2022年3月24日

水道料金の定額どう思いますか

おととし春、NHK松山への赴任が決まり、市内で部屋探しをして気になることがあった。賃料、共益費と同じように水道料金が定額で固定されている物件が多いのだ。大学時代を過ごした東京では見たことがなかった。
電気とガスは使用量に応じて支払うのに、なぜ水道料金だけが固定なのだろうか。疑問に思って調べてみた。

(NHK松山放送局 有坂太信)

定額ってどういうこと?

疑問に感じているのは自分だけなのだろうか。松山市中心部で聞いてみた。

20代社会人

「水道料金は毎月の家賃と一緒に定額で支払っています。どういう基準で価格が決められているかわからないので気になります」

20代学生

「前に香川で住んでいたときは使用量に応じて実費で払っていましたが今は定額です。実費だと料金を気にしていましたが今は気にせずに水を使ってます」

どうやら若い人向けの単身用物件で水道料金の定額が多いようだ。
月額2000円あるいは2500円が多かったが中には4000円を支払っている人もいた。

そもそも水道料金の定額とはどういう仕組みになっているのか。
松山の賃貸住宅の場合、一般的に大家と自治体が給水契約を結ぶ。

「定額」としているマンションは、建物全体で使用する水道料金を大家が一括して支払う。そして平均的な一部屋ごとの料金を決めて、同一の金額を入居者に請求している。部屋ごとに水の使用量が違っても同じ負担を求める考え方だ。

「実費」は各部屋ごとに設置している水道メーターを2か月に1回検針して入居者に請求する。出張や旅行などで不在のため水の使用量が少なければ安くなり、逆に多く使えば高くなる。

なぜ定額なのか

では、定額にするメリットは何なのだろうか。
松山市の不動産会社に聞いてみた。

メリットの1つが大家の負担が軽くなることだという。
松山の賃貸住宅では、部屋ごとのメーターの検針は大家か管理人が行うことが多い。
2か月ごとにすべての部屋を検針し、戸別に請求して総額を松山市に払うわけだが戸数が多いとその分手間が増える。

日本エイジェント 大野和義 チーフマネージャー

「私が不動産業界に入ってから20年以上たちますが、その頃からすでに定額制はありました。大家さんがすべての部屋を検針して毎月請求するとかなり手間がかかります。それをなくすために定額という仕組みが作られたのです」

この会社が扱う松山の単身向けの賃貸住宅のおよそ6割が定額だという。
なお、ファミリー向けはほとんどが実費で、その理由は水を多く使用する部屋と少ない部屋との差がファミリー向けは大きいからだそうだ。

単身向けは6割が定額

さらに、入居する側にとっても定額のメリットがあるという。毎月の支払額を固定できるからだ。

大野さん
「子どもが学生で1人暮らしをしている場合、毎月の支払いの固定は親の心配事を減らすことにつながります。家賃、共益費と同じように水道代が定額であることは親にとって納得してもらいやすいのです」

では、定額の料金はどう決めているのだろうか。
この会社によると建物全体で支払う総額を部屋の数で割って平均を出す方法があるが、松山の管理会社の間では2000円から2500円が相場だという。

「定額の収支はトントン」

大家や管理会社が自由に決めるのであれば、実際よりも高い金額を設定することもできそうだが、それは実際は起きにくいという。

大野さん
「実は入居者からも、定額にすることで大家が得をしているのではという問い合わせを多く受けています。しかし、仮に月額5000円に設定すると同じ松山にある物件なのにその金額はおかしいとなりその物件は選ばれません。実際の収支はトントンであることがほとんどで、定額だから儲かっているということはないと思います」

なお、仮に入居者が過度に水を使っていると判断された場合、大家や管理会社が入居者に注意することもあり得るという。

定額で損をすることも?

実際、単身向け物件ではどのくらい水道を使っているのか。

このリストは水道料金が「実費」のマンションの部屋ごとの料金(2か月分)だ。
最も安かったのが3740円、最も高かったのは1万206円だ。

この金額を2で割って計算すると月額の平均水道料金は2500円になった。

実はこのマンションは元々は「定額」で毎月2000円徴収していたという。
しかし、それでは赤字が続くため2500円に値上げするか、実費にするか迷った末に実費に切り替えたそうだ。

地域差が大きい

定額か実費かは地域によって差が大きいこともわかった。
取材した不動産会社によると、首都圏の賃貸物件で定額の割合は1割もないという。
四国の他県の不動産会社に聞くと、定額の割合は徳島県は5割、高知県は1割未満と四国内でもばらつきが出た。
その理由は、メーターを検針する仕組みの違いにあるようだ。

東京都に聞いたところ、水道局は部屋ごとにメーターを検針して請求まで行うのが原則だという。
ところが松山の公営企業局が検針するのは受水槽を設置した建物全体のメーターが一般的だ。
部屋ごとのメーターの設置と検針は大家が行うため、その手間を考えると定額制を選びたくなる気持ちはよくわかる。

定額と節水意識の関係

では、定額にすることでデメリットはないのか。
定額=使い放題では決してないが、水を使っても使わなくても同じ料金を支払うのであれば節水意識が低くなるのではないか。

松山市に直接疑問をぶつけてみた。

松山市上下水道サービス課 中川誠五 課長

「たとえ定額制であっても水の使用量が増えて建物全体の水道料金が高くなると、均等に負担してもらう定額料金が上がることになります。松山市は平成6年に大渇水を経験してから、市民は節水を自分事として意識してくれているので、水道料金が定額であっても水の使用に関しては止めが効いていると考えています」

松山市が去年、およそ1500人に対して行った「水道に関する市民意識調査」によると市民の87%が「節水を心がけている」と回答している。

確かに節水意識は根づいているようだが、過去の調査の同じ質問への回答は、10年前(平成24年度)は94%、4年前(平成30年度)は88%と、時を経るごとに少しずつ下がっている。
渇水の記憶が徐々に薄らいでいることも影響しているのかも知れない。

平成6年の大渇水(松山市)

実際に節水の観点から「実費」の方が適切だと考える大家もいる。
松山で複数の物件を所有する芳野精三郎さんは、かつては「定額」のマンションを所有していたが、今の物件では「実費」で請求している。
入居者とのトラブルも避けられ、透明さが担保できたという。

芳野精三郎さん

「『私はあまり水を使わないのになぜ定額なのか』と聞かれたらちょっと嫌ですよね。実費だったらそういう問題はなくなります。それに定額であれば水をたくさん使っても料金が同じだからいいだろうという人もいるかもしれません。やはり実費の方が100%いいと思います」

有坂の感想

松山市は老朽化した水道施設の更新などに必要な財源を確保するためとして、水道料金の値上げを検討している。
来年4月から実施するという市の想定は、「市民への説明が不十分だ」などという意見を受けて先延ばしされる見通しだが、将来的な値上げは避けられないだろう。
「定額」がいいのか「実費」がいいのか、地域によって事情が異なるためどちらが正解ということはないが、支払い方法に関係なく、限りある水の資源を大切に使わなければと思った。

この記事を書いた人

有坂 太信

有坂 太信

2020年入局。警察担当として事件事故を取材。趣味はラジオや野球観戦。