2021年10月7日

あなたのスマホが図書館に

本を読みたい、でも図書館に行ったらコロナで休館だった。そんなことを経験した方もいるのではないでしょうか。
そんな人は必見です。スマホで本を読むことができる図書館があるのです。愛媛県内でも導入する自治体が増えています。どうやって借りるのか、どんな本が読めるのか、取材で見えてきた利点と課題をお伝えします。

(NHK松山放送局 橋本ひとみ)

電子図書館ってなんぞな?

西条図書館

西条市の市立図書館は今年6月に電子図書館を導入しました。きっかけとなったのは新型コロナです。ホームページにアクセスしてスマホなど自分の端末で読む電子図書館は、実際に図書館に出向く必要がなく非接触のためニーズがあると考えたのです。
西条市在住の人や通勤、通学などで図書館を利用している人は誰でも電子図書館を利用することができます。

使い方はとても簡単です。
電子図書館専用のホームページに専用のIDとパスワードを入力すると、

読める本がずらりと出てきます。ジャンルは児童書からビジネス書までさまざまで、図書館がテーマごとに集めた特集コーナーなどもあります。

借りられる期間は通常の紙の本と同じ2週間で、その間はページにアクセスしていつでも読むことができます。返却は「返す」ボタンをタップするだけで、手続きを忘れてしまった場合でも期限を過ぎると自動で返却されます。

なお、1冊につき借りられるのは1人まででこれは紙の図書と同じです。図書館が2冊分を購入していたら2人借りることができます。もちろん予約も可能です。

電子図書ならではの機能が、読み聞かせ機能です。小さな子どもや目が不自由な人に優しいだけでなく、何かの作業をしながら本の内容を聞くといった使い方もできます。

まだ読める本が少ない

いいことずくめのように見えますが、課題もあります。読める本がまだまだ少ないのです。
西条図書館の場合、紙の書籍の蔵書数が40万点に対し電子図書館で読めるのはわずか2000点しかありません。
愛媛県の感染拡大で8月から9月まで図書館が臨時休館した期間、電子図書の貸し出し点数は1.5倍に増えたそうですが、読める本が多ければもっと増えたに違いありません。どうして電子図書館で貸せる本は少ないのでしょうか?

西条図書館 安藤文昭 副館長

西条図書館 安藤文昭 副館長

「電子図書の導入には1冊ごとにライセンス料を支払う必要があります。西条図書館の場合、紙の図書の値段は1冊平均で1700円ですが、電子図書は平均で3300円します。しかも、電子図書で人気の本や新しい本は、貸し出し回数は52回まで、または2年以上過ぎるとライセンスが切れてしまうものもあるんです」

出版社はどう考えているのか

電子図書の方がコストが安そうな気がしますが、なぜ紙の本よりもずっと高くなるのか。出版社はどう考えているか聞いてみました。

(大手出版社A)
コロナ禍で需要が拡大したこともあり、電子図書館へのコンテンツを拡充したいと考えています。最近は全国の学校で1人1台のコンピューターを整備しているため、児童書のコンテンツ拡充も検討しています。


(大手出版社B)
図書館に行く必要がなく、非接触の電子図書館は読者や利用者のニーズがあり、電子図書の提供は今後さらに重要になると考えています。新刊の本だけではない様々な本との出会いが電子図書館でも広がればなという思いがあります。


両社とも電子図書館には前向きです。しかし、出版社側にも事情があるようです。

(大手出版社B)
すでに刊行する書籍のほとんどを、紙の本と同時に電子書籍(個人がダウンロードして購入するタイプ)でも販売しています。ただ、電子図書館に提供する場合は、あらためて著作権者の許諾を取る必要があります。そのため作業に時間がかかってしまいます。
そもそも書籍の電子化自体をまだできていないという出版社も多くあります。


(大手出版社A)
電子図書館で読む人が増えることで、紙の本と電子書籍(個人がダウンロードして購入するタイプ)の売り上げが減少するのではないかという懸念が常にあります。今の電子図書館のビジネスモデルで著作者や出版社が安定して収益を得られるか、まだ未知数なところもあります。


また図書館には、子どもたちの調べ物に活躍する児童書のニーズがありますが、児童書は執筆者のほかに監修、写真撮影など複数の権利者が関わることが多く、その他の本よりも権利の処理に時間と労力がかかってしまうそうなんです。

著作権者の理解を得て許諾の作業をスムーズにすること、それによって電子図書館に提供するタイトルが増えることが望ましいですね。

専門家は

コロナをきっかけに全国で電子図書館を導入する図書館は増えていますが、全体から見るとまだまだ少数です。電子図書館に詳しい筑波大学情報学群 高久雅生 准教授に普及に向けた課題を聞きました。

筑波大学情報学群 高久雅生 准教授

筑波大学情報学群 高久雅生 准教授

「市民側からもう少し電子図書を読みたいという声を出版社や図書館の現場に伝えると状況は変わると思います。それから電子図書ならではの付加価値をつけることも重要です。
今はコロナで移動しにくい状況が続いていますが、例えば郷土の資料などその土地に行かなければ読めないものが電子図書館で読めるようになればとても魅力的になると思います。そうした環境を整えていくことが次の展開として考えられると思います」

橋本の感想

社会人1年目の私は、去年コロナの影響で大学の図書館が休館し、卒業論文が書けないと困っていた時に電子図書館の存在を知りました。もっと読める本が多ければ便利なのにとも思っていました。
電子図書には、出版社と図書館の間に両者を取り次ぐプラットフォーマーと呼ばれる企業の存在も不可欠で、多くの関係者が携わっています。
権利関係の処理をスピーディーに行い、ライセンス料がより手ごろになるにはまだ時間がかかりそうですが、電子図書の必要性は今回取材した誰もが認めていました。
今後、どのように普及していくのか継続して取材していきます。

この記事を書いた人

橋本ひとみ

橋本ひとみ

2021年入局したばかりのほやほやの新人。まずは事件・事故を中心に担当。今の最大の関心は、北欧の図書館政策。