2021年9月9日

よみがえれ!「キハ205」 ~国鉄車両復活を目指す水島臨海鉄道~

四国からは瀬戸内海の向こう、岡山県倉敷市にある水島臨海鉄道。この小さな鉄道会社には鉄道ファンが熱を上げる「国鉄車両」が存在する。1000両を超える、日本で最も多く製造されたという「国鉄キハ20系気動車」だ。製造から60年以上たった今、わずかに残された車両を復活させようという動きが始まっている。

(NHK松山放送局 宇和島支局 山下文子)

貴重な車両が水島臨海鉄道に

2012年撮影

2012年撮影

「国鉄キハ20系気動車」は、昭和32年から昭和41年にかけて日本国有鉄道の普通列車として1126両が製造された。
車体は大型になったが、従来型より軽量で車体の前後に運転台が設けられた。
エンジンはDMH17C。国鉄が開発した独自のエンジンを積み、現在も動くものは国内に2両しか残っていないそうだがその1つが水島臨海鉄道にある。

水島臨海鉄道が所有する国鉄の車両

水島臨海鉄道が所有する国鉄の車両

水島臨海鉄道は、倉敷市内と水島臨海工業地帯の14.8キロを結ぶ貨物と旅客の事業路線だ。これまで国鉄から中古の旅客車両の譲渡を受け、使用し続けてきたことで鉄道ファンの間で知られている。古き良き昭和の車両に実際に乗車できるとあって全国から乗りに来る人も多い。
キハ20系は最大12両が在籍していたが、今は1両の「キハ205」のみが車庫に眠っている。

四国を走っていた車両

四国を走っていたキハ20系(平成3年頃)

四国を走っていたキハ20系(平成3年頃)

貴重なこの車両は四国の予讃線で運行していた。
1990年に予讃線の伊予北条駅と伊予市駅の区間が電化するまで普通列車として愛媛の人たちを乗せていた。

キハ20系車両の履歴書

キハ20系車両の履歴書

当時、水島臨海鉄道が調べた記録によると、廃車予定日は昭和62年2月とある。だが、車両の状態が「全体的に良」と判断されたことから昭和63年に水島臨海鉄道に譲渡されたということのようだ。

キハ205引退イベント(平成29年)

キハ205引退イベント(平成29年)

それからは平成29年に引退するまで、水島臨海鉄道の主力車両として活躍し続けた。

車内では国鉄時代と同じチャイムが聞ける

キハ20系に愛着を持つ鉄道マン

JR貨物から水島臨海鉄道に平成23年に入社した運輸部の車両部長、小西和雄さん(68歳)は、高校時代に毎日、キハ20系に乗っていた。その時の甘い青春の思い出が重なるという。

水島臨海鉄道 運輸部 小西和雄さん

水島臨海鉄道 運輸部 小西和雄さん

「入社当時すでにキハ205は廃車の機運が高まっていました。
でも、会社は新車を買う状況ではなかったんです。車体にはサビも付いていたし、劣化が著しく目立ちましたが、何とか残したいという気持ちがありました」


入社して15年。キハ20系のハンドルを握っていた安全推進室長の武田正信さん(48)はこう振り返る。

水島臨海鉄道 安全推進室長 武田正信さん

水島臨海鉄道 安全推進室長 武田正信さん

「まさに運転士が職人技で操作していました。アナログで扱いが難しいということもあり、人馬一体というか車両のくせを肌で覚え、感覚を研ぎ澄まして操っているという感じですかね。ブレーキも他の車両と違いました。引退して動かない姿を見るとさみしい気持ちになります。後輩の運転士にもぜひ運転してもらいたい車両でした」


入社してまだ5年の運転士、寺本和貴さん(23)はラストランに立ち会った。その時の感動を今も鮮明に覚えている。

水島臨海鉄道 運転士 寺本和貴さん

水島臨海鉄道 運転士 寺本和貴さん

「キハ20系は私が入社してすぐに引退したのですが、最後の引退セレモニーの運行に車掌として乗ったんです。車両の価値もよくわからないまま乗っていましたが、沿線沿いにそれはもう多くの人が集まっている光景を目にして『ああ、この車両は会社にとっての顔だったんだな』と感じました。
走行中にも『ありがとう20系』という声が聞こえてきて、地域のためにもファンのためにも車両を守ってあげたい。こんなに愛されている車両を自分も運転してみたいという気持ちになりました」

キハ205 復活に向けた動き

キハ205車内

キハ205車内

その眠った状態の「キハ205」を復活させようという動きが出てきた。
車両はさびつつあるものの、エンジンを起動すればまだ乾いた心地よい音がする。

そこで水島臨海鉄道は先月(8月)クラウドファンディングを始めた。

クラウドファンディング

クラウドファンディングのページ(9月9日現在)

目標金額は1300万円。コロナ禍で運輸収入が半減しているため、「キハ205」の復活を果たすには、ファンの力を借りるしかなかった。
不安を抱えながら始めたところ、初日だけで400万円が集まった。勢いは続き、なんとわずか1週間で目標を達成することができたのだ。

これには社員も驚き、この車両が多くの人に夢を与える存在であったことを改めて認識したという。
これで塗装、整備のみならず、座席シートの張り替えや、車両を風雨から守る屋根の設置費用にも充てることができる。ファンの夢である、動くキハ205を見る日がまた一歩近づいた。

キハ205

山下の感想

鉄道車両とはつくづく不思議なものだ。
車庫に眠る車両には一種の寂しさを感じるが、動く車両にはまるで生き物のようなエネルギーが満ちあふれている。
見よSL(蒸気機関車)を。煙を立ち上げながら、力強く回転する動輪の何という躍動感!
懐かしい車両が運行すると、その姿を一目見ようと人が集う。穏やかな田園地帯の沿線地域がにわかに活気づき経済効果をもたらす。
最新の車両は、乗り心地も安全性も向上しているかもしれないが、時代は進んでも人びとのノスタルジックな思いは色あせることはない。国鉄車両はそんな思いに火をつけてしまうのかもしれない。

この記事を書いた人

山下文子(やました・あやこ)

山下文子(やました・あやこ)

2012年から宇和島支局を拠点として地域取材に奔走する日々。
鉄道のみならず、車やバイク、昭和生まれの乗り物に夢中。
実は覆面レスラーをこよなく愛す。