新型コロナウイルスの影響で一気に広がった、テレワーク。
初めの頃は、苦手な上司や同僚と顔を合わさなくてラッキーと思っていても、徐々にもっとコミュニケーションが必要だと思う瞬間ありませんでしたか? こうした課題を乗り越えて、9割ものテレワーク率を維持しているIT企業を取材しました。
(NHK松山放送局 河崎眞子)
今も9割がテレワーク
1997年に松山市で創業したIT企業「サイボウズ」は、ソフトウエア開発などで成長し、国内外の社員は約1000人規模にまで拡大しました。
グラフは、この会社の月別のテレワーク実施率です。国内で新型コロナの感染が広がった2020年春から急上昇。今でも、東京本社は9割、松山オフィスは6割を超えています。
入社2年目の岡田陸さんは、東京本社の人事本部に所属しながら、実家のある松山に住んでいます。入社直後は都内で暮らしていましたが、本社に出勤するのは月1回程度だったため、地元からオンラインで働くことを会社側に申し出て、去年6月に移り住みました。
この日は、東京にいる同僚とオンラインでつないで、採用に向けた応募書類の審査を行いました。
「若いうちは東京で働くのが一般的かなと思っていたが、出社しない日が続いて、東京にいる意味が特段ないなと感じた。今、オンラインでも業務はスムーズにできていて、実家だとコミュニケーションをとれる相手もいるし、家事の時間も浮くので、勉強や仕事に打ち込むことができている」
大事なのは“雑音”
このようにテレワークが定着した一方、課題も見えてきました。社員同士のコミュニケーションです。
実際のオフィスでは、電話や社員の挨拶、会話などさまざまな声が聞こえてきます。しかし、こうした業務に直接関係のないやりとりは、テレワークだとあまり行われません。
みずからも在宅勤務をする青野慶久社長は、このような“雑音”がテレワークでも大事だと考えています。
「日常的な会話の中に、ヒントがたくさん埋まっている。業務連絡の周辺にあるコミュニケーションまで活性化していかないと、なかなかクリエイティブな仕事には繋がっていかないと思う。雑音が大事」
この“雑音”を再現するために会社が活用しているのが、“分報(ふんほう)”と呼ばれるコミュニケーションツールです。パソコンやスマホがあれば、どこにいても書き込める社内用の掲示板のようなもので、「日報」よりもさらに多い頻度で書くという意味です。何でも細かく「分けて」つぶやいてもらおうという狙いで、投稿するかしないは自由ですが、国内外ほぼすべての社員が見ています。
松山オフィスで管理職の濱田大輔さんは、週2日ほどテレワークをしています。始業時に分報でスケジュールを投稿することをルーティンにしていて、オンとオフを切り替えているといいます。
濱田さんの1日の投稿数は多くて30件ほどで、ひとつひとつの作業が終わると分報で共有し、同僚や部下が話しかけやすいタイミングをわかるようにしています。さらに、分報の検索機能を使って自分の名前をつぶやいた人がいないかを調べる「エゴサーチ」も行います。部下が言いたいことや、抱える悩みなどをいち早くつかみ取るためです。
「エゴサーチで『大輔さんに相談してみよう』というコメントを見つけた。これで、いま誰が何をしていて、どんな悩みを抱えているのかというのがある程度拾えるので、先回りしてコミュニケーションをとったり、予定を入れて雑談をしてみるというアクションがとりやすくなった」
業務内容だけではなく、プライベートな内容も意識的につぶやきます。ペットの猫と寝ている写真には、多くの人から「いいね」がつきました。
「業務で接点のない人ともつながることができて、それが結局、業務につながったりするのでメリットを感じている」
分報などの投稿数は、多い月で3万件を超えるようになり、青野社長も効果を実感しています。
「私が分報で発信すると、東京オフィス以外の人やグローバルな人まで伝わるようになる。かえってバーチャルオフィスの方がコミュニケーションは活性化できるなと感じる手応えもある」
そして、テレワークで生産性が高まれば多様な働き方につながり、会社へのメリットは大きいといいます。
「私たちも、このように在宅勤務が当たり前にできる会社にしたので、これからアフターコロナになっても採用力が上がる。日本全国、もっといえば世界中どこからでも採用して働いてもらうことができるので、企業の競争力を上げるという意味でも、働き方の多様性に応えていくことがとても大事だ」
記者の目
取材を始めた当初は、私自身が分報上で上司や同僚とつながりたいかいうと、正直あまり乗り気はしませんでした。とはいえ、緊急でも重要でもないけれど、さくっと上司に相談したい時、同じオフィスで見当たらないと後回しにしてしまうので、小さいモヤモヤが重なって上司と意識がずれたり、仕事の進捗が少し止まったりしてしまうことが何度もありました。分報もSNSのように、読む相手の反応を想像できるメディアリテラシーを身に付ければ、便利なツールになると感じました。