2022年2月10日

アフリカから愛媛の離島へ かんきつ夫婦の移住物語

愛媛に移住する人が増えています。
2020年度の移住者は2460人で前年度より29%増えて過去最高になりました。
愛媛に来た理由は皆さん様々ですが、恵まれた自然や人との付き合い方がかつて暮らした異国の地と似ていたからだと語る夫婦がいます。

(NHK松山放送局 キャスター岸本南奈)

大阪府出身の石川真里さん(32)と愛知県出身の夫の雄介さん(36)。
5年前に興居島に移住してかんきつ農家となり、みかんや伊予かんを育てています。

2人は青年海外協力隊員として活動し、2014年から2年間、アフリカ南西部の国ナミビアに派遣されました。

ナミビアの面積は日本の約2倍。砂丘が延々と連なり世界遺産にも登録されたナミブ砂漠が有名で、野生動物が多く、多様な民族が暮らしています。

かつて建設会社に勤めていた雄介さんは、ナミビアの人たちに測量などの技術を伝え、道路の修繕などにあたりました。

雄介さん

「ナミビアでは水道を設置したり道路を直したり、物がない中でいろいろ工夫していく環境でした。資材はあってもとても高価なので、お金がない中でいかに修繕して使い続けていくかを一緒に考えてきました」

真里さん(一番左)と現地の子どもたち

日本で教師の経験があった真里さんは、現地の小学校で算数と図工を教えました。

真里さん

「ナミビアでの基本的な暮らしは実は日本の私たちとほとんど変わりません。そんな中で子どもたちは教師になりたいとか、スーパースターになりたいとか、夢を持って生きていました。それで私自身も、自分らしく毎日次の1秒を大切に生きていきたいと思うようになりました」

興居島にて

ナミビアでの経験が2人の人生に大きな影響を与えました。
帰国後、2017年に2人は結婚。
真里さんはいったん名古屋で働きましたが、ナミビアの人たちのように夢を持って自分らしく生きたいと考えた2人は、松山市の離島に移住してかんきつ農家として新たな人生に踏み出したのです。

なぜアフリカから興居島へ

でもなぜ移住先に興居島を選んだのでしょうか。
興居島は人口およそ1000人。
松山市中心部にほど近い港から、フェリーで向かうことおよそ15分。
温暖で雨が少なく、日射量が多いことなどからかんきつ栽培が盛んな土地です。

実は雄介さんは、愛知県から愛媛大学に進学し農学部で学びました。
そして興居島にはみかんの収穫アルバイトで訪れたことがありました。
自然が豊かで開放的な環境の中でのみかん作りに魅了されたといいます。

一方の真里さんはナミビアから帰国後、雄介さんに誘われて初めて島を訪れた時の印象を鮮明に覚えています。

「空が広くて青い。初めてナミビアの土地に飛行機で降り立った感覚と似ていました。自然に囲まれて、そこにあるものが生き生きとしている感じも一緒でした」

2人が大切な時間を過ごしたアフリカのナミビアと、瀬戸内海に浮かぶ興居島が重なりました。

ナミビアでの経験が生きた

しかし、みかんの栽培は2人にとって初めての経験です。
園地を開拓したり、栽培方法を模索したりと様々な困難に直面しました。
しかし、ナミビアで「工夫しながら楽しんで作ること」を学んだ経験から、むしろ一からものを作る喜びの方が大きかったといいます。

2人はオリジナルのみかんを届けようと自社ブランドを立ち上げました。

一般的に箱詰めされるみかんは大きさを揃えていますが、あえてサイズ別には分けていません。
高齢の人は大きめのサイズを好む人が多いなど、客の年齢や家族構成を考慮して詰めています。

箱に中にははがきを添えています。
お礼の言葉とともにナミビアでの活動や、興居島で実現したい自分たちの夢を記して伝えることで、親しみを感じてもらいためです。
みかんを届けた客から返信が届くなど、交流の輪が広がりを見せています。

興居島で膨らむ夢

(右)ヒンバ族の典型的な家

2人には興居島に交流拠点を作るという夢があります。
目指しているのはアフリカの文化が感じられるギャラリーカフェで、建物のモチーフはナミビアのヒンバ族の伝統的な家だといいます。
店内には、みかんやジュースなどの加工品の販売のほか、ナミビアで集めた雑貨や真里さんの教え子の絵も飾る予定です。
数年後のオープンを目指し、島の新たな観光スポットの役割も担いたいと考えています。

4歳の息子と1歳の娘と

移住を成功させる鍵は

石川さんご夫婦の事例から、移住に必要なことを「えひめ移住コンシェルジュ」の板垣義男さんに聞きました。

板垣さん

板垣さん

「移住を成功させるポイントは、移住後にどんな暮らしをしたいというイメージをしっかり持つことです。そこまで具体的である必要はありません。時間に縛られたくないとか、丁寧な暮らしをしたいとかでも大丈夫です。石川さん夫婦の場合は、自然に囲まれた開放的な環境で、多少の不便さがあっても一から作り上げていくことを楽しみたいというイメージがありました。また、自分たちのことを地域の人たちに知ってもらうことも、理想の暮らしや夢の実現に近づけるためのポイントだと思います」

岸本の感想

「ないこと」を言い訳に行動しないことは簡単ですが、石川さん夫婦は「環境は自分で作る」ことを体現しています。そのあふれるバイタリティーと芯の強さを2人から感じ、同年代の者としても刺激を受けました。その強さは、広い世界を自分の目で見ようと飛び込む勇気、現状を受け入れて自らが変わる覚悟があってこそだと思います。今後の活躍からも目が離せません。

この記事を書いた人

岸本 南奈

岸本 南奈

地元の徳島局、富山局を経て、2020年から松山局で夕方のニュース番組「ひめポン!」のキャスターを務める。
地域で懸命に生きる人の思いに寄り添った取材を目指す。好きなかんきつは紅まどんなと甘平。