2021年3月25日

その自転車ちょっと泊まって!

その自転車ちょっと泊まって!

「換気OK」「密集しない」「密接しない」とコロナ対策の要素がそろったサイクリングの需要はこれまで以上に高まる!と予想される今、観光事業者の間でも、新たな視点でサイクリストを取り込もうという動きが四国で加速しています。2月、その新たな観光戦略を発信するため、今治市の大三島に観光業界最前線の人たちが集結しました。スピード感ある自転車の爽快感とはまた違った魅力にあふれるそれぞれの戦略から見えてきたものとは?

(NHK松山放送局 本田洋子)

あの日私が出会った大学生たち

あの日私が出会った大学生たち

私が瀬戸内海に浮かぶ島、大三島に取材に入ったのは2月下旬。平日にもかかわらず、「サイクリストの聖地」の撮影スポットを歩いていると、自転車の大学生たちから「集合写真を撮ってほしい」と求められ、多々羅大橋をバックに最高の画角で撮影してあげました。
一行は、香川県の大学生の男の子4人組。旅行スケジュールを尋ねたところ、高松からJR(岡山からは新幹線)で広島県尾道市に入り自転車をレンタル。橋を渡って愛媛に入り大三島で1泊、島内のコースなどを楽しんだ後、夕方には今治に出て、再びJRで高松に帰るという1泊2日の強行日程でした。さすが、若さのなせるわざ!。

話を聞いてみると

「マスクをしたり、手の消毒をしたりと気になるところはあるが、コロナ禍だからこそサイクリングが楽しめました!」

1泊じゃ、もったいない

観光戦略を持った4人のスペシャリスト

サイクリストによる観光需要は着実に高まっています。しかし、わずか1泊では単なる通過点になり地域に落ちるお金は限定的です。できれば長く滞在してもらい、宿泊費、食費、イベント参加費などで地域経済活性化につなげたい。そこで2月25日、大三島に多角的な視点での観光戦略を持った4人のスペシャリストが集まり、オンラインセミナーを開催しました。

高橋幸博さん

高橋幸博さん

1人目のスペシャリストは高橋幸博さんです。北海道のニセコで、冬はスキーのインストラクター、夏はサイクリングと二足のわらじで活躍しています。17年にわたる経験で、アジアやヨーロッパなどからの富裕層を迎え入れてきました。ここ数年、愛媛の自転車文化やしまなみ海道に魅せられ、たびたび来県しています。

高橋幸博さん

海外の企業経営者など富裕層からプロガイドとして直接指名されるという高橋さん。大切にしているのは1か月に及ぶこともある日本での滞在期間を飽きさせないことだといいます。今は新型コロナの影響で外国人観光客の来日は見込めませんが、再開後に富裕層を呼び込むための秘けつを教えてくれました。

「東京ディズニーランドも人気ですが1泊か2泊すれば十分ですよね。滞在観光とはヨーロッパでは2週間以上を意味します。海外の旅行代理店は2週間以上の滞在を想定しているのでその間楽しめるメニュー、宿泊や食事、体験コンテンツ、地域の魅力が必要になるのです」

戦略[1]英国製オシャレな小型自転車

では、2週間以上魅了する観光戦略とはどのようなものか。そのひとつとして有力なコンテンツとされているのが瀬戸内の景色などをゆったり楽しむ自転車ツアーです。

英国製オシャレな小型自転車

セミナーに登壇した2人目のスペシャリスト、徳島県美馬市で旅行事業を営む榮高志さんは、イギリス製の折り畳み自転車専門のツアーを展開しています。車輪は小型ながら機動力が高く、カゴの部分におしゃれな革カバンを取り付けて、古き英国人スタイルで楽しむのが乙なスタイルです。折り畳んで鉄道に乗せることも可能で、気ままにお散歩気分でめぐる「ポタリング」が長期滞在の観光客にぴったりだといいます。

榮高志さん

榮高志さん

「サイクリングの爽快感とは違うかもしれませんが、普段自転車に乗らないとか、体力に自信の無い人も参加しています。ゆっくり景色のいいところがあったり、おいしい地元のものを食べたりしながら旅をするというコンセプトで、高齢の人も参加してくれます。四国を1週間くらいで満喫できるとか、香川・徳島・愛媛・高知を横串で通すようになればいいんじゃないでしょうか」

戦略[2]小型自転車工場で地域密着

小型自転車工場で地域密着

同じ折り畳み自転車でも、国産を推しているのは3人目のスペシャリスト、香川県の佐藤崇裕さんです。四国88か所めぐりのツアーを提供する会社を経営し、社名はそのまんま「四国遍路」。このツアーで使用しているのが、地元香川県さぬき市で生産された折り畳み自転車です。車に10台ほど乗せて目的地に着いてから組み立てます。ツアーの行程には自転車工場の見学も組み込み好評だといいます。

佐藤崇裕さん

佐藤崇裕さん

「せっかく地元に工場があるのでそこで実際作っている様子を見てもらい、自転車で周辺を走るというプログラムをやっています。役場とも連携し、地域の方と触れ合う機会も設けてツアーの充実を図っています」

戦略[3]泊まってよし、リタイアしてよし

WAKKA(ワッカ)

4人目のスペシャリストは去年3月、大三島にサイクリング総合施設をオープンさせた村上あらしさんです。この施設「WAKKA(ワッカ)」は、自転車に乗ったままスイスイと施設の中に入れます。宿泊施設はコテージやテントといった開放的なつくりが人気で、コロナの影響はほとんどないといいます。カフェをはじめ、ツアーデスクなども充実させているほか、「途中で自転車走行を断念した場合には車で輸送してくれる」といった多様なサービスも提供しています。

村上あらしさん

村上あらしさん

「しまなみのツーリズムをワンストップで提供したいという施設になっています」

アフターコロナ“四国4県の旅”が目指すこと

これらの戦略に熱い視線を注いでいるのは、セミナーを主催した四国4県の地方銀行です。例えば、村上さんの宿泊施設を拠点に、榮さんのポタリングや、佐藤さん提案の地域密着型ツアーを連携。さらに、高知を含め、四国遍路につながる旅行事業などと展開させて、旅行者の長期滞在が実現すれば…。

四国銀行地域振興部 西村純子部長

四国銀行地域振興部 西村純子部長

「サイクリング、遍路というコンテンツを使いながら、四国にいかに長く滞在してもらえるか、そして地域経済への波及効果がねらいです。今回の連携には銀行が力を発揮したい」

提案された多様な自転車ツアーには各地の地元の人たちへの理解を得ることも大切ですが、自転車を柱に四国がリゾート地として発展できれば、その先に見えてくるのは国際的な観光地だと北海道からの高橋さんはいいます。

「地域に根ざして時間をかけることが大事です。そうすれば北海道のニセコのように、観光から不動産業、運送業に影響が広がり国際会議の招致にもつながります。四国には世界のリゾート地になる可能性があると思います」

集合写真

この記事を書いた人

本田洋子

本田洋子

徳島局、松山局、盛岡局、報道局科学文化部で文化・学術、防災、エネルギー問題など取材。いまは、新型コロナウイルスが最大の関心事です。私生活では、サイクリングに夢中。