兼題:柚子湯(ゆずゆ)「夏井いつきのアドバイス」
◆夏井いつきから「俳号」についてのお願い
①「似たような俳号」を使う人が増えています。
俳号は「自分の作品をマーキングするための印」でもあります。せめて俳号に名字をつけていただけるとありがたく、共に気持ちよく学ぶための小さな心遣いです。
② 同一人物が「複数の俳号」を使って投句するのは、ご遠慮下さい。
「いろんな俳号でいっぱい出せばどれか紹介されるだろう」という考え方は俳句には馴染みません。丁寧にコツコツと学んでまいりましょう。
◆季重なり
暖まる柚子湯につかり春を待つ まさやん
柚子湯沁(し)み干したて布団極楽や 高畑しき
[解説]
「春を待つ」、「布団」それぞれが季語。季重なりの秀句もあるが、まずは一句一季語から練習しよう。
◆今月の添削
目をあけば柚子湯の柚子は鼻の先 灰頭徨鴉
[解説]
上五「目をあけば」がもったいない書き方になっている。目を開けるということは、つむっていたということですね。どんな理由でつむっていたか、それを描くことで、柚子湯という季語の光景がさらに具体的になる。
【添削例】 うたた寝や柚子湯の柚子は鼻の先
【添削例】 瞑想や柚子湯の柚子は鼻の先
【添削例】 鼻唄や柚子湯の柚子は鼻の先
なつかしや柚子湯は熱く実家かな 重川建樹
[解説]
「や」「かな」二つの切字を一句に入れることは、感動の焦点が分散するという理由で嫌われる。
【添削例】なつかしき柚子湯の熱き実家かな
【添削例】実家あり熱き柚子湯のなつかしき
前者は実家の柚子湯に入っている感じ、後者は実家の柚子湯を思っている感じになる。
ゴルフ後のあっという間の柚子湯30分 松山のオジサン
[解説]
下五の音数があふれているので、慌ただしく感じる。もう少しゆったりとした表現にすると季語「柚子湯」が多少生きてくる。
【添削例】ゴルフ後の柚子湯につかる三十分
オートバイ体解凍柚子湯にて キユダ
[解説]
中七が無理矢理、説明した感じになっているので、普通にそのまま書こう。
【添削例】オートバイに冷えた体を柚子湯にて
港町柚子湯ありと張り紙に いの鉄橋
[解説]
中七下五が散文的な書き方になっているため、語順を替えてみよう。
【添削例】張り紙に柚子湯とありぬ港町
柚子湯ちゃぽん一つ目小僧の視線 まるかじり
[解説]
湯の中の柚子を「一つ目小僧」に見立てる発想が面白い。語順を替えて整理するとさらに良くなる。上五字余りにして「一つ目小僧」と置いてみる。
【添削例】一つ目小僧みたいな柚子を湯にちゃぽん
ドーランを落とす女形(おやま)の素の柚子湯 みうら朱音
[解説]
言いたいことは分かるが、下五まで読むと「柚子湯」に浸(つ)かってドーランを落としているように読み取れる。
【添削例】ドーランを落とし女形(おやま)の素の柚子湯
「落とし」とすると連用形になるので、落としてから次の動作に移るというニュアンスが入り齟齬(そご)が少なくなるように思う。
Jazz流し柚子湯浸(つ)かりて緩む頬 六甲颪
[解説]
下五「緩む頬」までを述べる必要はない。
【添削例】Jazz溢る柚子湯に柚子をあふれさせ
こう書けば心地よいことは伝わるので、読者はその表情をそれぞれ想像してくれる。
◆過去の助動詞「し」の使い方
「し」は過去の助動詞「き」の連体形、基本的には過去の意味になるため注意して使う必要がある。
つぶれし果の青臭きも柚子湯かな 森野しじま
[解説]
助詞「し」と「も」の使い方が気になる。「つぶれたる」と完了の言い方にするほうが多少の臨場感がある。
【添削例】つぶれたる果の青臭き柚子湯かな
還(かえ)らない父の背流し柚子湯の日 さと湯~
[解説]
「還(かえ)らない」とこの字が使われているので、亡くなったお父さんかと推測。ならば過去の助動詞を使ったほうが分かりやすい。
【添削例】父の背を流せし日ある柚子湯かな
お迎えが暗いと泣く子柚子湯待つ ごまき
[解説]
保育園にお迎えに来てくれるのが遅いので「暗いと泣く」のですね。この句材にリアリティがある。着地が「柚子湯待つ」だと、実際に湯には入ってないですね。そのあたりの時間軸を微調整して、今、柚子湯に入っている様子にもっていこう。
【添削例】お迎えが暗いと泣きし子と柚子湯
「泣きし」の「し」は過去ですから、泣いていた子と今は柚子湯に入っている、というニュアンスになる。
投稿時間:2021年12月11日 (土) 07時30分