への備えを、いま一度、確認してみてはいかがでしょうか。 

担当記者

後藤駿介

後藤駿介

2016年入局。前任地は福島県の南相馬支局、震災と原発事故について取材してきました。
これまでの取材で一番惚れたのは逆境の中、大漁を目指す相馬の漁師。愛媛でも大漁目指して取材に邁進します。