2021年3月19日

「紅まどんな」が海外流出?

紅まどんな

愛媛県が誇る高級かんきつ「紅まどんな」。その苗が海外に持ち出されて無断で栽培・販売されている可能性があることが分かりました。せっかく何十年もかけて開発した品種が勝手に栽培されてしまってはその苦労は報われません。この4月には農作物の品種を保護する「改正種苗法」が施行されます。これで流出を防げるようになるのでしょうか?

(NHK松山放送局 森裕紀)

紅まどんなが中国流出?

紅まどんな

果実を包む袋がとても薄く、ゼリーのような食感が特徴の「紅まどんな」。愛媛県が世界に誇る高級かんきつです。
県外での無断での栽培は禁じられていますが、高級な品種ほど海外に流出している可能性が高いと思い、まずは中国のネット販売サイトで検索してみました。

中国のネット販売サイト

中国のネット販売サイト

「愛媛」の文字と共に検索すると、あやしい出品を複数確認!
出品者のページには「紅美人」という記述や、紅まどんなの品種名「愛媛果試第28号」を思わせる「愛媛28号」の記述が…。出品元は浙江省や福建省とあり、栽培の様子を写真入りで紹介しています。愛媛県が開発した紅まどんなは県内でしか生産が認められておらず、苗木の販売も県内の農家に向けて行われています。このため苗木が海外に出回ることは本来ありえないのです。

海外サイト販売は相次ぐ?

海外サイト販売は相次ぐ?

調査書

取材を進めると、こうした海外サイトでの出品は紅まどんなに限ったことではないことがわかってきました。去年、農林水産省の委託を受けて国内の種苗メーカーや販売会社などでつくる団体が行った調査では、国内で開発された36品種が中国や韓国のインターネットサイトで勝手に販売されていたということです。本物かどうかは定かではありませんが、この中には愛媛県が開発したかんきつ「甘平」のほか「媛小春」である可能性がある品種も入っていました。

海外調査では栽培や流通も?

報告書

報告書

さらに、過去には韓国でも無断栽培が確認されていました。公益社団法人「農林水産・食品産業技術振興協会」が農林水産省の委託を受けて、2014年に韓国のチェジュ島で行った調査の報告書では、現地で栽培されている多くのかんきつが日本で開発されたもので、その中には紅まどんなや甘平もあったと記されています。また甘平などの食味調査の結果では「品質的に日本と大きな差はないと思われる」という気になる記述もありました。

開発10年以上

紅まどんなと甘平。どちらも愛媛県の研究機関が10年以上開発したもので、その労力は計りしれません。税金を使い、愛媛ブランドとして大事に育ててきたものが海外でタダ乗りされることはあってはならないことです。
これについて県の担当者は「海外への流出は問題で、流出対策に取り組んでいく必要がある」と話しています。

紅まどんなと甘平開発期間

紅まどんなと甘平の開発期間

ぶどうやイチゴも流出

シャインマスカット

シャインマスカット

国内のほかの品種でも海外への流出で大きな影響を受けたものもあります。その1つが皮ごと食べられる高級ブドウ「シャインマスカット」です。国の研究機関が33年かけて開発したものですが、中国産や韓国産がアジアの市場に出回り、日本産のものより安く売られていることが確認されています。
また、2018年の平昌オリンピックで日本のカーリング女子チームの選手が“もぐもぐタイム”で食べたイチゴは、日本で開発され、韓国に持ち出された品種だったことが明らかになっています。
海外に流出してしまえば、利益が国内に還元されないばかりか、輸出先で日本産と競合してしまう可能性もあるのです。

種苗法改正

こうした中、国に登録された品種を保護するための法律「種苗法」が改正され、一部の規定を除いて4月に施行されます。

※種苗法
特許のように新しい品種を開発した人の権利を守るためのもの。
国に品種登録すれば栽培などをする権利が保護される。

これまでの種苗法では、正規に購入した種や苗を海外に持ち出すことには規制がありませんでした。今回の法改正では、開発者が指定していない国や地域に、種や苗を勝手に持ち出すことが罰則の対象となるほか、農家からの流通を防ぐために、農家が自ら栽培によって種や苗を増やす「自家増殖」を行う場合も開発者の許諾が必要になります。

「海外での品種登録も」

しかし、海外への流出状況を調べた団体の担当者は、法改正だけでは不十分で、海外で積極的に品種登録をすべきだと指摘しています。

農林水産・食品産業技術振興協会 永田明 イノベーション事業部長

農林水産・食品産業技術振興協会 永田明 イノベーション事業部長

「種苗法改正によって抑止力はかなり大きくなると思いますが、違法だと知ったうえで海外に種や苗を持ち出すという行為を技術的に完全に止めるということは難しい。海外での品種登録をしないと、今後も品種は守れないと考えています」

流出を繰り返さないために

一方で、海外で権利を主張するために品種登録を行うには、手間がかかるほか、期限もあります。中国や韓国では、国内で流通してから6年以内に手続きを進める必要があります。
このため紅まどんなや甘平を中国や韓国で品種登録することはもうできないのが現状です。

みかん

愛媛県は、まだ海外での品種登録が間に合う品種については、今後、中国と韓国で品種登録をすることを検討しています。その1つが「紅プリンセス」と名付けられた新品種「愛媛果試第48号」です。
「紅まどんな」と「甘平」を掛け合わせて作られたこの品種では、国内での品種登録を進めるとともに、中国と韓国での品種登録も目指しています。

この記事を書いた人

森 裕紀

森 裕紀

2015年入局。青森局でりんごの輸出戦略などを取材。
2020年から松山局で政治・経済取材を担当。