2021年4月1日

タオル排水で電気を作れ ~今治タオルの課題解決へ~

タオル

今治タオルで知られる今治市内の水路をよく見ると、日や時間帯によって色の着いた排水が流れることがある。ある時はピンク、ある時は青、白濁した水などさまざまな色の排水が流れ、地元ではレインボー(虹)と呼ばれ揶揄されている。

タオル

タオルを染料で染めた後、工場から出される排水が原因だ。環境基準に適合するよう処理されてはいるが、印象は悪い。色に関する規制はなく、また、色をなくすには多額の費用がかかるという。何とかできないものか。

(NHK松山放送局 森脇貴大)

日本一の老舗タオル会社社長は

藤髙社長

藤髙社長

「僕が小さい頃から排水が色で染まって、“お前のとこが出したのか”みたいなことをよく言われてたので、いつかは課題解決に取り組みたかった」

今治市の創業100年を超えるタオル販売会社「藤高」の6代目社長・藤髙亮さんは幼い頃から周囲にこんな言葉をかけられていたという。

染色風景

販売生産量日本一。1日あたりおよそ2トンのタオルを染め上げる。
タオルに使える色はほぼ無限。OEM(=他社ブランドの製品を製造する)が売り上げの主軸で、客の好みに合わせて染料を配合しするためこれまで作った色のデータは数百万色にのぼるという。当然、その数だけ排水の色がある。

藤髙社長

「次の100年に向けて会社を存続させるためにも持続可能な取り組みは不可欠になる。
これまでも瀬戸内海の厳しい排水基準に適合するように取り組んできたが、汚れだけじゃなく、色も落として無色透明の排水にするのが今後の課題になる」

救世主なるか

愛研化工機専務の岩田佳大さん

岩田佳大さん

この課題を解決しようと県からの要請を受けて動いたのが、松山市の愛研化工機だ。従業員はわずか12名と小さな企業だが、排水処理のエキスパートとして大手企業とも手を組む。色の着いた排水を脱色する技術はすでにあるものの、電気代など多額のコストがかかるという。その課題を解決するため専務の岩田佳大さんが考えたのが、ある微生物を使った排水処理方法だ。

グラニュール

見た目は黒いタピオカのようなこのグラニュールと呼ばれる微生物。排水からメタンガスを発生させる特徴を持つ。

岩田さんが考えた仕組

岩田さんが考えた仕組はこうだ。微生物の力を利用して排水からメタンガスを発生させ、それを燃やすことで、タービンを回し、電気を生み出す。その電力を排水の色を落とすエネルギーとして利用できれば、電気代の負担をなくせると考えた。工場から捨てるしかなかった排水からエネルギーを生み出し、バイオマス発電に挑戦しようというのだ。

勝算はある

メグミフーズ

メグミフーズ

実はこの微生物を使った発電は、食品排水ですでに実績がある。徳島県阿南市にある栗やタケノコの缶詰を製造するメグミフーズでは3年前から、この微生物を使った排水処理システムを採用。システム導入前は排水処理に年間1億円もの経費がかかり、会社の経営を圧迫していた。

発電機メーター

しかし、今ではこのシステムでFIT=固定価格買取制度を利用して電力を販売し、そこから売り上げを得ているのだ。一日あたりの発電量は6000キロワット。4人暮らしの一般家庭およそ320軒分の電力にも相当する数字だ。ここで発電が成功したのには訳がある。それは食品排水と微生物との相性の良さだ。

栗の缶詰などに使われる甘いシロップ

栗の缶詰などに使われる甘いシロップは商品化の過程で一部が捨てられるが、その排水には高い糖度があるため微生物による発酵が活発になり、多くのメタンガスが発生するのだ。このシステムはコロナ禍でも予想外の収益を生んでいる。工場の稼働は大幅に落ちているが、貯めていた使用済みのシロップの排水を流すことで電力を販売。本業の収入が減る中、経営の大きな助けになっているという。

タオルならではの課題

タオルの排水処理

だが、食品排水で成功したノウハウをそのままタオル排水に生かせないのが難しいところだ。タオル排水にはシロップのような糖分が存在しないため、エネルギーの回収効率が低いのが課題だ。さらに、タオルの染料に含まれる硫化水素が微生物の働きを鈍らせる性質があることも壁として立ちはだかる。

岩田さん作業

しかし、岩田さんのこれまでの研究で、タオルの生地から不純物を除去する「精錬」という作業や、タオルの強度を上げるために行う「のり付け」の工程から出る排水に、多くのエネルギーが含まれていることがわかってきた。
さらにタオル工場の排水は食品工場と比べて量が多いこともチャンスだ。回収効率の低さを量でカバーすることで一定の発電は可能だと考えている。

実証実験

この研究は、NEDO=新エネルギー・産業技術総合開発機構も注目し、実証実験に5000万円を助成している。岩田さんは課題解決に向けてこの3月から実証実験を開始。
微生物の働きを良くするための実験を繰り返し、来年度中の実用化を見据えている。

世界を見据えて

“世界一汚い川”

チタルム川

「この技術は世界が必要としている」。
岩田さんの目線の先にあるのはインドネシアだ。西ジャワ州バンドンには世界有数の繊維産業地帯が広がる。そこを流れるチタルム川は生活汚水や産業汚水が原因で“世界一汚い川”と呼ばれている。岩田さんは実際に現地に20回以上渡航、実地調査を行い、高い需要があると感じている。

テレビ電話

現地のパートナー企業と定期的にテレビ電話を行い、情報交換を続けている。
パートナー企業のヨハネス・ロマンさんは、インドネシアでも繊維産業の排水処理はコストが高いことが大きな課題になっていると話す。

岩田さん

岩田さんは次の展開を見据えている。

「今までは捨てるしかなかった工業排水の活用が最も大きなポイントだと思う。自分たちの技術で水質保護とエネルギーの両面で貢献し、『今治モデル』という形で、国内の他産地、およびインドネシア含めた海外現地の方に提案していきたい」

この記事を書いた人

森脇 貴大

森脇 貴大

2016年入局。
遊軍担当として、スポーツを中心に幅広い分野を取材。
趣味は草野球と読書。