2021年11月2日

え、回数券がなくなる?

コロナ禍で大きく変わりゆく「きっぷ」の世界をこれまでウェブ記事でお伝えしてきました。今回取り上げるのは「回数券」です。
鉄道やバスをお得に使える身近な手段として、皆さんも一度は使ったことがあるのではないでしょうか。
その回数券、廃止される事態が相次いでいるのです。

(NHK松山放送局 後藤茂文)

回数券とは

鉄道やバスの割引きっぷとして、最もメジャーなものと言えるのが、回数乗車券(以下、回数券)です。出張族のビジネスマンなら、新幹線の回数券は目にしたことがあると思います。
10回分の値段で11回分の乗車券を購入できる、JRの普通回数券も身近なきっぷです。特に近畿圏や首都圏では、JRや私鉄の回数券がチケットショップでばら売りされていて、重宝されています。

普通回数券のほかにも、さまざまな種類があります。

回数券いろいろ

回数券いろいろ

通勤・通学需要が少なくなる平日日中や休日の利用に限定する分、1枚あたりの値段をより安く設定するなどした、時差回数券土・休日割引回数券といったものもあれば…。

放送大学の学生や通信制高校の生徒を対象にした通学用の割引回数券障害者向けの割引回数券というのも存在します。

そして、新幹線や特急を頻繁に使う人向けに、「回数券」という名前が使われた商品も、事業者ごとに多種多様に存在します。
どの回数券もお得な値段で乗車できるというメリットが利用客にあり、発売する会社にとっても回数券を売ることで多頻度の利用が見込めるメリットがありました。
そのため、回数券はお得なきっぷの定番として、長らく定着してきたのです。

消えゆく回数券

ところが、私たちにとって身近な回数券がいま急速に消え始めています。
その背景には、ICOCA(イコカ)やSuica(スイカ)といったICカード乗車券の普及、そしてコロナ禍があります。
回数券は時代に合わせて、紙のものから自動改札機に通せる磁気券のものへと変化してきました。しかし、ICカードを導入した事業者にとっては、紙のきっぷの発券や利用に伴うコストを削減したいことや、ICへのシフトを促したいことなどから回数券の発売を取りやめる動きが相次いでいます。

さらに、コロナ禍で公共交通の利用が激減し、交通事業者の経営状況が急速に悪化する中、経営改善の一環として従来の割引サービスを見直し、回数券をはじめとしたお得なきっぷの発売をやめる動きも目立ちはじめました。

京阪電気鉄道

京阪電気鉄道

去年12月、大阪と京都を結ぶ京阪電気鉄道は、回数券の利用が減少しICカードの利用が増加しているとして回数券の発売をやめました。

また、九州の大手私鉄、西日本鉄道は、コロナ禍で乗客が減少していて「ポストコロナ社会においても持続的な公共交通サービスを提供する」ためとして、ことし7月末に電車の回数券の発売を終了させました。

江ノ島電鉄

江ノ島電鉄

このほか、湘南や鎌倉といった観光地を走る神奈川県の私鉄、江ノ島電鉄も、コロナ禍で乗客が減少し、経営環境が変化したとして、回数券の発売をことし12月末に終了することにしました。

ついにJRでも…

私鉄で回数券の廃止が相次ぐ中、ついにJRでも回数券を廃止する動きが出てきました。

回数券廃止の日に発券された、JR九州の回数券

回数券廃止の日に発券された、JR九州の回数券

JR九州はコロナ禍での経営悪化を理由に、ことし6月末で、九州内で完結する回数券の発売をやめました。そして9月末には九州の玄関口・下関駅(山口県下関市)と九州の間を発着する回数券も、発売を終了させました。

北海道から九州までのJR6社は、国鉄の時代から回数券を発売してきました。分割民営化されたあとも「10枚分の値段で11枚つづり、3か月間有効」といった普通回数券のルールは6社で共通して維持されてきました。それが、ついに破られたのです。

「ICOCA」、「回数券廃止の日に発券されたJR西日本の回数券

左:ICOCA/右:回数券廃止の日に発券されたJR西日本の回数券

九州に続いて、JR西日本も、回数券にメスを入れました。
自社のICカード、ICOCAが利用できる京阪神や岡山・広島、それに北陸などの広い範囲を対象に、対象エリアの駅どうしを発着する回数券の発売を、ことし9月末に終了させました。
ICカードが使えないローカル線などでは従来どおりの回数券が発売されますが、人口の多い都市部では回数券を利用することはできなくなりました。

JR西日本は回数券を廃止する代わりに、ICOCAを利用した乗車回数に応じてポイントを還元するサービスを活用し、利便性と快適性を向上させるとしています。
しかし、このポイントサービスは、1か月間に11回以上、同じ運賃区間に乗車しないとポイントがたまらないなど、従来の回数券と比べると利便性や割引という点で劣る部分もあります。  
一方でJR九州は回数券の廃止にあわせて、自社のICカード「SUGOCA(スゴカ)」を使っての鉄道利用に対してポイントを付与するサービスも終了させていて、お得に鉄道を利用する手段がますます狭まる形となりました。

