2021年6月24日

助けられなかった命~あの日私は現場にいた~

「未然に防ぐという意味でまだできたことがあったんじゃないかなっていうのは思いますね」
9年前の7月に起きた1人の男の子が亡くなった水の事故。
助けられなかった命、あの日、現場に居合わせた男性が初めて取材に胸の内を語りました。

(NHK松山放送局 有坂太信)

楽しみにしていた川遊び

わずか5歳で亡くなった吉川慎之介くん。人思いで優しく明るい男の子でした。
事故は楽しみにしていて泊まりがけで出かけた西条市での幼稚園の川遊びで起きました。

癒えない両親の悲しみ

生きていれば今は中学生。両親は9年がたっても悲しみが癒えることはありません。

父親の豊さん

「今でもやっぱり思い出しますし今頃どうしているのかなとか、大きくなってたら
 どんな感じになってるのかなとか、そういう想像もするんですけど悲しみはなくなることないですね」

母親の優子さん

「やはり、事故があった日2012年7月20日っていうのは本当に
 今も変わらないような私の中にあるなと言うことも実感するというか」

事故後の裁判で幼稚園の当時の園長は、ライフジャケットを準備せず適切に装着させなかった過失を問われ、有罪判決を受けました。

ライフジャケットを着ていれば

息子が犠牲になった事故を忘れない。
母親の優子さんは子どもの命を守る活動を全国各地で続けてきました。
ことし5月には日本ライフセービング協会のセミナーで、ライフジャケットの大切さを訴えました。

「ライフジャケットを着用していれば今も元気いっぱいに生きていた可能性が高かった。
 事故というのはどこにでも誰にでも起こりうるものですから正しい情報、正しい知識をしっかりと得て、子どもたちと私たち自身の命も守っていかなければなりません」

あの日私は現場にいた

久保一平さん

久保一平さん

事故から9年。あの日、現場に居合わせた男性がいると聞いて訪ねました。
当時、現場近くの施設の職員として働いていた久保一平さんです。初めて取材に胸の内を語りました。

事故を知りすぐに現場に駆けつけた久保さん。
流される子どもたちをロープで引き上げましたが、全員を助けることはできませんでした。

「あれで良かったのかとかベストを尽くせたかっていうところを振り返って、そこに自分のこの整理がつかなかったですね」

思いはただ1つ・・・

久保一平さん

久保さんは今、市内でアウトドアショップを経営しています。
ライフジャケットを着ていれば慎之介くんは命を落とすことはなかったのではないか。
その思いは徐々に高まり、去年8月、自分の店でライフジャケットのレンタルを始めました。
子ども用を含め30着余りを用意しています。

「思いはただ1つ・・・子どもたちの命を守ること。」

水の事故に対する意識を高めようと、標語が入ったステッカーも店に置いています。

子どもたちに伝える

6月。

久保さんは市内の小学校に出向きました。子どもの水の事故をなくそうと、ライフジャケットの大切さを教えるためです。
まず、久保さんは西条市が山や川など豊かな自然に恵まれていることを説明しました。
子どもたちに川の危険性をわかりやすく伝えるため、市内を流れる加茂川の特徴を漫画仕立てで書いた紙を用意しました。
そして、ダムの放流中は川に近づかないことや、溺れている人を見つけた時には1人で助けにいかず、大人を呼ぶなどして複数で助けることを子どもたちに伝えました。
さらに子どもたちにライフジャケットを実際に身につけてもらいました。

(参加した児童)
「ライフジャケットがないので親に買ってもらい、楽しく安全に知識を身につけて思いきり遊びたい」
「もし溺れている人を見かけたらペットボトルに少し水を入れて投げ入れて助けたい」

「やっぱり子どもの命を守るというのが社会としては大事なのでそこを少しでも役に立てばいいかなと思って水辺に行くときは必ず、ライフジャケットは必須で着けて遊ぶというのが必ずお願いしたいですね」

事故防止は今後も

現場には5年前、水位を観測する機器が備えられました。
10分間に5センチ水位が上昇するとアラームが鳴り、危険が迫っていることを知らせます。上流での雨による急な増水に速やかに対応するためです。

(西条市危機管理課 渡部泰成課長)
「市として何が必要か、何ができるかっていうの関係部署で話し合って協議して今後も引き続き、川の事故防止に向けた取り組みを実施していきたい」

事故の教訓を生かしたい

1人の男の子の死をきっかけに広がる子どもの命を守る取り組みの輪。

母親の優子さんは水の事故をなくしたいという思いを新たにしています。

「優良な取り組みですとか、対策とかそういった事はやはり横展開していって欲しいなっていうのはあります。慎之介の事故の教訓を生かしたいという、ほんとにそういう思いなんですね」

母親の優子さんは、これまで西条市での野外での催しでライフジャケットの着用をPRするブースを開くなどしてきました。
そして、慎之介くんの死を悲惨な事故で終わらせるのでなくどうすれば防ぐことができたのか、それを多くの人が考えて共有することが大切だと話していました。

これから本格的に始まる水遊びのシーズン。

吉川さん夫妻は子どもたちの命を守る取り組みの輪が西条市だけでなく、多くの自治体に広がっていくことを願っています。

この記事を書いた人

有坂 太信

有坂 太信

2020年入局。警察担当として事件事故を取材。趣味はラジオや野球観戦。