2021年6月4日

“海上交通の難所”に沈んだ白虎

水深約45メートル

逆さになった「白虎」の白い文字。
水深およそ45メートルで撮影されました。
今治市沖の瀬戸内海で起きた日本の貨物船と外国船籍の船の衝突事故。
現場周辺は”海上交通の難所”と呼ばれる海域でした。

(NHK松山放送局 奥野 良、橋本ひとみ)

救助、そして捜索

事故が起きたのは5月27日の深夜。
午後11時55分ごろ、今治市の北西の来島海峡付近で神戸市の「プリンス海運」が運航する貨物船「白虎」(およそ1万1000トン)とマーシャル諸島船籍のケミカル船「ULSAN PIONEER」(およそ2700トン)が衝突したと通報がありました。

映像提供:今治海上保安部

事故の情報は直ちに周辺を航行していた船に伝わりました。
コンテナ船の船長、岩間孝典さんが当時の様子を語りました。

岩間さんの船はすぐに救助に向かうと、巨大な貨物船が徐々に傾いて沈んでいったということです。
さらに貨物船から1キロ以上離れた場所で救命胴衣を着けた4人の乗組員が流されているのを見つけました。
浮き輪を投げるなどして4人を自分の船へ救助したあと、低体温の危険があると考え、すぐに船内の風呂に入れ、海上保安部の船に移すまでのおよそ2時間、仲間と対応に当たったということです。
岩間さんによりますと、貨物船の乗組員たちは船の左後ろ部分に外国船の船首が衝突したと話していたということです。
この事故で貨物船の乗組員12人のうち9人が救出されましたが、船長で山形県鶴岡市の佐藤保さん(66)、1等機関士で北海道北斗市の小川有樹さん(27)、2等機関士で鹿児島県枕崎市の上畠隆寛さん(22)の3人の行方が分からなくなりました。

左:山本勝利さん 右:矢原雅史さん

乗組員の捜索には地元の漁業関係者も加わりました。
捜索に当たった山本勝利さんは「夜中の1時すぎくらいに捜索へ向かったら、すでに海上保安庁の船が10隻くらいいた。
外国船籍の船を近くで見たが船首の部分がへこんでぐちゃぐちゃだった」と話していました。
また、矢原雅史さんは「組合長から電話があって捜索へ向かったら、通常の航路を通れないくらいの船がいた。
目印がなかったので、広い海を捜すしかなかった。
沈没したことを知ったのは夜が明けてからだった」と話していました。

水深60メートルに沈没、潜水による捜索

画像提供:今治海上保安部

今治海上保安部によりますと、貨物船は右に傾きながら転覆し、衝突からおよそ2時間40分後に沈没したということです。
第6管区海上保安本部の測量船が音波を使って調べた画像では、深さおよそ60メートルの海底に船首を南西方向に向けて沈没した貨物船がひっくり返った状態になっているのが確認できます。

潜水による捜索は

映像提供:今治海上保安部
水深約45メートル~約50メートル

海上保安庁の特殊救難隊を中心に、潮の流れが弱まる時間帯をみて、断続的に行われました。
捜索は海底に沈没した貨物船の船内のうち機関士の2人が当時いたとみられる船尾付近のエンジンルームに向けて行われました。
捜索は水深がおよそ60メートルと深く、貨物船が逆さまの状態で沈没していることなどから当初、難航しました。
事故から3日後の5月30日、船内の船尾付近にある操だ機室で、2等機関士の上畠隆寛さんが見つかりました。
上畠さんはその後、死亡が確認されました。

亡くなった上畠さん

上畠隆寛さん

死亡が確認された上畠さんは、鹿児島県枕崎市にある鹿児島水産高校の卒業生です。
高校時代は、海について学びながら、野球部や海釣りなどさまざまな活動もしていて、地元の釣り具店のホームページでは、80センチを超える見事なヒラスズキを釣り上げたことが紹介されています。
3年生の時には、難易度が高いとされる内燃機関2級海技士の資格試験に合格し、枕崎市の広報誌でも紹介されました。
鹿児島水産高校の上園正彦教頭は「なんとか救助されるよう願っていましたが、最悪の結果になってしまいました。
少しでもどこか空気のたまり場で息をしていてくれたらと思っていました。
言葉が出ないほどつらいです」と話していました。