※回数券の発売を終了した事業者でも、「通学」用や「障害者」用の割引回数券は発売を続けている場合がありますので、詳しくは各社のホームページ等を参照ください

手作業の回数券が復活

回数券の廃止という厳しい話題が相次ぐ中、きっぷ収集家「きっぷ鉄」を驚かせる事態が、この秋に起こりました。

関東の大手私鉄、東武鉄道がことし9月末に回数券の発売を終了するのを前に、懐かしい補充回数券の発売を、9月半ばから始めたのです。

東武鉄道

東武鉄道

補充回数券とは、発着駅や日付をスタンプや手書きで補充して作る回数券のことで、かつては国鉄をはじめ、全国の鉄道会社で利用されてきた回数券です。
発券端末や券売機の普及に伴い、全国的に補充回数券は淘汰されていきました。東武鉄道でも新藤原駅(栃木県日光市)など、ごく一部の例外を除いて、補充回数券は久しく使われていませんでした。

東武鉄道の補充回数券

東武鉄道の補充回数券

しかし、回数券自体の発売が終了することになり、回数券を買い求める客が増加するとして、従来の券売機での発売に加えて、記念に補充回数券での発売も行うことにしました。
長らく使う機会に恵まれなかった東武の補充回数券。回数券廃止に伴って最後の記念として、いわば「在庫放出」のような形で、大手の鉄道会社では見かけなくなった貴重な補充回数券が登場することになったのです。

発売期間は2週間あまり。普通回数券時差回数券土・休日割引回数券の3種類が、東武鉄道の主要駅の定期券売り場で発売されました。
回数券廃止の直前に、懐かしい補充回数券を放出するこの企画。さっそく全国のファンが買い求めていました。
この機を逃せば東武の補充回数券を購入できる機会は2度と無い!私はなんとか時間を作り、9月下旬、買い求めに関東へ向かいました。

駅舎から離れた場所にある、春日部駅の定期券回数券売り場(埼玉県春日部市)

駅舎から離れた場所にある、春日部駅の定期券回数券売り場(埼玉県春日部市)

発売から1週間程で、池袋駅や浅草駅などでは一部の補充回数券がすでに売り切れていましたが、かろうじていくつかの駅で、私も購入することができました。

いまでは地方のローカル線に行かないと補充回数券を手に入れるのは困難ですが、首都圏で昔懐かしい回数券に触れられる、またとない機会になりました。

なお東武鉄道では、ことし9月末に回数券を廃止した一方、ICカード「PASMO(パスモ)」を使った乗車回数に応じてマイルを付与するサービスを10月から始めました。

四国の回数券は?

ここで、四国における回数券についても触れたいと思います。
JR四国では、高松市など香川県の一部を除いてICカードが利用できず、JR西日本や東武鉄道のように、回数券を廃止して代わりとなるポイントサービスを四国全域に導入できる状態ではありません。

そこで、全国的な流れとは逆に回数券の発売に力を入れています。
普通回数券のほかに、6枚のきっぷのセットを1割引で発売する「6枚回数券」という独自の商品を発売しています。この6枚回数券、あまり知られていませんが、10枚分の値段で11枚のきっぷが買える普通回数券よりも、1枚あたりの値段が少しお得になっています。

JR四国の6枚回数券

JR四国の6枚回数券

ほかにも、四国にお住まいの方なら「松山~高松」「松山~岡山」「松山~宇和島」といった区間の特急の回数券は、利用したことがあるのではないでしょうか。

そして、貴重な補充回数券ですが、四国ではJR予土線の近永駅(愛媛県鬼北町)にて、いまも現役で発売されています。近永駅は、手書きのきっぷがいまも発売されていて、全国の鉄道ファンに知られている駅です。

近永駅発行の補充回数券

近永駅発行の補充回数券

おわりに

回数券は、沿線住民にとっては、お得に使える「生活の足」でした。また、ビジネスマンや観光客にとっても重宝される存在でした。
しかし、ここ数年で相次いで廃止される憂き目にあっています。これまでに紹介してきた普通回数券だけでなく、新幹線の回数券も、年々種類を減らしています。ICカードの普及やコロナ禍での経営難といった要因が背景にあるため、回数券を廃止する動きは今後も続きそうです。

お得なきっぷが減りゆく中、コロナ禍の収束も見据えて公共交通の利用をどう促進するか、事業者や沿線自治体の工夫がますます重要になっていきます。

これまで、旅行会社の縮小やみどりの窓口の廃止、そして回数券の廃止と、きっぷ趣味の上で暗い話題ばかり取り上げてきました。

現在発売中の四国DC満喫きっぷ

現在発売中の四国DC満喫きっぷ

一方で、四国デスティネーションキャンペーン(四国DC)に合わせて、JR四国の全路線が特急も含めて3日間乗り放題で1万円という、割引率の高いきっぷが期間限定で登場しています。
ほかにも、四国DCの期間限定で多種多様なきっぷが出ているほか、観光需要の回復を見越したお得なきっぷが全国各地で登場し始めています。

こうした、乗って楽しいきっぷの話題も、どこかでお伝えできればと思います。

国鉄型気動車列車にかつて四国で使われていたヘッドマークを付けた、いすみ鉄道(千葉県)の車両。四国DCの期間にあわせて運行している券

国鉄型気動車列車にかつて四国で使われていたヘッドマークを付けた、いすみ鉄道(千葉県)の車両。四国DCの期間にあわせて運行している

この記事を書いた人

後藤 茂文

後藤 茂文

津局、大分局を経て2020年から松山局勤務。遊軍担当として、公共交通や農業、文化などを取材。全国のJR線の約97%を乗車済み。