2022年2月15日

“住みたい田舎”1位 西条市の魅力とは

「住みたい田舎」と題して月刊誌が行った全国アンケート。
愛媛県西条市が、“若者世代”の部門で、人口5万人以上20万人未満のまちの中から、1位に選ばれました。
なんと3年連続の快挙です。
コロナ禍で、都市部から地方への移住の人気が高まっているとはいえ、西条市って全国的にメジャーなの?
西条市のどんなところが、若者の心をひきつけているのか。
隣に住んでいる者として気になり、取材してきました。

(NHK松山放送局 新居浜支局 岡本智洋)

西条市って?

愛媛県西条市。
県東部に位置し、10万6千人あまりが暮らしています。
西日本最高峰の石鎚山(標高1982m)のふもとにあり、その雪解け水が豊富な地下水を形成しています。

まちのいたるところで、「うちぬき」と呼ばれる清らかな湧き水がみられ、その数はおよそ3000か所。
西条市は、「水の都」として知られています。

秋に行われる「西条祭り」では
豪華けんらんなだんじりが加茂川を彩ります。

清らかな水による農業も盛んな一方で、海沿いには化学や造船などの工場も建ち並ぶ西条市。

平日は会社勤めして、週末には農業も楽しむ。
そんな働き方の“選択肢”があるのが、魅力のひとつだといいます。

西条市 移住推進課 石川浩二 副課長

「自然があるだけではなく、ほどよい田舎、利便性がある田舎というのも、若い人にとっては非常に重要だと思いますので。バランスがとれている点を含めて、西条市を選んでいただいているのかなと思います」

最近、移住政策に本腰

そんな西条市が移住政策に本格的に取り組み始めたのは4年前(2018年)。
つい最近のことです。
地方都市ならどこでも直面している問題=「将来の人口減少」を見据え、まちの機能を維持していくために本腰を入れたといいます。
ところが、西条市の政策は“月並みな理由”に反して「超本気!」のものでした。

「できるだけリアルに西条市の生活を体験してもらおうと、ひとりひとり希望を聞き取り、『オーダーメード型』の移住体験ツアーをやっています」

オーダーメードの体験とは

西条市では、移住後の生活を具体的にイメージできるように、希望者それぞれの家族構成や希望に応じて、市内の案内先を変えています。

子どもがいる家庭で「動物とふれあいたい」と言われたら、ヤギを飼っている農園に。
「子どもと体を動かせる場所」が希望なら、市内のアスレチック施設へ。
さらには。

「小学生の子どもがいれば、実際に学校に案内して、先生とも話をしてもらう。保育園に通う子どもがいれば、園庭に案内してどんな保育が行われているのか見てもらう。ときには不動産会社と相談して、空き物件を見てもらったり、自治会長を紹介することも」

記者「なぜ、そこまで?」

「実際に移住されてから『こんなはずじゃなかった』とならないように。また、移住者を受け入れた地域の方にも『来てくれてよかった』と思ってもらえるよう、よいマッチングができるよう意識しています。1人1人ニーズが異なるので、希望にそえられるよう意識して取り組んでいます」

実際に移住した人は

田村裕太郎さん

では、実際に移住した人は、西条市のどんなところに魅力を感じているのでしょうか。
訪ねたのは、田村裕太郎さん(26)。
石鎚山のふもとにある市営キャンプ場の管理責任者を務めています。

3年前(2019年)に東京の会社を退職し、地域おこし協力隊の1人として西条市に移り住んできました。
隊員としての任期は4月までですが、その後も西条市で暮らすことを決めています。

田村さん

「山菜を採ったり、イノシシに荒らされないよう罠を仕掛けたり。東京にいたころとは真逆の生活になっていると思うんですけど、本当に1日1日自然のなかで暮らさせてもらってるということがありがたくてうれしいです」

大学で「まちづくり」をテーマに学んだ田村さん。
卒業論文の題材探しで、日本を1周した経験がありますが、なかでも西条市は特別だったといいます。

「加茂川の水のきれいさが本当に好きで。最初に来た時に『こんなきれいな川があるんだ』と思いました。これだけの自然が、街のすぐ近くにあるのが本当に魅力的です。ここに住んでいれば、天気のいい日とか、思い立ったらすぐに自然を楽しめるというのは、とてもいいなと思います」

田村さんにとって、西条市が特別な理由がもう1つあります。
この地域でしか“味わえない”ものです。

この日、大家さんが、田村さんのために用意してくれたのは、愛媛県産のさまざまなかんきつ。「食べ比べしたらいいよ」と声をかけてくれました。
田村さんにとって、もう1つの特別なもの。
それは愛媛県産のおいしいかんきつ…ではなく、こうした地元の人との交流です。

「いつも気にかけてくれて、温かくしていただいて。本当にありがたいと思っています。皆さんが西条に対して愛があるからこそ、僕のような移住者が定着してほしいとサポートしてくれているんだと思います。そうすると僕も『西条のためにがんばっていかないとな』と思うんです」

西条市は移住策を強化へ

西条市に移住したのは、今年度(令和3年度)12月末の時点でおよそ750人。
令和元年度と令和2年度は、350人ほどだったため、すでに倍ほどに増えています。
このうち40代以下が、実に7割を超えています。

さらに西条市では、来年度、移住者を支援するための専用の施設を設けます。そこでは「移住コンシェルジュ」が常駐して、移住者からのあらゆる相談を一元的に受け入れるほか、地域の人とも広く交流ができるということです。

こうした市の積極的な政策に加え、田村さんのような若者世代が実際に移住して、SNSなどで日常の暮らしぶりを発信することで、同世代へ伝わり、また別の若者が西条市に興味を持つという、よい循環ができているそうです。

実はお隣・今治市も

今回の月刊誌のアンケート。
西条市は“若者世代”で1位でしたが、ほかの「子育て世代」「シニア世代」でも、全国2位と高い評価でした。

そして、実は、この「子育て世代」「シニア世代」で全国1位となったのが、西条市のお隣、今治市。
なぜ、隣接する2つの市が1位2位を独占しているのかといいますと・・・

なんと西条市と今治市で、互いに移住希望者を「紹介し合っている」のだそうです。
職員が朗らかに「移住者の希望を考慮すれば、隣同士、連携して対応するのは当然のこと」と話していたのが印象的でした。

全国の自治体が移住者を呼び込むためにしのぎを削るなか、“移住者の希望に沿う提案を”
この姿勢が、人気を集めるひとつの要因となっているようです。

岡本記者の感想

取材した田村さんは、西条市内の空き家や放置されている山々が「すべて宝物に見える」と話していました。
実際に田村さんは、仲間と共に、しいたけやタケノコ作りに活用しているということです。
地元では、処理に困って「問題」となっていることでも、外から見れば「資源」となる。
若者が移住することで、受け入れた地域にとっても大きなメリットがあると感じました。

今回、取材を通じて、改めて地域の魅力に触れることができました。
新型コロナの影響で、地方に熱い視線が注がれる今だからこそ、地域の魅力を積極的に発信するとともに、移住者に定住してもらえるような仕組みづくりが一層大事になると思います。

この記事を書いた人

岡本智洋

岡本智洋

2020年春まで約2年間、今治支局担当。以降は出身地の新居浜支局。地域の魅力を掘り出し中。30代前半は海外で過ごす