「順中逆西」特殊な航行ルート

事故現場付近の来島海峡は最も狭いところで400メートルほどの航路しかない上、1日平均500隻もの船が行き交います。
また、春から夏にかけては霧が発生して視界が悪化することもあるため、“海上交通の難所”ともいわれています。
潮の流れも速いことで知られ、海上保安部によりますと、5月27日は午後9時13分の時点で潮流が最大で10ノットになると予測されていました。
さらに特殊なのがこの海域での航行ルートです。
一般的に海では右側航行が原則です。
しかし、来島海峡では法律の定めで潮の流れる向きによって右側航行と左側航行が変わります。
潮の流れが南から北の場合は右側航行。
潮の流れが北から南の場合、左側航行です。
来島海峡の航路は馬島を挟んで東側が「中水道」、西側が「西水道」と呼ばれています。
海上保安部によりますと潮の流れに順目に乗っている場合は「中水道」、逆の場合は「西水道」を通ることから「順中逆西」と呼ばれているということです。

海上保安部によりますと、今回の事故では当時、潮の流れは北から南のため左側航行で、沈没した貨物船は「西水道」を通って来島海峡を通過したあとケミカル船と衝突したということです。
左側航行の場合、事故現場の付近は▽右側航行に戻ろうとする船と▽左側航行に変えようとする船のルートが交差しています。

海事補佐人の見方は

海事補佐人 鈴木邦裕さん

今回の事故について、船の事故に詳しい松山市の海事補佐人、鈴木邦裕さんに聞きました。
来島海峡の特徴について鈴木さんは「航路が曲がりくねって潮の流れも速い。
また、潮の流れによって航路が決まり変則的な航海が求められることが特徴だ。
難所ともいわれ、昔は事故も多かったが、今は海上保安庁の来島海峡海上交通センターがあり、事故はずいぶん減っている」と話しています。
そのうえで、今回衝突が起きた場所は、来島海峡の航路から西側に外れており、鈴木さんは当時は、潮の流れは比較的穏やかで、今回の事故に潮の流れはほとんど影響していないのではないかと分析しています。
また、この場所は、来島海峡の航路を出入りする船がすれ違う、往来が多い海域だということです。
こうした往来の多い海域を通行する際には、注意が必要だということで鈴木さんは「航海のルールを守ること。
早めに相手をよけること。
交通センターの助言を聞くこと。
基本ルールを守ることが重要だ」と指摘しています。

続く原因調査

国の運輸安全委員会の事故調査官は5月29日、救助された貨物船の乗組員から話を聞き、翌30日には現場付近に停泊しているケミカル船に乗り込み、船の損傷状況の確認や乗組員への聞き取りを行いました。
大上圭主管調査官は、「船の船首部分が特にダメージを受けていて、重大な事故であると認識した。
今後は船員から聞き取った話と航海データなどをもとに総合的に事故原因の分析を行っていく」と話していました。
また、海上保安部も双方の船の関係者から聞き取りを進め、業務上過失往来危険などの疑いも視野に海上での安全確認に問題がなかったか調べています。
1人が死亡し、2人が行方不明になっている今回の事故。
原因の究明が続いています。

この記事を書いた人

奥野 良

奥野 良

2019年入局。警察担当として事件・事故・裁判を取材。趣味はサッカー観戦で、国内だけでなくヨーロッパのスタジアムにも足を運ぶ。

橋本ひとみ

橋本ひとみ

2021年入局したばかりのほやほやの新人。まずは事件・事故を中心に担当。今の最大の関心は、北欧の図書館政策。